第15話 商人の嗅覚
冒険者ギルドを出たあと、レオンは大きく息を吐いた。
「……疲れた」
まさかあんな話になるとは思っていなかった。
専属契約。
国宝級の技術。
いきなりそんなことを言われても、正直実感がない。
横を歩いていた村長が笑った。
「ははは、顔が真っ青だったぞ」
「そりゃそうですよ」
レオンは苦笑する。
「国宝とか言われても……」
村長は少し真面目な顔になった。
「だが、あの査定官の目は本物だ」
「え?」
「長年ギルドにいる人間だ。価値が分からないはずがない」
レオンは黙った。
確かに、あの男は最初から魔法陣の構造を見抜いていた。
それだけでも、この世界ではかなりの実力者なのだろう。
「専属契約はどうするつもりだ?」
村長が聞く。
「まだ決めてません」
レオンは正直に答えた。
「正直、縛られるのはちょっと……」
「そうだろうな」
村長は頷いた。
「専属になれば安定はする。だが自由は減る」
レオンは少し空を見上げる。
せっかく異世界に来たのだ。
できるだけ自由に色々試してみたい。
「もう少し様子を見たいですね」
「それがいい」
村長は笑った。
「急ぐ必要はない」
その時だった。
「そこの君」
突然、後ろから声がかかった。
振り向くと、一人の男が立っていた。
年齢は四十前後。
整った服装。
細い目。
いかにも“商人”という雰囲気だった。
「少し話をいいかな?」
レオンは少し警戒する。
「何でしょう?」
男は軽く笑った。
「さっきギルドで査定していただろう」
レオンの背筋が少しだけ伸びる。
「……見ていたんですか?」
「偶然ね」
男は肩をすくめた。
「私は商人でね。面白そうな商品には目がない」
やはり、と思った。
レオンは静かに男を見る。
「名前を聞いても?」
男は礼儀正しく一礼した。
「私はクラウス」
そして続ける。
「商会をやっている」
レオンも軽く頭を下げた。
「レオンです」
クラウスは満足そうに頷いた。
「レオン君」
そしていきなり本題に入る。
「さっきのランプ、いくらで売る?」
レオンは少し驚く。
「いくらって……」
正直、値段など考えていなかった。
村で使えればいいと思っていただけだ。
クラウスはレオンの表情を見て、すぐ理解した。
「なるほど」
小さく笑う。
「まだ相場を知らない顔だ」
図星だった。
クラウスは指を一本立てる。
「金貨一枚」
レオンは目を瞬いた。
この世界の貨幣価値はまだ完全には分からないが、
村長の顔を見る限り――
かなり高い。
「いいんですか?」
レオンは思わず聞いた。
クラウスは笑った。
「むしろ安い」
「え?」
「君の魔道具は、街で売れば金貨三枚でも売れる」
レオンは完全に驚いた。
「そんなに?」
クラウスは頷く。
「魔道具は高い。しかも長持ちするならなおさらだ」
そして少し身を乗り出す。
「どうだろう」
「私と組まないか?」
レオンは黙る。
クラウスは続けた。
「君は作る」
「私は売る」
「利益は五分」
レオンは少し考えた。
かなり良い条件に見える。
だが――
「一つ聞いていいですか?」
「もちろん」
「どうしてそこまで?」
クラウスはすぐ答えた。
「簡単だ」
そしてニヤリと笑う。
「君の魔道具は」
「この街の商売を変える」
レオンは沈黙した。
だがその時だった。
遠くから馬の音が聞こえる。
ドドドドド――
かなりの数だ。
人々がざわめき始める。
「なんだ?」
村長が振り向く。
街の門の方から、武装した騎士団が入ってきていた。
その数、十数名。
中央の馬には、豪華な鎧を着た騎士。
クラウスが小さく呟く。
「……貴族の使いだな」
レオンの胸が少しざわつく。
騎士団はまっすぐギルドへ向かっていた。
そしてクラウスはレオンを見る。
「言っただろう」
静かな声だった。
「才能は、放っておかれない」
レオンはまだ知らなかった。
この騎士団が――
自分を探しに来ていることを




