第6話 最初の仕事
井戸の魔道具が直ったその日の夕方。
俺は村長の家に呼ばれていた。
木造の小さな家だが、この村では一番大きいらしい。
中にはガルドと村長、それに数人の村人が集まっていた。
どうやらちょっとした会議らしい。
村長がゆっくり口を開いた。
「レオン」
「はい」
「お前は魔道具を直せる」
確認するような言い方だった。
俺は肩をすくめる。
「今のところは」
村人たちがざわざわする。
まだ信じきれていないらしい。
村長は腕を組みながら続けた。
「この村には壊れた魔道具がいくつもある」
「井戸の他にも、畑の水車、粉挽き機、暖房、ランプ…」
ガルドが横から笑う。
「全部止まってるぞ」
「……」
それはなかなか酷い状況だ。
つまりこの村では。
魔道具は壊れたら終わり。
新しいものを買う金もない。
「直せるなら助かる」
村長はそう言った。
「もちろん、ただでとは言わん」
その言葉に村人たちが少し緊張した顔になる。
金の話だからだろう。
だが俺は首を振った。
「最初はお金いりません」
一斉に視線が集まった。
ガルドまで驚いている。
「おいおい」
俺は笑った。
「その代わり」
「直した魔道具を少し調べさせてください」
村長が目を細める。
「調べる?」
「魔法陣の構造を見たいんです」
これは本音だ。
この世界の魔法技術。
まだ全然分かっていない。
いろんな魔道具を見れば、知識が増える。
プログラムも覚えられる。
つまり。
技術が上がる。
村長は少し考えてから頷いた。
「いいだろう」
そして村人たちを見回した。
「異論はあるか?」
誰も手を挙げない。
むしろ歓迎ムードだ。
ガルドがニヤニヤしながら言った。
「タダで直してくれるなら最高だろ」
村人たちが笑う。
その空気を見て、村長も少し口元を緩めた。
「では決まりだ」
「レオン」
「はい」
「この村の魔道具を見てくれ」
俺は頷いた。
こうして。
俺の異世界での最初の仕事が決まった。
───
次の日の朝。
俺はガルドに案内されて村を歩いていた。
最初に来たのは、村の中央にある小屋だ。
中には大きな機械が置いてある。
「これが粉挽き機だ」
ガルドが説明する。
小麦を粉にする装置らしい。
魔道具の動力で石臼を回す仕組みだ。
だが今は止まっている。
俺は装置に近づいた。
魔法陣を見る。
そして。
思わず吹き出した。
「ぶっ」
ガルドが驚く。
「どうした!?」
「いや…」
俺は魔法陣を指差した。
「これ設計したやつ、かなり適当ですね」
「は?」
ガルドは意味が分からない顔だ。
でも俺には分かる。
無駄な回路。
重複処理。
しかもエネルギー効率が悪い。
「これ直すだけじゃなくて」
「改造できます」
ガルドが目を丸くする。
「改造?」
俺は頷いた。
「今の三倍くらい速く回せます」
ガルドはしばらく黙った。
そして。
「……マジ?」
俺は笑った。
「マジです」
もしこれがプログラムなら。
最適化なんて簡単だ。
むしろ。
こんな非効率な設計の方が珍しい。
俺は小さな石を拾った。
そして。
魔法陣のラインを少し削る。
処理順序を変更。
魔力制御を簡略化。
無駄な命令を削除。
数分後。
「よし」
俺は立ち上がった。
「回してみてください」
ガルドが恐る恐るレバーを引く。
次の瞬間。
ゴォォォン!
石臼が勢いよく回り始めた。
「うお!?」
ガルドが後ろに下がる。
今までの三倍どころじゃない。
かなり速い。
しかも。
振動が少ない。
安定している。
「なんだこれ!?」
ガルドは目を見開いていた。
俺は肩をすくめる。
「最適化しただけです」
ガルドはしばらく機械を見ていた。
そして。
ぽつりと言った。
「兄ちゃん」
「はい?」
「お前」
「とんでもない奴じゃないか?」
俺は苦笑した。
たぶん。
俺自身も。
まだ分かっていない。
この能力が。
どれだけヤバいのかを。




