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幼星に添う薔薇

作者: 紅鏤輝 施園




夜と踊る。生と死とを無作為に創造する混沌を、掻き乱す様に吹く、鋭利な風に寄り添う様に。


其処から生まれ、只管に夜明けを待つ、始まりの森と為るであろう灰色の地表は、空虚な静寂の支配に眠りながら、芽吹きの時を無機質な夢の中に見ている。


壊れた星の残光が白銀の尾を引いて流れる跡から、喪われた命の欠片が降り注げば、大地に新たな種は宿り、それらは長い年月を経て、多種多様に世界を彩るだろう。


私は、世界の始まりに立ち合う事を許されし、唯一の者。


未だ黙する闇に閉ざされた、幼き星。其は無限の時が与える恩恵に拠っては、始まる以前に滅する定めに在る。


闇き宇宙を、意志も無く漂っていただけの私が覚醒し、再び自我が芽生えたと言う事は、新たな世界の誕生は既に、そう遠くはないのであろう。


私の自我が膨れ上がる程に、幼き星もその姿を形にして行く。歪な球体は宇宙の齎す数多の脅威を奇跡へと変え、軈て月を従える。


そうして生まれた、微かな月明かりの照らす灰色の地表で、私は祝福の舞いを踊り続ける。


流れ落ちた数多の星々が遺した、幾色もの鉱石の欠片を鏤めた、月光に眩く煌めく衣を纏い、灰の大地に咲き染む大輪の薔薇の如く広がる裾を翻しながら、掲げた両手で静かなる闇を抱いて。


命を育む水を湛え、清浄な大気に守られ、遥かな太陽の光が此の麗しき世界を燦然と輝かせる、その瞬間迄。


幾年月も途絶える事無く、此の身は夜と踊り続ける。


そして始まりの森に緑が芽吹き、最初の生命が産声を上げた時こそ、私は立ち合いの役目を終え、再び宇宙の闇の中を、眠る様に漂い続けるのだ。


私は世界の誕生を見守る者で在り、黙する闇に降りた、唯一の色彩でも在り、黒き静寂の中に在る事を、永遠に許されし者。


長い夜が明ける時こそ、此の自我は最上の歓びに満たされる。


軈て、時は過ぎ。


微かな月明かりが、より眩い光と熱に消えて行く。


幾重もの奇跡が育みし星に応じる様に、混沌より生まれし灰の大地に今、生命の種がその殻を割り、原初の遺伝子を解き放つ。


此より、命在る新たな世界が始まるのだ。


衣を彩る鉱石の一つ、遥かな過去に滅んだ星の遺した蒼の鉱石が、夜明けの白光に一際、鮮烈に輝くのを認め、私はその眩しい蒼を剥ぎ取る。


此の新しき世界には、此の色を贈る事にしよう……。


光が齎す虹色の煌めきを宿す蒼の鉱石を、燃え盛る太陽の照らす星へと投げる。


そして、世界が鮮明な蒼に包まれ、誕生の時を迎えた刹那――。


私の中の自我は消失し、長い長い、漂流の眠りへと落ちて行ったのだ…。




<了>





ご閲覧、有難うございました。




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