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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

肉姫

「――最高だ」

 鼻孔を刺すような臭いが立ち込める中で、男は呟いた。

 薄暗い空間。周りを見れば、ぬいぐるみの綿のように散乱した肉塊。放射を描く血飛沫。

 誰が好き好んで、このような空間に足を踏み入れようと思うのか。

 

 男が一歩踏み出すと、それに呼応するように鳴る粘着質な音。

 それは響き渡り、男の動き合わせてオーケストラとなる。それを楽しむように男は狂喜乱舞する。

 この閉ざされた空間が、男を祝福するかのように、一つの演目が始まる。

 

 重力に任せしたたり落ちてゆく、血。男に降り注ぐそれは、まるで男の汗の代わりを担っているかのような。

 舞い上がる、埃。湿気を吸ったそれは、妖麗な光を放ちながら舞台を引き立たせるようで。

 中央にたたずむ、人形。唯一スポットライトの当たったそれは、微笑みを浮かべたまま男を見つめ。

 

 男の、男による、男のための舞台は淡々と、どこか儚げに、どこか喜びに満ちて……。

 誰に見られるわけでもないそれは、男の欲求が向くままに進んでゆく。

  

 部屋に散らばる、無残な光景も、鈍く光る凶器も、申し訳なさそうに佇んでる置物も……そのすべてが、今この時のために準備されたような一つのアートとして成り立っている。

 怪しげな雰囲気を微塵も感じさせない男の嬉々とした顔は、無垢な少年を彷彿させる。

 微笑む人形には、どう映るのか。

 

 いかに洗練された劇にも終わりというものは必ずある。

 それには例外というものは無く、この男の舞台にもそれが言える。

 男は終幕すると手を取り、口づけをする。同時に遠くからは、色々な音が零れてくる。

「やっと会えたね……やっと会えたね……エリー……。あぁ、僕のエリー。ずっと待っていたんだ、君が遠くに行ってしまってからずっと……ずっと一人だったんだ……。会いたかったよ、君だけに会いたかったよ……エリー……。君は汚い雌豚どもとは違う、君は僕の天使だよ。エリー……僕は君を愛している。この世の何より君を愛しているよエリー、僕のエリー僕のエリー僕のエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリーボクノエリー……」

 暗闇へ光がさし、怒号が飛んでくる。あまりにも無骨な音、あまりにも醜悪な光景になってしまった。

 それでも男はゆがんだ笑顔を浮かべ、屈強な集団に連行されてゆく。

 男の目に映るのは自らが創り出した人形。微笑みを浮かべた彼女はどこか悲しそうにも見えた。

「サヨウナラ、ワタシヲアイシタヒト」

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