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仇巡の残火行 (あだめぐりのざんかこう)― 信長への復讐譚  作者: 直助


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磔の城

 列は、また歩く。


 山は、少しずつ近づく。


 最初は、


 ただの山だった。


 だが、


 近づくほど、


 形が変わる。


 石だ。


 山の斜面に、


 石が並んでいる。


 積んでいる。


 自然ではない。


 誰かが言う。


「山を削ったらしい」


 別の声。


「全部、石だとよ」


 笑いが出る。


「山ごと城か」


 誰も否定しない。


 列は進む。


 山は、


 もう山ではない。


 斜面が、


 まっすぐ切れている。


 石が、


 高く積まれている。


 その上に、


 建物がある。


 さらに上にも、


 建物がある。


 重なっている。


 寺のようにも見える。


 だが、


 城だ。


 誰かが言う。


「天守だ」


 市蔵は、


 黙って見ている。


 建物は、


 空に近い。


 七つ重なっている、


 という話を、


 誰かがしていた。


 嘘には見えない。


 列は、


 山の下へ入る。


 城下だ。


 人がいる。


 商人。


 馬。


 荷車。


 兵も多い。


 旗も多い。


 木瓜だけではない。


 桔梗もある。


 誰かが言う。


「明智様の兵だ」


 別の声。


「丹波の主だな」


 誰かが答える。


「信長様の右腕だ」


 それで話は終わる。


 だが、


 誰も騒がない。


 城は、


 そこにあるだけだ。


 山の上で、


 動かない。


 誰かが言う。


「信長様だ」


 それだけだ。


 誰も、


 続きを言わない。


 市蔵は、


 山を見る。


 あれを、


 人が作った。


 そう思うと、


 少しだけ、


 現実が遠くなる。


 列は、


 止まらない。


 安土の城の下へ、


 入っていく。



 やがて、


 列が止まる。


 門の外だ。


 縄の男たちが、


 一人ずつ降ろされる。


 槍が、囲む。


 兵が入れ替わる。


 護送は、


 そこで終わる。


 市蔵たちは、


 横へ回される。



 縄の列が、


 動く。


 波多野たちだ。


 兵に囲まれている。


 城の方ではない。


 広場へ向かう。


 市蔵たちも、


 自然に、


 その後ろへ流れる。


 誰かが言う。


「助命だろ」


 別の声。


「ああ」


「降ったんだ」


 それで話は終わる。


 だが、


 前の兵の動きが、


 少し違う。


 槍が、


 下がらない。


 人が、


 集まってくる。


 木が、


 立てられている。


 長い柱だ。


 縄が、


 下がっている。


 誰かが、


 小さく言う。


「……あれ」


 別の声。


「磔だ」


 短い沈黙。


 誰も、


 すぐには言葉を出さない。


 誰かが、


 やっと言う。


「助命じゃねえのか」


 答える者はいない。


 兵が、


 波多野の縄を引く。


 男は、


 歩く。


 引きずられない。


 ただ、


 歩いている。


 市蔵は、


 見ている。


 背中に


 城の山がある。


 石の城だ。


 信長の城だ。



 そして、


 その下で、


 一つの家が終わる。



 天正七年。


 波多野は、


 磔にされる。


 波多野は、


 処刑される。


 波多野は、


 終わる。


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