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第25話 二人の魔道具師

工房の空気が少し変わった。

アルベルトは静かに言った。

「レオン殿」

「少し二人で話をしよう」

伯爵とリシアを見る。

「少しだけ席を外していただけるか」

伯爵は一瞬考えたが、すぐに頷いた。

「分かりました」

リシアは名残惜しそうだったが、伯爵に促され部屋を出る。

扉が閉まる。

工房には二人だけ。

アルベルトはゆっくり机の設計図を見ながら言った。

「まず確認したい」

「君は魔法陣を理解しているのだな?」

レオンは素直に答えた。

「はい」

アルベルトは続ける。

「誰に教わった?」

レオンは少し考える。

「独学です」

アルベルトの眉が動く。

「独学?」

レオンは頷く。

「この世界の魔道具、効率が悪いので」

「分解して調べてたら」

「なんとなく分かりました」

沈黙。

アルベルトは設計図をもう一度見た。

そして言った。

「……なんとなくで分かる領域ではない」

レオンは苦笑した。

アルベルトは椅子に座る。

そして真剣な顔になる。

「率直に言おう」

「君の技術は異常だ」

レオンは肩をすくめた。

「そうですか?」

アルベルトは続ける。

「王都の魔道具師でも」

「魔法陣を理解している者はほとんどいない」

「我々は」

「古代の魔法陣を研究しているだけだ」

レオンは少し驚いた。

「研究?」

アルベルトは頷く。

「完全な理解ではない」

「解析に近い」

レオンは納得した。

「なるほど」

アルベルトは真剣な目で言う。

「だが君は違う」

「設計している」

レオンは普通に答えた。

「はい」

アルベルトは深く息を吐いた。

そして机の上に新しい紙を置く。

「では」

「一つ質問だ」

さらさらと魔法陣を書く。

複雑な陣。

そして言う。

「これは古代魔道具の解析途中の魔法陣だ」

「王都で十年以上研究されている」

レオンは覗き込む。

三秒。

五秒。

「あー」

アルベルトが聞く。

「分かるか?」

レオンは指をさした。

「ここ」

「魔力循環のループ壊れてます」

アルベルトの目が鋭くなる。

レオンは続ける。

「この線をこう回して」

ペンを取る。

さらさら。

数本書き足す。

「これで動くと思います」

沈黙。

アルベルトは動かない。

じっと紙を見る。

一分。

二分。

そして小さく呟いた。

「……完成している」

その魔法陣は。

王都で十年解けなかった問題だった。

アルベルトはゆっくり顔を上げる。

その表情はもう完全に変わっていた。

疑いは消えている。

そこにあるのは――

敬意。

「レオン殿」

レオンを見る。

「君は」

「本物だ」

レオンは苦笑する。

「ありがとうございます?」

アルベルトは言った。

「王都へ来ないか」

レオンは首を傾げる。

「王都?」

アルベルトは頷く。

「君ほどの技術者が地方にいるのは」

「国家的損失だ」

真剣な声だった。

「王都魔道具師ギルド」

「最高待遇を約束する」

レオンは少し考えた。

工房を見る。

街灯の魔道具。

作りかけの魔石。

そして。

街の人たち。

レオンは答えた。

「すみません」

アルベルトの目がわずかに動く。

レオンは笑った。

「今ここ、結構楽しいので」

「しばらくここにいます」

沈黙。

アルベルトはレオンを見て。

そして――

小さく笑った。

「……なるほど」

「そういう人間か」

レオンは聞く。

「怒りました?」

アルベルトは首を振った。

「いや」

「むしろ安心した」

レオンは首を傾げる。

アルベルトは言った。

「技術だけの人間ではない」

「それが分かった」

そして立ち上がる。

「だが」

「一つだけ頼みがある」

レオンを見る。

「時々でいい」

「王都に来てくれ」

「君の知識は」

「この世界を変える」

レオンは少し照れたように笑った。

「大げさですよ」

アルベルトは真顔だった。

「いや」

「事実だ」

その時。

工房の外から声が聞こえた。

「レオン!」

リシアだ。

扉が開く。

リシアは少し慌てていた。

「大変です!」

レオンが聞く。

「どうしました?」

リシアは言った。

「街に」

「王都の貴族の馬車が来ています」

伯爵も後ろから来る。

そして言った。

「しかも」

「ヴァルディア公爵家の紋章だ」

アルベルトが目を細める。

レオンは聞く。

「偉い人です?」

リシアは頷く。

「かなり」

伯爵が静かに言った。

「この国でも」

「五本の指に入る大貴族だ」

レオンは少し驚いた。

「へぇ」

その時。

外から執事の声。

「伯爵様!」

「公爵閣下がお見えです!」

工房の空気が一気に変わる。

どうやら――

本当の大事件が始まるらしい。

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