第3話 最初の魔道具
ランタンの光は、しばらく経っても消えなかった。
俺は何度もスイッチの部分を触り、傾けたり振ったりしてみる。
だが光は安定している。
「……本当に直ってる」
壊れていたはずの魔道具が、普通に使えるようになっている。
俺はもう一度ランタンの魔法陣を眺めた。
複雑に刻まれた線と記号。
普通の人間が見れば、ただの紋様にしか見えないだろう。
だが俺には違う。
線は処理の流れ。
記号は命令。
円は処理領域。
まるでプログラムだ。
「つまり、この世界の魔法って……」
魔法陣=プログラム。
そう考えると、今までの違和感が全部繋がる。
魔石は電源。
魔法陣はプログラム。
魔道具はハードウェア。
「完全にIT構造じゃん……」
思わず笑ってしまった。
もしこの仮説が正しいなら。
俺はこの世界で、かなり特殊な存在になる。
なぜなら。
「魔法陣の意味が分かる人間、いないっぽいしな」
さっき城で見た魔法使いを思い出す。
あの老人は魔法陣を“読む”ことはできても、
構造までは理解していないようだった。
だから鑑定はできても、改造はできない。
でも俺は違う。
改造できる。
修正できる。
最適化できる。
「つまり……」
俺はランタンを軽く振った。
「魔道具、作れるってことか?」
この世界では魔道具は高価なはずだ。
もし俺が作れるなら――
「普通に食っていけるんじゃないか?」
いや、それどころじゃない。
うまくいけば、かなり儲かる可能性もある。
さっきまで絶望していたのが嘘みたいだ。
俺は少し気分が軽くなった。
「とりあえず村でも探すか」
街道の先には森が広がっている。
王都から追い出された以上、戻るわけにもいかない。
まずは生活基盤だ。
歩き出してしばらくすると、道の脇に小さな荷車が止まっているのが見えた。
車輪の横で、中年の男がしゃがみ込んでいる。
「くそっ……またかよ」
男は荷車の下を覗き込みながら、苛立った声を出していた。
どうやらトラブルらしい。
俺は少し迷ったが、近づいて声をかける。
「どうしました?」
男は驚いた顔で振り返った。
「ん? ああ……車輪を固定してる魔道具が壊れちまってな」
男はため息をつく。
「王都まで行かないと修理できねぇ」
「魔道具?」
「この留め具だよ」
男が指さしたのは、車輪の中心に取り付けられた小さな金属装置だった。
そこにも魔法陣が刻まれている。
俺はしゃがみ込み、それを覗き込んだ。
「……あ」
まただ。
同じ感覚。
魔法陣が、ただの模様じゃない。
意味のある構造として見える。
処理の流れ。
命令。
条件。
そして――
「これもバグってる」
「え?」
男が首をかしげる。
「いや、壊れてるというか……」
俺は近くの小石を拾った。
「ちょっと見てもいいですか?」
「え? お、おう……」
男が戸惑う中、俺は魔法陣の一部分を少しだけ削った。
ほんの少し。
ランタンの時と同じだ。
「これで……」
俺は車輪を軽く回した。
ガコン。
今まで引っかかっていた車輪が、スムーズに回る。
男の目が丸くなった。
「……おい」
もう一度回す。
問題ない。
完全に直っている。
男はしばらく固まっていたが、次の瞬間大声を出した。
「直ってるじゃねぇか!?」
俺は肩をすくめる。
「たぶん、魔法陣の不具合だったんで」
「不具合?」
男は意味が分からない顔をしている。
まあ当然だろう。
この世界の人間にとって、魔法陣は理解するものじゃない。
使うものだ。
だが俺には違う。
「もしかしてあんた……魔道具師か?」
男が恐る恐る聞いてくる。
俺は少し考えた。
まだ自信はない。
でも。
さっきランタンも直した。
今は荷車の魔道具も直った。
つまり。
「……たぶん」
俺は少し笑って答えた。
「そんな感じです」
男はしばらく俺を見つめたあと、突然笑った。
「運がいいな俺!」
そして俺の肩をバシバシ叩く。
「兄ちゃん! 俺の村に来ないか?」
「村?」
「ああ、王都から半日くらいの小さい村だ」
男は親指で街道の先を指す。
「魔道具直せる奴なんていねぇんだ」
俺は少し空を見上げた。
行くあてもない。
金もない。
でも。
魔道具なら直せる。
いや。
もしかしたら――
作れるかもしれない。
俺は男に向き直った。
「その村、仕事あります?」
男はニヤッと笑った。
「いくらでもあるぞ」
どうやら俺の異世界生活は。
ここから始まるらしい




