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#1 転生

 今日、1人の男は自宅近くのコンビニへ向かっていた。


 彼の名は、林 武(はやしたける)。18歳。

 普段は学校には行かず家に引き籠もりアニメを見たりゲームをしたりして過ごしている。


 そんな武が何故外に出ているのかというと、答えは単純明快。飯がない。

 不登校になって2か月あたりの武は、つい先日親からの飯の供給が途絶えたのだ。

 おそらく「自分の金で飯を食え」という親からのメッセージであろう。


 人生を半ば諦め、嫌なことから極力逃げて生涯を終えようと思っていた武は、勿論働くことなんて考えてもいなかった。


「嫌だなぁ……」


 そうぼやきながらコンビニへと向かう。その時だった。

 イヤホンをつけた中学生くらいの少年が横断歩道を歩いている。そこへ、車がものすごいスピードで走ってきていた!


「暴走車……はぁ!?人いるぞ!」


 車は一向に止まる気配がない。なんなら加速し続けている気がした。

 武は少年に突進して突き飛ばした。


(あれ、俺何やってんだ)


 林武は死んだ。





 ――目を覚ますと、そこは真っ白な部屋だった。


「!?」


 思わず起き上がる。と、同時に後ろから声が聞こえた。


「あ、お目覚め?林武さん」

 振り向くとそこにはスタイルが良く美しい女性が立っていた。


「ウチは、この世界を担当してる女神。あなたは車にドカンと轢かれて死んじゃいました」


「女神......死.........? へ??」


 突然の状況に困惑してしまう。が、今さっき起きたことを思い出すと納得する。


(どうやら俺は死んでしまったらしい)


 状況の整理が進んでいく中で、武は今最も聞きたいことを聞いた。


「えーと...まず質問させてほしいんだけど。俺が突き飛ばした子って無事なの?」


「あ~、あなたのおかげで無事ですよ。良かったですね!」


 女神は手でグッドマークを作る。

 ほっとした。武の死は無駄じゃなかったわけだ。武が安堵のため息をついていると女神は続けた。


「それじゃ早速、本題に入らせてもらうね。あなたには異世界転生する権利が与えられました~」


 武は自分の耳を疑った。まさかの異世界転生。いや、展開が早すぎる。

 呆気にとられている武を余所に女神は話し続ける。


「ちなみに特典として能力がついてきますし、異世界の言語を喋れるようにしてあげます。どうです?悪い話ではないでしょう」


(確かに悪い話じゃない)


 そう思った武だったが、その頭の中には大きな疑問がある。


「どうして俺なんだ?」


 武がそう聞くと女神は答える。


「元は暇つぶし、私ってこう見えてかなり暇なんだよね~。だからこうやって若いうちに死んでしまった人達を異世界に転生させてあげて、それをエンタメとして鑑賞してるの。あ、勿論プライバシーは守ってるから安心して!」


 プライバシーは守られているらしい。気にするべきはそこではない気もするが……


「それで異世界には合計5人になるように送ってるんだけど、あなたが死んだときに丁度あっちでも一人死んだんだ~。それで君が選ばれたってわけ」


(成程。つまり俺以外に4人の転生者がいるってわけか……)


 間髪入れず女神は聞いてくる。


「それで?君は転生してくれるのかな」


 彼女の問いに俺は即答した。


「モチのロン!」


  アニメで見た異世界転生を、まさか自分自身が体験するとは思っていなかった武は、わくわくしていた。


「それじゃ飛ばすね。あ、あと言い忘れてたけど運が悪いと一瞬で死んでしまうようなところに落ちるから」


 言い終わるやいなや、武の体は宙に浮いていた。武の周りの地面が急に消えたのだ。


「それを先に言えええええええええええええええ!!」


 叫びながら落ちていくのを見て女神は手を振るのであった。





 林武、砂浜にて本日三度目の起床。


 右を向けば透き通るように綺麗な海、左を向けばジャングルを連想させる密林。

 見慣れない景色が、自分は異世界転生したのだと武を実感させる。


 武は起き上がり、まずは人がいないかを確認した。が、見渡しても誰もいないし、人がいた痕跡すらない。


「まぁ、浜辺だしな。島の中に入っていけば誰かしらいるだろ」


 武は、一瞬嫌な想像をしたが、まさかな...と思い、考えないことにした。


「ひとまず能力ってのを確認するか......」


 武はそう言いながら腕を前に突き出し、お決まりの言葉を放った。


「ステータスオープン!」


(異世界ものといえばこれだろ。能力のこともそれで調べられる)


 そう考えた武はステータスを見るため口に出してみたのだが......


