第40話 選べない想い
夜。
伯爵邸の庭。
静かな風が吹いている。
レオンは一人、空を見上げていた。
「……はぁ」
ため息。
その時。
「ここにいたのね」
振り向くと――
セレスティア・フォン・アルヴェリア。
王女がゆっくり歩いてくる。
レオンは少し驚く。
「王女殿下」
セレスティアは隣に立つ。
少しの沈黙。
そして――
「ねえ」
レオンを見る。
真剣な目。
「あなたのこと」
一瞬だけ言葉を止める。
そして言った。
「好きよ」
風が止まった気がした。
レオンは固まる。
「……え?」
セレスティアは視線を逸らさない。
「面白いし」
「優秀だし」
「何より」
少し笑う。
「一緒にいて退屈しない」
レオンは言葉を失う。
セレスティアは続ける。
「王女としてじゃなくて」
「一人の女として言ってる」
静かな告白だった。
逃げ場はない。
レオンはゆっくり息を吐く。
そして言った。
「……嬉しいです」
セレスティアの表情が少し緩む。
だが次の言葉で――
止まる。
「でも」
レオンはまっすぐ言った。
「好きな人がいます」
沈黙。
セレスティアの目が揺れる。
「……誰?」
レオンは答えた。
「リシアです」
空気が一瞬凍る。
セレスティアは目を閉じる。
そして小さく笑った。
「そう」
少しだけ寂しそうに。
「なんとなく分かってた」
レオンは続ける。
「ずっと前から」
「大切な人です」
セレスティアはゆっくり息を吐く。
「正直ね」
そしてレオンを見る。
「嫌いじゃない」
その言葉は本心だった。
だが――
「でも」
少しだけ声が低くなる。
「それで終わりじゃないわ」
レオンが目を見開く。
セレスティアは言う。
「私は王女よ」
「欲しいものは取りに行く」
一歩近づく。
「あなたも例外じゃない」
レオンが言う。
「それは…」
セレスティアは微笑む。
「安心して」
「無理やり奪ったりはしない」
そして一言。
「正々堂々」
少し楽しそうに。
「勝負しましょう?」
レオンは苦笑する。
「恋愛で勝負って…」
セレスティアは言った。
「あなたが決めるのよ」
その言葉は重かった。
王女は少しだけ優しくなった。
「でも」
「今すぐ答えは出さなくていい」
そして背を向ける。
「悩みなさい」
「それが誠実ってものよ」
歩き出す。
去り際に。
「あと」
振り返らずに言う。
「リシアにもちゃんと伝えなさい」
レオンはハッとする。
セレスティアは続けた。
「知らないままじゃ」
「フェアじゃないでしょ?」
そしてそのまま去っていった。
静寂。
レオンはその場に立ち尽くす。
「……どうすればいいんだよ」
その夜。
レオンは眠れなかった。
翌朝。
研究所予定地。
ミレナが作業している横で。
レオンはぼーっとしていた。
ミレナが言う。
「どうしました?」
レオンは言う。
「人生相談いいですか」
ミレナが即答する。
「内容によります」
レオンは言った。
「王女に告白されました」
ミレナの手が止まる。
「……はい?」
レオンは続ける。
「でも好きなのはリシアで」
「でも王女の立場もあって」
「どうすればいいと思います?」
ミレナは数秒黙る。
そして言った。
「難問ですね」
レオンが言う。
「ですよね」
ミレナは真面目な顔で言う。
「ですが」
「答えは一つです」
レオンが見る。
ミレナは言った。
「リシア様に伝えるべきです」
レオンは小さく頷く。
「……やっぱり」
ミレナは続ける。
「隠したままは」
「一番良くない」
レオンは空を見る。
「ですよね」
その時。
遠くでリシアの姿が見えた。
笑っている。
いつも通り。
何も知らない顔で。
レオンは小さく呟く。
「ちゃんと」
「言わないとな」
こうして――
恋と立場が絡み合う
本当の意味での
三角関係が動き出した。




