第4話 辺境の村
荷車はゆっくりと街道を進んでいた。
俺はその横を歩きながら、男の話を聞いていた。
「俺の名前はガルドだ。村と王都を往復して荷物を運ぶ商人みたいなもんだな」
ガルドは手綱を軽く引きながらそう言った。
「俺はレオンです」
本当の名前を名乗るか少し迷ったが、別に隠す理由もない。
ガルドは気さくな男で、すぐに色々話してくれた。
「村の名前はリンド村だ。小さい農村だが、畑はそこそこ広い」
「人はどれくらいいるんですか?」
「五十人くらいだな。ほとんどが農民だ」
想像していた通りの村だ。
王都から追い出された俺にとっては、むしろちょうどいい。
「魔道具はよく壊れるんですか?」
俺が聞くと、ガルドは苦笑した。
「壊れるというか、寿命だな」
「寿命?」
「ああ。魔道具は数年で動かなくなる」
俺は思わず眉をひそめた。
「修理は?」
「できる奴がいない」
ガルドは肩をすくめた。
「魔道具は王都の魔道具師しか触れねぇんだ」
なるほど。
つまりこの世界では。
魔道具=ブラックボックス。
壊れたら捨てるしかない。
「……もったいないな」
俺は小さく呟いた。
ガルドが首をかしげる。
「ん?」
「ほとんど直せると思いますよ」
俺がそう言うと、ガルドは大きく目を見開いた。
「マジか?」
「たぶんですけど」
俺の頭の中には、さっき見た魔法陣の構造がまだ残っている。
あれは完全にプログラムだ。
しかも。
かなり非効率。
無駄な命令が多いし、構造も古い。
「直すどころか、改良もできるかもしれない」
俺がそう言うと、ガルドはしばらく黙った。
そして突然笑い出した。
「ははは! 兄ちゃん面白いこと言うな!」
どうやら冗談だと思われたらしい。
まあ仕方ない。
この世界では魔道具は特別なものだ。
その仕組みを理解している人間なんていない。
でも俺には分かる。
なぜなら。
魔法陣はコードだからだ。
それからさらに一時間ほど歩くと、小さな村が見えてきた。
木の柵に囲まれた素朴な村だ。
畑が広がり、煙突から煙が上がっている。
ガルドが荷車を止めた。
「着いたぞ」
俺は村を見回した。
静かで、のどかな場所だ。
王都とはまるで違う。
「おーい!」
ガルドが大声を出す。
すると畑の方から何人かの村人が振り向いた。
「ガルド帰ったぞー!」
子供たちが駆け寄ってくる。
その様子を見て、少し安心した。
平和な村らしい。
「その人誰?」
子供の一人が俺を見て聞いた。
「魔道具を直せる兄ちゃんだ!」
ガルドがそう言った瞬間。
村人たちの動きが止まった。
「……え?」
「魔道具?」
「今なんて?」
ざわざわと村人が集まってくる。
どうやらかなり珍しい話らしい。
俺は少し苦笑した。
「いや、まだ分からないですけど」
その時だった。
人混みの奥から、年配の男が歩いてきた。
村長らしい。
「ガルド、その話は本当か?」
低く落ち着いた声だった。
ガルドは胸を張る。
「俺の荷車の魔道具を直してくれた」
村長の視線が俺に向く。
鋭い目だ。
「……本当か?」
俺は少し考えた。
ここで嘘をつく意味はない。
「見てみないと分かりませんが」
「壊れた魔道具なら直せるかもしれません」
村長はしばらく俺を見つめていた。
そして。
「なら試してみろ」
そう言った。
「壊れた魔道具がある」
村人たちがざわめく。
どうやら本当にあるらしい。
村長はゆっくり歩き出した。
「ついて来い」
俺とガルドはその後ろを歩く。
向かったのは村の端にある小さな建物だった。
中に入ると、机の上に一つの魔道具が置かれていた。
金属製の箱。
そこに魔法陣が刻まれている。
「井戸の水をくみ上げる魔道具だ」
村長が言った。
「三年前に止まった」
三年。
つまり三年間、井戸の水を人力で汲んでいるということだ。
「王都に修理を頼めば金貨十枚」
村長は淡々と続けた。
「村には払えん」
俺は魔道具に近づいた。
そして。
魔法陣を見た瞬間。
思わず笑ってしまった。
「どうした?」
村長が眉をひそめる。
俺は指で魔法陣の一部を指した。
「これです」
「?」
「原因」
村長とガルドが顔を見合わせる。
俺はゆっくり言った。
「たぶん五分で直ります」
その瞬間。
部屋の空気が止まった