「何も出ねぇ......」


 そう、どこを探しても武のステータスは見つからなかったのだ......

 思い返せばそういう説明は一切受けていない。


「おいおい、それじゃぁどうやって能力を把握しろってんだよ!」


 どんな能力をもらったのか、どうやって発動するのか。そもそも能力ってどういうやつなのか。

 何もわからない武はとりあえずゲームやラノベで聞いたことあるやつを唱えまくってみた。


「ファイアーボール!ウォーターキャノン!サンダーショット!〇ガンテ!エクス〇ロージョン!エル・〇ーニャ! ――――――」


  ――どのくらい唱えたのだろうか。

 気づけば、日は傾き海は紅に染まりつつあった。


 武は結構な時間こうして唱え続けていた。が、何かが起こることは決してなく、何の成果も得られずじまいに終わった。


「うん。こんなことしてる暇があったら人を探しに行ってた方が良かったな......」


 武はようやく気付いた。そうして人を探すため、悲壮感に駆られながら島の中へと入っていったのであった......



 入ったは良いものの、武にとってこの島の中はまさに地獄だった。

 理由はただひたすらに虫が多い。

 現代っ子である武は虫が超苦手で人探しどころではなかった。 ちょうど木々が少ない、開けた場所を見つけ休憩することにした。


「くそぉ、踏んだり蹴ったりじゃねぇーか。もらった能力は使えねーし、人には会えねーし、虫は多いし......」


 ぶつぶつと文句を垂れ流す武。その周囲は無情にも暗くなり続けている。


「それにしてもまずいな、俺野宿したことねぇぞ......」


 と、独り言をもらした、そのときだった。


 ――ガサガサッ


 横から物音がしたのだ。そこには確かに人影が2つある。希望が見えた!

 武は第1・第2村(?)人へと声をかけた。


「おーい、あんたら!ちょっと待ってくれぇ!」


 そう言って近づくと武は違和感に気づく。呻き声がするのだ、それもいろんな方向から。2つの人影からも......

 まさかと思い足を止める。そして、人影はこちらに顔を向ける。武はそれを見て驚愕した。

 片方は白目をむいていて、もう片方の片目は飛び出していた。双方共に両腕を無気力に前へと突き出し、全体的に小汚かった。


「が......あ.........」


「あ、うぅ.........」

 

 呻き声はやはりその2人から出ていた。そう、こいつらは俗に言う、


「ゾンビ……」


 武は咄嗟に逃げ出す。


(まずいまずいまずい。逃げなきゃまずい!とりあえず海へ入れば追ってこれないはず……)


