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仇巡の残火行 (あだめぐりのざんかこう)― 信長への復讐譚  作者: 直助


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切断の道

 晒し場がある。


 新しく作られたものではない。

 使われた形跡だけが、残っている。


 並んだものがある。


 数を、

 確かめるまでもなかった。


 市蔵は、そこから目を離す。


 息を吸う。

 浅い。


 吐く。

 長くはならない。


 足音がする。


 振り向くと、村人がいる。

 二人。

 三人。


 誰も、こちらを見ない。


 視線は、地面か、

 晒し場の外を向いている。


 声は、出ない。


 出さないのではない。

 出す必要がない。


 それで終わっている。


 市蔵は、一歩下がる。


 踏み固められた土に、

 新しい足跡はない。


 逃げた跡も、

 抗った跡もない。


 選ばれた場所だ。


 市蔵は、その場を離れる。


 家の方へは向かわない。


 通い慣れた道を、

 一本外れる。


 村を囲む外側の道だ。


 歩きながら、

 音が戻らないことに気づく。


 鍬の音も、

 呼び声もない。


 代わりに、

 別のものが浮かぶ。


 ――城の広間。


 待たされた時間。

 日の位置が、少しずつ動いた。


 名を呼ばれた。


「丹波、波多野市蔵」


 遮られなかった言葉。

 途中で止められなかった話。


 書付。

 朱。


 思ったより早かった。


 拒まれてはいなかった。


 泊まれと言われた。

 理由は、言われなかった。


 ――戸を押した。


 軋む音。


 暗い家。


 伏せられた椀。

 冷えきっていない竈。


 柱の根元の擦れ。

 切れた縄。


 小さな履物が、一つ。


 ――道。


 焼け焦げた旗が、落ちている。


 焼け残った線。


 木瓜。


 ――織田。


 ――外。


 晒し場。


 数を、

 確かめるまでもなかった。



 市蔵は、立ち止まる。

 歩みが、途切れる。


 だが、戻らない。


 交渉の意味は、

 ここで終わっている。


 泊まった夜も、

 書付も、

 朱も。


 すべて、

 この場所へ繋がっていた。


 市蔵は、顔を上げる。


 村人と、目は合わない。


 合う必要が、ない。


 ここには、

 もう、役目がない。


 市蔵は、道を選ぶ。


 戻るための道ではない。


 村を離れる道だ。


 振り返らない。


 振り返る理由が、

 どこにも残っていなかった。


 市蔵は、

 その方向へ歩き続けた。


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