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ロスカットされなかった命

書きたいものが多すぎてとにかくたくさんここに吐き出します。修行の意味も込めて頑張ります

暗い部屋の中で、マルチモニターの青白い光だけが、私の震える指先を照らしている。

かつては富の象徴だったその画面には今、悪魔の爪痕のような垂直の赤い線が刻まれていた。数分前まで「2億」と表示されていた資産残高は、瞬きする間に消失し、今は見たこともないマイナスの数字が、血の色のように赤く点滅している。

損切りラインとして引いたはずの水平線は、暴落という名の津波に飲み込まれ、何の意味もなさないただの「ゴミ」と化していた。そして私は静かにペンを握る


「日本で活躍している投資系インフルエンサーのみなさんへ

 あなたたちのおかげでトレードで2億という資産を築くことができました。しかし、今回の大暴落でとんでもない窓が発生し損切りを入れていたにもかかわらず正しく執行されませんでした。結果として5000万円の借金を背負うことになりました。

こんな結果にはなりましたがあなた達には感謝しています。もし来世でお会いできたら一緒にお酒でも飲めたらいいですね。さようなら

              羽鳥零より」


書き終えた手紙を、血のように赤いモニターの前に置く。

その瞬間、スマホが震えた。かつて憧れたインフルエンサーの新着動画通知。

『暴落はチャンス! 逃げる奴は一生弱者』。

私はそれを一瞥もせず、画面を伏せた。

2億の夢が、マイナス5000万の現実に変わるのに、10年もかからなかった。

生きるための証拠金は、もう一銭も残っていない。

私は窓を開けた。

そして、そのまま夜の闇へと飛び降りた。

まるで、下限の見えない暗転の中、窓を開けて暴落していくチャートそのもののように。

加速する重力。遠ざかる都会の光。

「……こんなもんか」

すべてを清算し、意識が千切れる寸前。

風の音に混じって、聞いたこともないほど低く、色気のある声が脳内に響いた。

「……坊主、お前も『底』まで落ちたか」

声の主は、愉快そうに鼻で笑う。

「だがな、相場も人生も、本当の勝負は底を打ってから始まるんだ。死ぬには、まだ含み益(伸びしろ)が足りないぜ」

それが誰だったのか、今の私には分からない。

ただ、叩きつけられるはずの衝撃の代わりに、鼻腔をくすぐったのは——。

この時代にはありえない、最高級の葉巻の香りだった。

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