第8話 最初の依頼
レオンがリンド村に住み始めて三日が経った。
村長の言っていた空き家は、小さいながらもきちんとした家だった。
木造の平屋で、寝る場所と作業用の机がある。
何よりありがたいのは――
「作業できる場所があることだな」
机の上には、壊れた魔道具がいくつも並んでいる。
ランプ。
暖房機。
水車の制御装置。
この三日で、村中の壊れた魔道具が全部ここに集まった。
まるで修理工場だ。
俺はランプを手に取る。
魔法陣を確認。
「はい、バグ」
削る。
「はい、修正」
カチッ。
ランプが光る。
「……三十秒」
思わず呟いた。
ガルドが横で笑う。
「もう慣れてきたな」
ガルドはこの三日、ほとんどここにいた。
暇なのか、それとも面白いのか。
「いや、この世界の魔道具」
俺は暖房魔道具を手に取った。
「設計が雑すぎます」
魔法陣の構造がかなり古い。
しかも無駄が多い。
プログラマーの視点で見ると、バグだらけだ。
「王都の魔道具師ってすごいんじゃないのか?」
ガルドが聞く。
俺は少し考えた。
「たぶん」
「作れるけど理解してない」
「……?」
ガルドは首をかしげた。
俺は説明する。
「例えば」
「料理人がレシピ通りに料理は作れるけど」
「材料の化学反応を理解してない感じです」
ガルドは腕を組んだ。
「なるほど」
「つまりお前は…」
「料理の仕組みを知ってる?」
「そんな感じです」
俺は暖房魔道具を修正する。
魔力制御ラインを整理。
無駄な回路を削除。
カチッ。
暖房魔道具が動いた。
温かい空気が出る。
ガルドが目を丸くする。
「直すの早すぎだろ」
「慣れてきました」
そんな会話をしていると。
コンコン。
家の扉が叩かれた。
「レオンさん」
聞いたことのない声だ。
俺は扉を開けた。
そこには若い女性が立っていた。
村人だろうか。
茶色の髪を後ろでまとめている。
少し緊張した顔だ。
「どうしました?」
女性は小さく頭を下げた。
「魔道具を…見てもらえませんか」
俺は頷いた。
「もちろん」
女性はほっとした表情になる。
手に持っていた箱を差し出した。
小さな金属箱だ。
表面には魔法陣。
「冷却箱です」
女性が言った。
「保存用の…」
なるほど。
食材保存用の魔道具だ。
だが今は止まっているらしい。
俺は机の上に置いて魔法陣を見る。
そして。
「……」
数秒で分かった。
「これ」
「壊れてないですね」
女性が驚いた。
「え?」
ガルドも覗き込む。
「壊れてない?」
俺は魔法陣を指差した。
「魔力が切れてるだけです」
この魔道具は魔石の魔力で動く。
そして魔石は電池みたいなもの。
当然。
使えば減る。
「魔石交換すれば動きます」
女性は驚いた顔で言った。
「でも魔道具屋では」
「壊れてるって言われて…」
俺は苦笑した。
たぶん魔道具屋は。
直すより売る方が儲かる。
俺は魔石を外して軽く削る。
接触不良を修正。
そして戻す。
カチッ。
次の瞬間。
箱の表面が淡く光った。
冷気がゆっくり流れ始める。
女性が目を見開く。
「動いた…」
「すごい…」
ガルドが笑う。
「こいつ、何でも直すぞ」
女性はしばらく冷却箱を見ていた。
そして俺の方を見る。
その目は、少し尊敬が混じっていた。
「ありがとうございます」
「お礼を…」
俺は手を振る。
「いえ、いいですよ」
でも女性は首を振った。
「だめです」
「これは…村の外から持ってきた魔道具なので」
俺は少し気になった。
「外?」
女性は頷く。
「はい」
そして小さく言った。
「隣町の商人から買いました」
その瞬間。
ガルドと俺は顔を見合わせた。
商人。
つまり。
村の外の魔道具。
俺は少し笑った。
「それ、もっと見てもいいですか?」
女性は不思議そうな顔をした。
だが頷く。
俺は冷却箱の魔法陣をじっと見た。
そして思う。
この世界。
まだまだ面白い魔道具がありそうだ。




