第28話 魔道具都市計画
翌朝。
伯爵邸の会議室には、珍しく多くの人が集まっていた。
伯爵。
リシア。
レオン。
そして
ヴァルディア公爵
と
アルベルト・グランディス。
机の上には地図が広げられている。
この街の地図だ。
公爵がゆっくり口を開いた。
「では始めよう」
全員の視線が集まる。
公爵は地図の中央を指さした。
「街灯魔道具の実験は順調だと聞いている」
伯爵が頷く。
「はい」
「すでに十基ほど設置しました」
アルベルトが言う。
「魔力消費は報告通り」
「従来の三割以下」
公爵は満足そうに頷いた。
「素晴らしい」
そして続ける。
「だがこれは始まりに過ぎない」
レオンが首を傾げた。
「始まり?」
公爵は地図にいくつか印をつけた。
「この街」
「全域に街灯を設置する」
リシアが目を丸くする。
「全部ですか?」
公爵は頷いた。
「夜でも安全に歩ける街」
「商人も集まる」
「人も増える」
伯爵も腕を組む。
「確かに…」
公爵はさらに続けた。
「そしてもう一つ」
今度は地図の外側を指さした。
「新しい工房区画を作る」
レオンが少し驚く。
「工房?」
アルベルトが説明する。
「魔道具製造の拠点だ」
公爵は言う。
「職人を集める」
「鍛冶師」
「木工職人」
「魔石加工師」
リシアが小さく呟く。
「街が大きくなりますね」
公爵は頷く。
「そうだ」
そしてレオンを見る。
「その中心にいるのが君だ」
レオンは苦笑した。
「責任重大ですね」
アルベルトが言う。
「当然だ」
「魔法陣を理解している人間は君しかいない」
レオンは少し頭をかく。
「まあ…」
公爵はさらに続ける。
「もう一つ」
「王都から技術者を何人か呼ぶ」
伯爵が聞く。
「ギルドですか?」
アルベルトが頷く。
「優秀な若手を送ろう」
そしてレオンを見る。
「教えられるか?」
レオンは少し考えた。
「たぶん」
アルベルトが笑う。
「その『たぶん』は信用できる」
リシアが少し嬉しそうに言った。
「研究仲間が増えますね」
レオンも笑う。
「ですね」
公爵が机を軽く叩いた。
「では決まりだ」
「この街は」
少し間を置く。
「魔道具都市になる」
その言葉に、部屋の空気が少し変わった。
伯爵がゆっくり頷く。
「面白い」
「やってみましょう」
会議はそれで終わった。
人が少しずつ部屋を出ていく。
最後に残ったのはレオンとリシアだった。
リシアは地図を見ている。
「街…変わりますね」
レオンも地図を見る。
「大工事ですね」
リシアは少し笑う。
「レオンのせいですよ」
レオンは肩をすくめた。
「そんなつもりなかったんですけど」
リシアは少しだけレオンを見る。
「でも」
「嫌じゃないですよ」
レオンが聞く。
「何がです?」
リシアは言った。
「街が変わること」
「レオンがいること」
レオンは少し照れた。
「ありがとうございます」
リシアは小さく笑う。
そして言った。
「忙しくなりますね」
レオンは頷いた。
「ですね」
その時。
廊下の向こうからアルベルトの声が聞こえた。
「レオン殿」
二人が振り向く。
アルベルトが立っていた。
「少し時間いいか」
レオンが答える。
「はい」
アルベルトは真面目な顔だった。
「王都の話だ」
レオンが聞く。
「王都?」
アルベルトは静かに言った。
「どうやら」
少し間を置く。
「商会が動き始めた」
リシアが不安そうに聞く。
「商会…?」
アルベルトは頷く。
「街灯魔道具」
「利権の匂いがするらしい」
レオンは少し苦笑した。
「もう来ましたか」
アルベルトは言う。
「むしろ遅い」
そして小さく笑った。
「どうやら」
「次の客は」
「少し面倒そうだ」
魔道具都市計画が始まったその時。
すでに。
新しい波が近づいていた。




