第11話 商人の提案
「王都に行く気はありませんか?」
ベルクの言葉に、その場の空気が少し止まった。
ガルドが横で腕を組む。
「いきなりだな」
ベルクは落ち着いた様子で続けた。
「レオンさんの技術は本物です」
「さっきので確信しました」
荷馬車の冷却魔道具は今も静かに動いている。
冷たい空気がゆっくり流れ出していた。
ベルクはそれを軽く叩く。
「これ、王都で修理すれば金貨十五枚」
「でもあなたは五分で直した」
俺は肩をすくめた。
「ただの修正ですよ」
ベルクは首を振る。
「違います」
そして真面目な顔になる。
「魔道具はこの世界で最も利益を生む道具です」
「商人、貴族、王都」
「全員が欲しがる」
ガルドが口笛を吹く。
「つまり?」
ベルクは俺を見た。
「あなたの技術は金になります」
……まあそうだろう。
でも俺は首をかしげた。
「王都には魔道具師がいるんじゃ?」
ベルクは笑った。
「います」
「ですが」
少し間を置く。
「あなたほどではない」
それはさすがに言いすぎだ。
俺は苦笑する。
「まだ分からないですよ」
ベルクは小さく笑う。
「商人はね」
「価値を見るのが仕事なんです」
そして真剣な顔で言った。
「あなたは価値がありすぎる」
ガルドが横から口を出す。
「で?」
「王都行ったらどうなる?」
ベルクは答える。
「仕事が山ほど来る」
「貴族からも」
「商会からも」
「王都の工房からも」
それはかなり大きな話だ。
でも俺の頭の中に浮かんだのは別のことだった。
研究。
魔法陣。
魔道具。
王都にはもっと多くの魔道具があるはずだ。
つまり。
技術も増える。
ベルクは続ける。
「もしよければ」
「私の商会で工房を用意できます」
ガルドが目を丸くする。
「おいおい」
「そこまでか」
ベルクは真面目に頷く。
「それだけの価値があります」
俺は少し考えた。
確かに魅力的な話だ。
王都にはたくさんの魔道具がある。
研究材料は無限だ。
でも。
俺は村の方を見た。
リンド村。
小さな農村。
ここでの生活はまだ数日だ。
でも。
悪くない。
ガルド。
ミア。
村長。
みんな普通に接してくれる。
俺はベルクを見る。
「すぐには決められません」
ベルクは頷いた。
「もちろんです」
そして懐から小さな袋を取り出した。
俺に差し出す。
「これは今回の修理代です」
袋を開ける。
中には銀貨が入っていた。
十枚くらい。
俺は驚いた。
「多すぎません?」
ベルクは笑う。
「金貨十五枚の修理です」
「安いくらいです」
それは確かにそうかもしれない。
俺は袋を受け取った。
「ありがとうございます」
ベルクは満足そうに頷いた。
「また来ます」
そしてこう言った。
「あなたの答えを聞きに」
そう言って荷馬車に乗る。
馬がゆっくり動き出す。
ガルドが横で笑った。
「レオン」
「はい?」
「お前」
「すげぇことになってきたな」
俺は少し空を見上げた。
この世界に来てまだ数日。
追放された役立たずだった俺は。
今。
商人から王都に誘われている。
でも。
俺の頭の中にあるのは。
もっと別のことだった。
魔法陣。
この世界の魔法技術。
そして。
「……まだ改造できそうだな」
机の上には壊れた魔道具がまだ残っている。
俺は少し笑った。
この世界。
思ったより面白い。




