第22話 噂
レオンが伯爵邸に通い始めてから数日が経った。
毎日、リシアと一緒に魔道具の研究を続けている。
机の上には紙が何枚も広がり、魔法陣の図がいくつも描かれていた。
「レオン、これ見てください」
リシアが新しい図面を差し出す。
「魔力の流れをここで分岐させて、安定させる形にしてみました」
レオンは紙を受け取り、しばらく眺める。
「……いいですね」
素直に感心した。
最初に会った頃より、明らかに理解が深くなっている。
「本当に吸収が早い」
レオンが言うと、リシアは少し照れた。
「先生がいいからです」
「いやいや」
レオンは笑った。
その時だった。
コンコン。
扉がノックされる。
執事が静かに入ってきた。
「伯爵様がお呼びです」
レオンとリシアは顔を見合わせる。
「何でしょう?」
「さあ?」
二人はそのまま伯爵の執務室へ向かった。
部屋に入ると、伯爵は少し難しい顔をしていた。
机の上には数枚の紙が置かれている。
「二人とも座りなさい」
レオンとリシアは椅子に座った。
伯爵はゆっくり口を開く。
「少し問題が起きている」
リシアが首を傾げる。
「問題?」
伯爵は紙を一枚持ち上げた。
「街で噂が広がっている」
レオンは嫌な予感がした。
「どんな噂です?」
伯爵は淡々と言った。
「伯爵邸に、凄腕の魔道具師がいる」
レオンは苦笑した。
「それだけなら別に……」
伯爵は首を振る。
「問題はその先だ」
そして紙を机に置いた。
「魔力効率を数倍にする魔道具」
「未知の魔法陣」
「革命的技術」
レオンは少し顔をしかめた。
かなり話が盛られている。
リシアは少し嬉しそうだった。
「すごいじゃないですか」
伯爵はため息をつく。
「良い噂ばかりではない」
「え?」
伯爵は静かに言った。
「王都の魔道具師ギルドにも話が届いた」
レオンは少し驚いた。
「王都?」
伯爵は頷く。
「向こうの連中は、かなり誇りが高い」
そして続ける。
「地方の無名の魔道具師が、そんな技術を持っていると言われれば」
一瞬の沈黙。
伯爵ははっきり言った。
「確かめに来るだろう」
リシアの目が輝いた。
「研究者が来るんですか?」
伯爵は苦笑する。
「そんな穏やかな連中ならいいがな」
レオンは少し考える。
「つまり……」
「試される?」
伯爵は頷いた。
「おそらくな」
リシアは嬉しそうだった。
「面白そうです!」
レオンは苦笑した。
だが伯爵の顔は少し真剣だった。
「一つだけ聞く」
レオンを見る。
「もし王都の魔道具師と勝負になった場合」
「勝てるか?」
レオンは少し考えた。
そして普通に答えた。
「多分」
「余裕です」
伯爵とリシアは同時に固まった。




