第32話 王女来訪
伯爵邸の応接室。
空気は張り詰めていた。
伯爵は腕を組み、ゆっくり言う。
「王女が来る理由は一つだ」
誰もが理解していた。
魔道具。
それも――
空を飛ぶ魔道具。
リシアが小さく言う。
「王城に情報が届くの早すぎません?」
ディランが笑う。
「当然です」
「王都には魔道具師ギルドもありますし」
彼はちらりと横を見る。
そこにいるのは
アルベルト・グランディス。
アルベルトは肩をすくめる。
「私は報告していない」
伯爵が言う。
「ならば誰だ」
ディランは指を立てた。
「三つあります」
「一つ」
「街灯魔道具」
「二つ」
「クロード商会」
「三つ」
「王城の諜報網」
レオンが苦笑する。
「つまり」
「どこからでもバレるってことですね」
ディランは笑う。
「その通りです」
伯爵が重く言う。
「だが王女が直接来るのは異例だ」
アルベルトも頷く。
「普通は役人だ」
ディランが静かに言う。
「つまり」
「王女が興味を持った」
リシアが少し緊張する。
「どんな方なんでしょう」
伯爵は言った。
「聡明だ」
「そして」
少し間を置く。
「かなり強引だ」
レオンがぽつりと言う。
「怖い人?」
伯爵は笑う。
「怖いというより」
「決断が早い」
その時。
外から声が響いた。
「伯爵様!」
門番の声。
「王女殿下の馬車が到着しました!!」
全員が立ち上がる。
数分後。
伯爵邸の庭。
豪華な馬車が止まっていた。
王国の紋章。
護衛騎士が並ぶ。
扉が開く。
ゆっくりと。
一人の女性が降りてくる。
白いドレス。
金色の髪。
凛とした空気。
彼女こそ――
セレスティア・フォン・アルヴェリア。
伯爵が膝をつく。
「ようこそお越しくださいました」
王女は軽く手を上げる。
「堅苦しいのは結構です」
そして視線を動かす。
レオンで止まる。
「あなたね」
レオンが指差す。
「え?」
王女は近づいてくる。
そして言った。
「空を飛ばしたのは」
「あなた?」
レオンは少し戸惑う。
「まあ」
「はい」
王女の目が輝く。
「素晴らしい」
周りの空気が止まる。
王女は続けた。
「見せて」
アルベルトが苦笑する。
「やはりそれですか」
王女は当然のように言う。
「当然よ」
「空を飛ぶ魔道具なんて」
「国家級の技術だもの」
ディランは静かに観察している。
王女はレオンの前に立った。
そして言う。
「条件を出すわ」
全員が息を飲む。
王女はさらっと言った。
「その技術」
「王国が保護する」
伯爵が眉を動かす。
「保護ですか」
王女は頷く。
「ええ」
そして続けた。
「その代わり」
レオンを見る。
「あなた」
少し笑う。
「王城に来なさい」
沈黙。
レオンが聞く。
「王城?」
王女は言った。
「王立魔道技術研究所」
「そこで研究してもらう」
アルベルトが目を見開く。
「王立研究所だと…」
ディランも少し驚いていた。
王女は平然としている。
「予算」
「人材」
「設備」
「全部用意する」
そして一言。
「国で開発しましょう」
リシアがレオンを見る。
伯爵も。
アルベルトも。
ディランも。
全員の視線がレオンに集まる。
レオンは少し考えた。
そして言った。
「一ついいですか?」
王女が頷く。
「何?」
レオンは言った。
「家から通えます?」
一瞬。
沈黙。
そして。
王女は吹き出した。
「ふふ」
周りも少し笑う。
王女は言った。
「変わった人ね」
そして笑顔で言う。
「いいわ」
「通勤研究者」
「それでもいい」
そして少し目を細めた。
「ただし」
「もう一つ条件がある」
レオンが聞く。
「なんです?」
王女はさらっと言った。
「空を飛ぶ魔道具」
「完成させたら」
少し楽しそうに言う。
「私」
「最初に乗るわ」
庭の全員が固まる。
伯爵が思わず言った。
「王女殿下!?」
王女は平然としていた。
「だって」
レオンを見る。
「開発者と乗るのが一番安全でしょ?」
レオンは苦笑した。
どうやら――
とんでもない人物に
目を付けられたらしい。
そしてこの出会いが
レオンの人生を
さらに大きく変えていくことになる。




