水浴び
何とか立ち直った俺は、手に着いた土を払って周囲を確認してみた。
森の中に居るらしい、青々とした香りに癒される。
「たまにはこんな夢もいいだろう」
「しかし土といい匂いといいリアルだな、夢じゃないみたいだ」
なんだか喉まで乾いてきたので、不思議に思いつつ歩いていると、都合よく湖があった。
「さすがは夢だ。これで美少女が水浴びでもしていたら完璧なんだが」
していた。
金髪碧眼でぷっくりとした唇の美少女が、慎ましやかなお胸と見事なくびれをもった美少女が。
美少女はこちらの存在を確認するとニッコリ笑いかけてきた。
悠斗も笑顔で、ついでに手まで振ってしまった。
「ウォーターボール」
彼女はそう唱えると、拳大の水が豪速球並の勢いで悠斗の鼻面目指して飛んできた。
悠斗は魔法だ、ファンタジーだと興奮して水球に釘付けになった。
彼の意識はそこで途絶える。
「むにゃむにゃ、美少女がファンタジー。お胸はもうちょっとプリーズがふっ!?」
「寝言とはいえもうちょっと何か言う事ないの?この変態!」
「夢の中の美少女だ!夢だけど、夢じゃ」
「ストップ、それ以上は大人の都合がゆるさないわ」
彼女が何を言っているかわからなかったがすごい剣幕だった為、悠斗は大人しく従った。
「それであなたは何なの?ここは聖域。一般人立ち入り禁止なの。あなたも冒険者ならそんなの常識でしょ?」
「ほら、男はみんな女性の神秘を求める冒険者だから」
「助けて騎士様、私こいつに犯される!」
そういえばいつの間にかいかにも冒険者な服を着て、片手剣を腰から下げていた。
ファンタジーって不思議。
「冗談は置いといて目が覚めたら森の中に居たんだ、部屋で遊んでたはずなんだけど」
彼女は胡散臭そうにじーっと悠斗を見て、ため息をついた。
「まあそうじゃなければ結界のある聖域に入れないか。あなたの故郷は?」
「日本のG県で温泉が有名なところだよ」
「やっぱり迷い人ね。よく聞きなさい、ここはあなたにとって異世界なのよ。」
「あ、やっぱり」
「このものわかりのよさ、迷い人って何なのよ!伝承の通りだけど!」
「俺の世界に魔法なんてなかったし、物語じゃよくある話だし」
「200年前の迷い人も同じ事を言ったそうよ。なんでも同じ時代の日本って場所から、何百年かに一回迷い人が訪れるとか」
「それは魔王を倒すためとか」
「じゃないわ、ほぼ全員とあるダンジョンに潜って普通に帰って行ったわ」
「なにそれ凹む」
「知らないわよ。ただこのままあなたを放っておいても仕方ないから、長老に相談するわ。私は水の巫女見習いのロゼッタ、あなたは?」
「悠斗だ、よろしくな」