接待で半ズボンと虫取り網、麦わら帽子を支給された件
出落ちです。ご笑覧ください。
俺は某社に勤める接待係。お前には遊ぶ才能しかないと接待部署に回されたのだ。
金も地位も権力も持ち合わせてるお客さんに振り向いてもらうにはコレしかないんだ! と社運をかけられている。
内容は社外秘どころか課外秘。いかがわしいことをしているのではと言われては意味ありげに笑ってみることにしている。
今日も今日とてお呼び出しがかかる。
今日の接待相手はこの一帯の地主である。良質な木材を神社仏閣の修繕のときに提供するために育てているという一種変わった事業をしている。
神気を宿したと言われるような木々はちょっとした廃材でも価値がある。その廃材を卸してもらっている関係上断れない相手だ。
かっちりとしたスーツで指定された場所に向かった。山だろうが海だろうとレジャー施設でも基本的にスーツだ。これはあくまで仕事での接待。遊びではない。真剣に仕事としてのお付き合いだ。
指定された場所に向かうとすでに相手は来ていた。
「すまないな。
まずはコレに着替えてくれ。車はあっちだ」
大型のワゴン車が指示された先にあった。
手元に用意された服は白いシャツとズボンである。スラックスではなく、ズボン。生地感が違う。とまどいつつ指定された先で広げた。
半ズボンだった。
正気っすかーっ! と車からドアを開けて叫びたくなった。
ここは森。虫に食われまくる森! 半ズボン、かつ半袖なんて死亡通知。美味しいみんなの食べ放題。
しかし、俺はプロだ。プロの接待係だ。
サスペンダー付き青の半ズボンだって着こなしてやる。蝶ネクタイについては丁重に無視しておくことにした。なにか、殺人事件が起きそうな気がしたからだ。
「おお、似合うじゃないか。これでお気に召すといいのだが」
「なにがです?」
「いや、な。儂も着替えよう。うむ」
そう言って相手も着替えに向かった。嫌な予感がした。
「どうだね!」
半ズボンの初老男性。しかも恰幅が良い。博士とかいいたくなる白髪がいい感じだ。
「殺人事件が起こりそうですね?」
同席していた黒服に視線を向ければびびったように俺っすか? と言っていた。
「これは神事なので物騒なことは起こらんよ」
「は?」
半ズボンのおっさんと半ズボンの老人で神事。意味がわからない。
冗談にしてもおかしなと思うが、相手は真面目だった。
「これは秘密にしていただきたいが……」
という嫌な前置きで神事が語られた。
この林及び近隣の山に一人の女神様がいらっしゃるという。
子どもが好きで、遊ぶ姿がみたいらしい。毎年、孫が担当していたがもう一番下の孫が18になりもういやっ!と拒否されてしまった。次のひ孫も一歳。無理過ぎる。
そこで、やけになって調達されたのが俺、そして、責任を取るために会長である接待相手である。
女神様にとって人間の年なんて些事。みんな子どもに違いない。そうだよ、な! ということらしい。
虫取り網や麦わら帽子を渡されつつ、そんな話を聞いて顔をひきつらせる俺。暴論が過ぎる。
祟りがあれば労災申請してやるから、なっ! とがしっと肩を掴まれた。
「そ、そっちのおにーさんもどうっすか! 数が多いほうがいいっすよ!」
素で叫んだ。お前も道連れだ、黒服。
ぐるりと黒服の方を見た会長。怪異みたいだ。
「ボーナス2ヶ月分!」
「よろこんで!」
かくして、おっさん、おっさん、おじいさん、の半ズボン隊は林に潜入することになった。そうは言っても無防備で赴くわけではない。きちんと虫除けスプレーにまぶされ、気休めの虫除けシールとリングをごっそりつけてついでに熊よけ鈴も装備した。
「リュックには三百円分のおやつが入っている。
バナナはおやつにはいらない」
黒服と思わず顔を見合わせた。
そのリュック3つあったねん。
なにそのちょっとこわいはなし。
「さあいこうか」
意気揚々と、というかやけな感じの会長は林の中に入っていった。
林の中は見通しが良かった。きちんと管理されている。下草は多いが定期的に刈っているという。きちんと林道もあり、散歩のような感じだった。
最初は……。
「カブトムシとかいますかね」
「トラップを昨日しかけておいたからいるかもしれんな。
虫かごもあるし、取っていってもいいぞ。
お、セミが」
「セミの鳴き声、なんか混声ですね……」
ミーンミーン、ジッジッジ、カナカナカナとコーラスを奏でている。なんかハモってるし。
正直うるさい。
そう思いつつ、しかけたトラップに向かった。
「おお、いっぱいるな」
会長は虫あみで確保しようとしたが、ここは素手だろう。僭越ながらと手を伸ばしたところで止められた。
「ここではおじいちゃん!だ」
「は?」
「おお、孫よ。ここは任せたぞ」
……。
無理があろうよ。と思ったけど、俺はプロの接待係。おじいちゃん、がんばるよ! とカワイコぶって言った。いい切った。
すげぇという顔で黒服に見られたけど、気にしない!
