永遠の闇
これは現か幻か
愛する人が深紅に染まる
【愛してるよ】
囁く声は、まだ耳の奥に響くのに
【ずっと…永遠に愛してる】
幾度も愛を紡いだ唇は、今はもう動かない
「…嘘つき…」
小さく呟いた
横たわる瞳はガラス玉
何も映さないのに、何かを見つめている気がする
「…嘘つき…だ」
もう一度呟いた
**
愛する彼は自分はヴァンパイアだと告げた
街中の寂れたバーで声をかけてきた彼
いつしか、朝も夜も同じ時を過ごし、何度となく愛を交わした
【僕は死ぬことが出来ないんだ】
悲しそうに辛そうに語った彼
【君は先に老いていくのに、いつか君がいない世界になるのが辛いんだ】
悲しい人
愛し愛されるのに、それは永遠には続かない
【君も…"同じ"なら良かったのに】
【永劫の時を、過ごせれば良かったのに】
けれど、それは愛した人が"人"という命を捨てる事
身勝手な欲求
愛しているからこそ、望めない
だけど…
『…僕も貴方を残して逝きたくはない』
彼の唇にキスをする
『貴方と共に…永遠の時を…』
そう望んで身を捧げたのに
**
「なぜ、置いていくの?」
目の前には、死を知るはずで無かった彼が横たわる
代わりに知ったのは、死ねない苦しみ
「…嘘、つき…っ」
どうしてこうなったのか
何故、共に生きられなかったのか
何故、共に逝けなかったのか
誰も分からない
それでも理解出来るのは、死が選んだのは彼で…
永久の命は自分が得たのだということ…
ヴァンパイアだというのは偽りだったように思うくらいの紅い・紅い海が広がる
「貴方と…永遠に生きていけると…思った」
叶わぬ願い
死ぬ事が許される身体
けれど、これは彼が自分に残してくれた身体
ならば、永久の闇に生きるとしよう
愛する人の血を糧にして
二度と聞くことの無い愛の睦言を忘れぬように
貴方が愛してくれたこの身体だけで
-----闇に生きるとしよう