第33話 王城からの誘い
伯爵邸の庭。
静かな風が吹いていた。
だがその空気は、どこかざわついている。
理由は――
セレスティア・フォン・アルヴェリア
の一言だった。
「完成したら私が最初に乗る」
伯爵は額を押さえる。
「王女殿下…それは」
セレスティアはあっさり言う。
「危険?」
伯爵は頷く。
「当然です」
王女は肩をすくめる。
「新しいものは大体危険よ」
そしてレオンを見る。
「違う?」
レオンは苦笑した。
「まあ」
「そうですね」
アルベルトがため息をつく。
横にいるのは
アルベルト・グランディス。
「王女殿下」
「せめて試験飛行は我々が」
セレスティアは笑った。
「もちろん試験はするわ」
「でも最初に乗るのは私」
ディランがぽつりと言う。
「面白い王女様だ」
王女は振り向く。
「商人ね」
ディランは礼をする。
「ディラン・クロードです」
王女は頷いた。
「クロード商会」
「知ってるわ」
ディランの眉が少し動く。
「光栄です」
セレスティアは庭に置かれた浮遊箱を見る。
「それで?」
「これが試作?」
レオンが頷く。
「はい」
王女は近づく。
箱の下の魔法陣を見る。
そして少し驚いた顔をする。
「綺麗な魔法陣ね」
アルベルトが言う。
「理解しているからです」
王女はレオンを見る。
「あなた」
「どこで魔法陣を学んだの?」
レオンは答える。
「独学です」
沈黙。
アルベルトが小さく言う。
「やはりな」
王女は興味深そうに笑う。
「独学でこれ?」
そして少し楽しそうに言う。
「ますます王城に欲しいわね」
伯爵が口を開く。
「王女殿下」
「彼はこの領地の客人です」
王女は頷く。
「だから強制はしない」
そしてレオンを見る。
「でも提案はする」
指を一本立てる。
「王立研究所」
「王国最高の魔道具研究施設」
さらにもう一本。
「研究資金」
「いくらでも出す」
三本目。
「護衛」
「あなたの技術は狙われる」
レオンは苦笑する。
「やっぱりですか」
ディランが静かに言う。
「確実に狙われます」
アルベルトも頷く。
「技術革命ですから」
王女は言う。
「だから」
「王城が守る」
少し間を置いて。
「どう?」
レオンは少し考えた。
リシアを見る。
リシアは微笑む。
「レオンがやりたいことを」
伯爵も言う。
「私は反対しない」
アルベルトは腕を組む。
「むしろ歓迎だ」
ディランは笑う。
「商人としては王城案件は美味しい」
レオンは頭をかいた。
「なんか」
「逃げ道なくないです?」
王女は楽しそうに笑った。
「あるわよ」
レオンが聞く。
「どこです?」
王女は言った。
「断る自由」
レオンは少し考える。
そして言った。
「じゃあ」
全員が注目する。
レオンは笑った。
「条件付きで」
王女の目が光る。
「聞こうじゃない」
レオンは言った。
「研究はやります」
「王城とも協力します」
そして続ける。
「でも」
「研究の自由は欲しい」
アルベルトが頷く。
「当然だ」
王女も笑う。
「いいわ」
レオンはもう一つ言う。
「あと」
王女が首を傾げる。
「まだあるの?」
レオンは庭を見る。
浮いている箱。
そして言った。
「研究所」
「ここにも作りたい」
伯爵が驚く。
「この領地に?」
レオンは頷く。
「王都だけじゃなくて」
「地方にも研究拠点」
ディランが笑った。
「なるほど」
アルベルトも小さく笑う。
「面白い」
王女は数秒黙る。
そして言った。
「いいわ」
全員が驚く。
王女はさらっと言う。
「王立魔道研究所」
「分所」
「ここに作りましょう」
伯爵が思わず言う。
「本気ですか?」
王女は頷いた。
「ええ」
そしてレオンを見る。
「あなた」
「王国の魔道具開発責任者になりなさい」
沈黙。
レオンはぽつりと言う。
「責任重くないです?」
王女は笑った。
「大丈夫」
そして一言。
「私も責任取るから」
その瞬間。
アルベルトがぼそっと言った。
「王女が乗る飛行魔道具の責任は誰が取るんだ…」
レオンが小さく言う。
「それはちょっと困ります」
王女は楽しそうに笑った。
どうやら――
レオンの研究は
王国規模で
動き出すことになった。
だが。
誰もまだ知らない。
この技術が
後に王国だけではなく
世界を揺るがす発明になることを。