俺はプロ!
「とったどーっ!」
ひときわ大きなカブトムシを確保し、速やかに虫かごにinした。まだまだいるが、一匹でいい。黒服はえ、えぇ、俺も? とぼやいていたけど、小さいクワガタを捕まえた。可哀想にな、後で逃がしてやるよとボソボソいっていた。
そういうのは良くないんだけどわざわざ指摘することもないかと流した。
虫取りの次は川遊び。
そこでおやつを食べて、奥の方にある社にお参りして帰るだけであるらしい。日暮れまでには戻らねばならない。そうしないと神隠しにあうらしい。
らしいなのは、少なくともここ100年は出ていないからだ。
女神様は好みにうるさいからのぅと嫌なフラグを建築する会長。
……ひとまず、石切りで遊ぶことにした。水に入るのは靴の準備がないから仕方ないと説明した。ちょっと会長の運動能力が不安だから水なんかいれて溺れたり流されたりしたら、問題になる。
事故なのに捜査する側の都合で殺人事件に化ける可能性もありえる。
慣れぬ会長と黒服に指南しながら、おやつを食べつつまったりしていると時間を忘れそうである。何気なくリュックに付けた腕時計を確認すると3時だった。
「ここから社って近いんですか?」
「近いの?おじいちゃん、だ」
「近いのおじいちゃん」
「三十分くらいじゃな」
「もう3時」
「なんじゃと!」
慌てて移動することにした。その先にも狐が顔を見せたり、猫がいたり、ヤギが……。
「ヤギ?」
「おお、逃げたユキチャンではないか。帰ろう」
「そぉっすかぁ」
ツッコむのはやめた。ヤギも連れて、社へと向かう事になった。
社はきちんと整備されていた。朽ちかけているということはない。そこに一枚のお札が置いてあった。気をつけて帰ってねとだいぶ崩した文字で書かれている。しかもハートが付いている。
「おお、女神様直筆じゃ! ありがたやありがたや」
「かえりましょ、会長」
「おじいちゃん」
その設定、もうどうでもよくないですかね? といいたいのをぐっとこらえて帰ろ!おじいちゃんと返した。やはり黒服がすげぇという視線を向けてきた。尊敬の念が籠もっていそうだけど、ソッチのほうが嫌だ。
帰りは疲れた重いという会長を押しながら、どうにか入口近くまで戻ってきた。
周囲はやや暗くなってきて、夏の終わりにありがちに秋の虫の音が少し混じってくる。
「カブトムシ、お返ししていいですか?」
「なにかご利益があるかもしれんぞ」
「どうっすかねぇ?」
変なつながりはないほうがいい。
というかね。これ、遊ぶんじゃない気がしている。
黒服のクワガタも離して、お付き合いいただいたことに礼を述べた。捕まえたのではなく、一時的にご同行願っただけ。離して恩も怨も受けないやり方。
「そろそろ、来ると思うんですよねぇ」
出入り口が見えてきた。
「なにが」
そう会長が言った時に、声が聞こえた。優しい甘い女性の声。
「振り返らず、走り抜けてください。
君も」
「あなたは?」
「もちろん逃げます!」
なんなら一番で!
「ひきょうものーっ!」
「なんてやつだーっ!」
「めぇ~! めぇ~!」
「はーはっはっはーっ!」
罵倒を背後に聞きながら走り抜る。
かくして日暮れ前に林を抜けることができたのである。
入口でばったり倒れ込んだ俺達をあまりにも帰りが遅いと心配した会長の親族が回収してくれた。
なんだか微妙な顔で。
ま、まあ、半ズボンなおっさんトリオだし……。なお、ヤギはもう一度逃げたらしい。
さて、後日譚はあまりない。
神事が子どもが遊ぶ、じゃなくて、肝試しであった、ということを会長が隠していたこと以外は。ミッションクリア、御札回収、帰りにお化けにあっても振り返らない、というスタンダードなやつであったことは幸いだ。
脅かし役の女神様はたいへん楽しかったらしく、来年も来る? と聞いてきたらしい。
俺はプロの接待係である、が、新人の育成も大事だと思っている。来年は新入りを送り込むつもりだ。
なお、捕まったら三日ほど遊びにつきあわされるそうだ。彼女は廃ゲーマーらしい。
つまり、女神様の子ども指定というのは子どもならゲームやってるだろうし、付き合ってくれるに違いないという目論見ものもと。昔は、将棋、囲碁、チェスなどを嗜んでいたそうな……。その時には老人指定だったのだけど、過酷でぽっくり逝きそうなのでやめたらしい。




