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我が家のセンマル

作者: 中路太郎

 我が家にいるセンマルは、お手伝いロボットだ。

 つるつるしたプラスティックみたいな素材の丸い体に、マジックハンドのような細長い手足が直接ついている。

 それ以外の部位はどこにも見当たらない。

 頭もないけど、真っ白な体に付いているボタンとかなんだかよくわかんない緑色に光る突起の所為で、それが顔に見えたりする時がある。

 大抵は見えない。

 小さな子供が、線と丸だけで描いた絵のような姿をしてるから、センマルって名前。




 センマルは、よく考え事をしている。

 明らかに自分の中身より複雑な事を考えては、結論を出せずに勝手に体から煙を出して、ちっちゃく爆発する。

 この間も、


「レイさん。ニワトリと卵はどちらが先なんですか?」


 コロコロ転がりながら聞いてきた。

 どこでそんな命題を聞きかじったのか、私にあんまり難しい事を聞かないで欲しい。

 ちなみに、レイさんは私のこと。

 羽鳥玲、中学一年生。


「ニワトリじゃないかしら。だって、卵が先だったら誰がその卵を産んだかわからないもの」

「なるほど」

「でも、ちょっと待って。だったら、そのニワトリはどこからやってきたのかしら?」

「それはタマ……ハッ!」


 ピーーーーーー…ボンッ!

 こんな具合。




 センマルは、料理が上手だ。

 色々な食材の料理の仕方を知っているし、調理器具の使い方なんかも熟知している。


「センマル、今日の晩ご飯はなにかしら?」

「親子丼ですよ、レイさん」

「そう。……ニワトリと、卵ね」

「……ハッ!」


 ピーーーーーー…ボンッ!

 そして、割と引きずりやすい性格だ。




 もくもくもくもくもくもく……。


「………………」


 良く、小学生に囲まれて煙を吐いているセンマルを見かける。




 センマルは、お買い物が上手い。

 商店街の人達とは顔見知りで、値切り交渉もお手の物。


「おうセンマル買い物かい?」

「はい。今朝はレイさんの元気がなかったので、こちらのお野菜を使って元気をだしてもらおうと思いまして」

「かーーーっ!嬉しいこと言ってくれるね!ほら、コイツも持って行きな!」

「ありがとうございます。これを食べればレイさんも一瞬で元気になられますね」

「いやいやいや、センマルにはかなーねーな!ほらついでにオマケだ!」


 彼らのどこをどんな風にくすぐればいいか、ツボを心得ている。




 センマルは、私が小さい頃に亡くなったおじいちゃんが若い頃に作った。

 体の弱かったおじいちゃんが、自分の代わりに大好きなおばあちゃんを守れるように。


一音かずねさんは双助そうすけさんと違って健康で元気な人でした」

「そういう部分を私はあんまり知らないけれど、豪快な人だったらしいわね」

「ええ、一度なんか『センマルはどれくらいの水圧に耐えられるの?』と海に連れていかれまして。……そもそもワタシ、海水がダメなんですけど」

「それは、災難だったわね」

「ですが、動かなくなったワタシを双助さんの所まで運んで修理してくれました。直った時には『良かった。ごめんね』って大泣きしてくれました」

「変な人」

「そうですね。他にも『……イケそうな気がする』と崖から海に飛び込もうとして、ワタシが代わりに落ちたり。そんな事が一万回くらいはあったでしょうか」


 時々、そんな風にしみじみと教えてくれる。




 センマルは、嘘が下手だ。

 おばあちゃんが亡くなった時も、下手くそな嘘を付いていた。


「…………」

「センマル」

「あ、レイさん」

「……大丈夫?」

「ワタシは平気です。レイさんこそ大丈夫ですか?」

「あんまり。でも、センマルの方がおばあちゃんと長く一緒に居たでしょ」

「平気です」

「……悲しくはないの?」

「悲しい、なんて、いくら考えても分からないことです。ワタシはロボットですから」

「そう……嘘が下手なのはそのせいね」


 私は何時まで経っても爆発しないセンマルをきゅっと抱きしめた。




 センマルは、いつも私の傍にいる。

 つるつるしたプラスティックみたいな素材の丸い体に、マジックハンドのような細長い手足が直接ついている。

 それ以外の部位はどこにも見当たらない。

 頭もないけど、真っ白な体に付いているボタンとかなんだかよくわかんない緑色に光る突起の所為で、それが顔に見えたりする時がある。

 大抵は見えない。


「レイさんレイさん。分かりました。答えはニワトリが先、です」

「そう。どうして?」

「ワタシがそう決めたからです」

「?」

「そんな事を考えている暇があれば、晩ご飯のおかずを一品増やす工夫をします。ワタシは羽鳥家のお手伝いロボットですから」

「…そうなの」


 大好きだったおばあちゃんの全部を、1000と0回守れるように。


「今日はレイさんの大好きなハンバーグですよ」

「それはとても楽しみね。そう言えば、繋ぎには卵を使ったの?」

「駄目ですよレイさん。もうその問題は解決しましたから」

「あら、残念ね。……でも、そう考えると、ヒヨコはどうなるのかしら?」

「はい?」

「ニワトリとヒヨコはどちらが先なのかしらね?ヒヨコは卵から生まれてくるわけだけれど」

「……………あぅ」


 ピーーーーーーー…



 そんな、我が家のセンマル。

別の短編「それでは~」の続きを書いている途中、息抜きとして書きました。

なんというか、休日のテンションだから書けた感じではあります。

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