第18話 伯爵令嬢
「……え?」
レオンは思わず聞き返した。
伯爵は落ち着いた様子で頷く。
「家庭教師だ」
レオンは完全に戸惑っていた。
「いや、あの……」
言葉を探す。
「僕、貴族の教育とか全然分からないんですが」
伯爵は小さく笑った。
「礼儀作法を教えてほしいわけではない」
そして机の上のランプを指した。
「これだ」
レオンはランプを見る。
伯爵は続けた。
「娘は昔から魔道具に興味を持っていてな」
「魔法陣の本などもよく読んでいる」
レオンは少し意外だった。
貴族の令嬢といえば、もっと別のことをしているイメージがあった。
だが伯爵の表情は少し苦笑していた。
「しかし」
「教師が困っている」
レオンは首を傾げる。
「どうしてです?」
伯爵はあっさり答えた。
「質問が難しすぎるらしい」
レオンは思わず笑いそうになった。
伯爵は肩をすくめる。
「魔道具師の教師も何人か雇った」
「だが皆同じことを言う」
そして少し真面目な顔になる。
「娘の発想が独特すぎると」
レオンは少し興味が出てきた。
「どんな質問なんです?」
伯爵は軽く手を叩いた。
「ちょうどいい」
「本人に聞いてみるといい」
その言葉と同時に、横の扉が開いた。
軽い足音。
一人の少女が入ってくる。
年は十五か十六くらい。
長い金髪。
青い瞳。
貴族らしい上品なドレスを着ていた。
だが――
その目は完全に好奇心で輝いていた。
「お父様」
少女は伯爵の横に立つ。
そしてレオンを見る。
じっと観察するような視線。
「この人が?」
伯爵が頷く。
「ああ」
「レオンだ」
少女は一歩前に出た。
「初めまして」
軽くドレスの裾を持ち上げ、丁寧に挨拶する。
「リシア・ヴァルディアです」
レオンも慌てて頭を下げた。
「レオンです」
リシアはじっとレオンを見る。
そしていきなり聞いた。
「魔力効率を上げるために」
「魔法陣の回路を減らしたんですか?」
レオンは一瞬固まった。
伯爵が苦笑する。
「ほらな」
リシアはさらに続けた。
「それとも流れの分岐を整理したんですか?」
「もしそうなら」
「魔力の安定化はどこで処理してるんです?」
レオンは少しだけ驚いた。
この質問。
かなり核心を突いている。
普通の魔道具師なら、まず出てこない発想だ。
レオンは正直に答えた。
「両方です」
リシアの目が一瞬で輝いた。
「やっぱり!」
そして興奮気味に続ける。
「魔力の無駄が多いと思ってたんです!」
「でも既存の魔法陣だと直せなくて!」
レオンは思わず笑った。
完全に。
技術者の目だ。
伯爵が小さくため息をつく。
「……こういう感じだ」
レオンは苦笑した。
確かに。
普通の教師では困るかもしれない。
リシアはレオンを真っ直ぐ見て言った。
「お願いがあります」
レオンは少し身構える。
「何ですか?」
リシアは真剣な顔で言った。
「あなたの魔法陣」
「見せてください」
レオンは少し考えた。
そして笑った。
「いいですよ」
その瞬間。
リシアの顔が一気に明るくなる。
伯爵はその様子を静かに見ていた。
そして小さく呟く。
「……決まりだな」
レオンはまだ知らない。
この出会いが――
後にとんでもない魔道具を生み出すことになることを。




