第47話 最初の灯り
研究所予定地。
仮設工房の外に、簡易の杭が打ち込まれていた。
その周囲に描かれたのは――巨大な魔法陣。
地面と接続された円形構造。
中心には、箱型の装置。
レオンが手をかざす。
「これが第一試験機です」
隣には
ミレナ・アストラ。
さらに後ろには
セレスティア・フォン・アルヴェリア、
アルベルト・グランディス、
伯爵、ディラン。
全員が揃っていた。
アルベルトが低く言う。
「本当にやるのか」
レオンは頷く。
「はい」
ミレナが補足する。
「出力は最低限に抑えています」
ガルドは少し離れて腕を組んでいた。
「暴走したら止める」
レオンが言う。
「爆発でですか?」
ガルドは笑う。
「それが一番早い」
レオンはため息をつく。
「やめてください」
王女が言う。
「始めなさい」
その一言で空気が張り詰める。
レオンは魔石に手を置く。
深呼吸。
「起動します」
――ブゥン
低い振動。
地面に描かれた魔法陣が光り始める。
円が、線が、順番に。
ミレナが息を呑む。
「安定してる…」
アルベルトが目を細める。
「地脈との接続も問題ない」
レオンが集中する。
「供給開始」
中心の装置が強く光る。
その瞬間――
カチッ
小さな音。
工房の中に置かれた試験用の魔道具が――
光った。
全員がそちらを見る。
小さなランプ。
それが、ゆっくりと明るくなる。
炎ではない。
魔力の光。
ミレナが呟く。
「……点いた」
誰の魔力でもない。
魔石でもない。
外部供給。
レオンが小さく言う。
「成功です」
沈黙。
次の瞬間。
ディランが笑った。
「これは売れますね」
伯爵が低く言う。
「いや」
「それどころではない」
アルベルトが前に出る。
ランプをじっと見る。
「魔道具の概念が変わる」
王女は静かにその光を見つめていた。
そして言う。
「これが」
「未来ね」
レオンは頷く。
「はい」
ミレナが震える声で言う。
「家庭で使えるレベルまで落とせば…」
レオンが続ける。
「夜でも明るい」
「誰でも使える」
ガルドが笑う。
「つまんねえな」
レオンが即答する。
「最高ですよ」
ガルドは肩をすくめる。
「まあ」
「爆発しないのはつまらんが」
その時。
ミレナが気づく。
「待ってください」
レオンが振り向く。
「どうした?」
ミレナは装置を見る。
「魔力の流れが…増えてる」
アルベルトの表情が変わる。
「何?」
レオンもすぐに確認する。
確かに。
魔力が増幅している。
「おかしい…制御はしてるはず…」
次の瞬間。
――ブゥン
振動が強くなる。
ガルドが笑う。
「来たな」
レオンが叫ぶ。
「来てないです!」
ミレナが叫ぶ。
「共振が発生してます!」
アルベルトが言う。
「切断しろ!」
レオンが操作する。
「やってます!」
だが――
止まらない。
魔法陣がさらに強く光る。
地面が震える。
王女の護衛が前に出る。
「王女殿下!」
セレスティアは動かない。
ただ見ている。
レオンは歯を食いしばる。
「ミレナ!」
ミレナが即答する。
「補助陣を追加!」
二人で同時に魔法陣を書き換える。
即興。
理論と直感。
ガルドがニヤリとする。
「やれ」
レオンが叫ぶ。
「今だ!」
――パチン
光が一瞬だけ弾ける。
そして。
静寂。
振動が止まる。
光が安定する。
ランプは――
そのまま、静かに灯り続けていた。
沈黙。
誰も動かない。
数秒後。
アルベルトが息を吐く。
「……止まったか」
ミレナが座り込む。
「はぁ……」
レオンも膝に手をつく。
「危なかった…」
ガルドが笑う。
「最高だな」
レオンが言う。
「よくないです!」
王女はゆっくり歩く。
そしてランプの前に立つ。
その光を見て――
静かに言う。
「これ」
振り返る。
「王都でやりましょう」
全員が凍る。
伯爵が言う。
「いきなりですか?」
王女は頷く。
「ええ」
そして一言。
「この灯りを」
「国中に広げる」
ディランが笑う。
「戦争になりますね」
アルベルトが頷く。
「間違いなくな」
レオンはランプを見る。
小さな光。
だがその光は――
未来そのものだった。
そしてその裏で。
同じ光を
別の場所で見つめる者がいる。
「……やはり来たか」
低い声。
競争は、もう始まっている。
――続く。




