第9話 外の世界の魔道具
冷却箱は静かに冷気を出し続けていた。
女性――村人のミアは、それを少し嬉しそうに眺めている。
「本当に動いた……」
どうやら大事な魔道具だったらしい。
「ありがとうございます、レオンさん」
ミアは丁寧に頭を下げた。
俺は苦笑する。
「大したことじゃないですよ」
ただ魔石の接触不良を直しただけだ。
でも。
俺はもう一度冷却箱を見た。
「これ、隣町の商人から買ったんですよね?」
ミアは頷く。
「はい。半年くらい前です」
俺は魔法陣を指でなぞる。
……やっぱり。
村の魔道具とは少し違う。
「設計が新しい」
ガルドが首をかしげた。
「新しい?」
俺は説明する。
「村の魔道具より効率がいいです」
魔力の流れが少し洗練されている。
無駄なラインも少ない。
とはいえ。
「それでもまだ無駄が多い」
俺は思わず笑った。
ガルドが呆れた顔をする。
「どんだけ厳しいんだよ」
「いや、プログラムとして見ると…」
途中で説明をやめた。
どうせ伝わらない。
だが俺の中でははっきりしていた。
この世界の魔道具。
技術はある。
でも。
最適化されていない。
つまり。
俺のやれることはまだまだある。
ミアが冷却箱を抱えながら聞いてきた。
「レオンさんって」
「王都の魔道具師なんですか?」
ガルドが吹き出した。
「違う違う!」
「こいつ王都から追い出されたんだ!」
「ガルド」
俺は苦笑した。
ミアは驚いた顔をしている。
「え?」
少し気まずい空気になる。
まあ隠す話でもない。
俺は肩をすくめた。
「役立たずって言われまして」
ミアは言葉を失った。
そして小さく呟く。
「……そんなわけない」
その言葉に、俺は少しだけ驚いた。
だがガルドは大笑いしている。
「王都の連中が見る目ないんだよ!」
その時だった。
外から馬の音が聞こえた。
パカパカと蹄の音。
ガルドが窓を覗く。
「あ?」
少し驚いた顔をする。
「珍しいな」
「どうしました?」
俺も外を見る。
村の入り口に荷馬車が止まっていた。
見慣れない紋章の旗が立っている。
ガルドが小さく言った。
「商人だな」
「商人?」
「ああ」
ガルドは腕を組む。
「この村に来るのは珍しい」
ミアが少し不安そうな顔になる。
「もしかして…」
「魔道具の商人?」
ガルドは肩をすくめた。
「たぶんな」
その時。
外から村人の声が聞こえた。
「ガルドー!」
「レオンー!」
どうやら呼ばれている。
俺とガルドは顔を見合わせた。
そして外へ出る。
村の入り口には、立派な荷馬車が止まっていた。
横には男が立っている。
三十代くらい。
整った服。
商人らしい雰囲気だ。
その男は俺たちを見るとニヤリと笑った。
「あなたがレオンさんですか?」
俺は少し驚いた。
「……そうですけど」
男は軽く頭を下げた。
「私は商人のベルクと申します」
そして。
こう言った。
「あなたの噂を聞きましてね」
俺とガルドは同時に言った。
「噂?」
ベルクは笑う。
「ええ」
「魔道具を五分で直す男がいると」
俺は思わずガルドを見る。
ガルドは口笛を吹いていた。
どうやら。
噂はもう。
村の外まで広がっているらしい。