 武は最初にいた浜辺に行こうとした。が、虫に気をとられすぎていて浜辺へのルートを覚えられていなかった。

  それではどの方向に逃げれば良い?考える暇もなく、ワラワラとゾンビ達は集まってきていた。


「畜生!なんで、こんなことに……っ!」


 武は全力で走って逃げた。が、引き籠もりだった武がうまく走れるわけがなく。


 ――ドサッ


 武は転んだ。

 ゾンビが群がるように、一斉に武の体へと雪崩れ掛かってくる。


「ッ……!」


 ゾンビは意外と重く、苦しい。武は身動きが取れなくなり、直後体のいたるところに激痛が走る。


「ひぎぁぁぁっ!!」


 ゾンビ達が武の体を貪るように嚙みついてきてるのだ。

 武は痛みと恐怖で絶叫し、大粒の涙を流した。


「痛い痛い痛い!助けてっ……!助けて、くれぇ……!」


 助けが来るはずもなく、抵抗もできずに嚙まれ続ける。


「どうしてっ!俺が何かしたかよ……この俺がっ、何したってんだよ!?」


 そのとき、武は自分で発した言葉に反応する。


 武は、嫌なことから逃げ続けた。学校に行かず、家事も碌にせずに、ゲームを1日中していた。親に、何も言われたくないからと顔を合わせないようにもした。

 武は、怠惰でクズな親不孝者だった。


 武の、ゾンビに対する恐怖はいつの間にか、自分を育ててくれた両親への謝罪の気持ちへと変わっていた。


「ごめんなさい......ごめんなさいぃ……っ」


 泣きじゃくる武の周りから、ゾンビは既に消えていた。

 すでに喰うべき肉はないと思われたのだろうか。


 武の視界はぼやけ、意識がもうろうとしてくる。冷たくなっていく体で、武は自分の『死』を確信した。


「死にたく……ねぇ………」


 死ぬことに関しては、日本にいるときはなんとなく覚悟してたし、別に怖くもなかった。

 そんな武は今、死にたくないと感じている。生きたいと感じている。ひたすらに、助かりたいと感じている。


 ふと、その時。ぼんやりとした視界の中に黒い球が見えるのがわかった。


「よお、人間。酷いありさまだなぁ」


 近くに人がいるとは思えないし、何より球が目の前にあったからわかる。

 その声は黒い球から発せられていた。


「誰...だ......」


 武の問いに黒い球は答える。


「俺か?そうだな......俺は悪魔だ。俺はお前に契約を持ち掛けにきた」


「契......約.........?」


「そうだ。俺が今からお前の体を直してやる。その代わり俺をお前の体に入れろ!」


 意味がわからなかった。

 でも、この悪魔は言った「お前の体を直してやる」と......

 武は迷わず答えた。


「わかっ...た......。その......契約、のっ......た」


「言ったな」


 悪魔はそう言うと、強引に口の中へと入っていく。


「ごふっ、う、ぇ......っ!」


 それは非常に気持ちが悪く、度々嘔吐感がこみあげてくる。

 悪魔が体の中に入りきると、次に訪れたのは激しい苦しみだった。


「ぐああああああ……っ!」


 痛みとは違う経験したことのない苦しみに絶句する。


 直後、全身噛まれて血だらけになっていた武の体は再生し始めた。

 痛みや苦しみが、まるで時間を逆行するように消えていく。

 武の身体は傷が消え、完全復活を遂げていた。


(凄い......治った、のか......?)


 武は体を起こそうとするが、うまく動かない。

 そんな中、武の体は、武の意思とは関係なく動き出す。


「うまくいったか......」


 喋ろうとなんかしてないのに、勝手に口が動く。武の体は特定の方向をジッと見つめるなり、


「あいつ、いらないことしやがって」


 と、何やら訳のわからないことを言い、禍々しい形の羽を生やし始めた。


「とりあえず、とっととこのクソみたいな島を出るか」


 刹那、武の体は飛んだ。落ちたら死ぬであろう高さへと急上昇し、そのまま滑空し始めた。


「氷雪族の島か、近くて助かる。それにしても、まさかこんなところで体を手に入れることができるとは」


 武は唖然とした。


(まさか、裏切られたのか?)


「恨むなよ小僧……この俺がいなければお前は死んでいたんだ。この体は俺が使わせてもらう」


(……ふざけるな)


「は?」


 悪魔の脳内に武の声が響き渡る。


(誰が俺の体をやるっつったんだよ!返しやがれ!)


 ガクン、と空中で武の体は痙攣した。武は体の主導権を取り返そうとする。


「ば、馬鹿…落ち着け!ここでお前が主導権を握ったとして、俺達は何もできずに落ちていくんだぞ」


 悪魔には焦りが見えた。


(羽があるじゃねぇか。それとも何だ?これが俺の能力なのか?)


「? 何を言ってるんだ。お前の能力はヤ……」


 言い終わるよりも早く武は体の主導権を取り返していた。


「やべっ!能力は聞いておきたかったな……」


 そんなことを言いながら武は後ろの羽を確認した。

 結果は見事に消えかけていた。


「あっれー……ッ!?」


 武は真っ逆さまに白銀の島へと落ちていった。

よろしければ、誤字、脱字、漢字間違い、文法的におかしい部分などを見つけた場合ご指摘お願い致します。

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