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仇巡の残火行 (あだめぐりのざんかこう)― 信長への復讐譚  作者: 直助


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山城の攻防

 朝の列が、動く。


 村は、すぐに後ろへ下がる。


 振り返る者はいない。


 市蔵も、見ない。


 足は、そのまま山へ向かう。


 道は、細い。


 土が固い。


 石が多い。


 左右に木が立っている。


 葉は濡れている。


 朝の霧が、まだ残っている。


 列は長い。


 前も、後ろも、同じ槍だ。


 言葉は少ない。


 足音と、鎧の擦れる音だけが続く。



 昼を過ぎるころ、


 道が広がる。


 人が増える。


 別の列が、横から合流する。


 旗が見える。


 木瓜だ。


 誰かが言う。


「まだ落ちてねえのか」


 別の声が返す。


「長えらしい」


「兵糧が残ってるんだとよ」


 それで話は終わる。



 山の向こうに、黒い線が見える。


 城だ。


 山の上に、木の柵が続いている。


 石垣もある。


 高くはない。


 だが、近くで見ると、上へ登っている。


 城の周りには、陣が広がっている。


 土が踏み固められている。


 焚き火の跡が、いくつもある。


 槍が立てられている。


 人が多い。



 市蔵たちの列は、


 その端に入る。


 すでに戦っている軍だ。


 長くここにいる者の顔をしている。


 誰かが指をさす。


 山の斜面。


 木の柵が、もう一つある。


 城より下だ。


 出城だ。


 矢が飛ぶ。


 上からだ。


 柵の向こうから、声が上がる。


 下でも声が返る。


 槍が前へ出る。


 列が、詰まる。


 誰かが言う。


「今だ」


 人が走る。


 梯子が運ばれる。


 土が崩れる。


 石が転がる。


 市蔵も、前へ出る。


 押されているわけではない。


 だが、止まる余地はない。


 柵が近い。


 矢が落ちる。


 土に刺さる。


 盾が上がる。


 木が軋む。


 柵が揺れる。


 誰かが登る。


 誰かが落ちる。


 隙間ができる。


 人が流れ込む。


 市蔵も、その中にいる。


 槍が動く。


 声が出る。


 誰の声かは分からない。


 柵の内側に、土がある。


 狭い。


 人がぶつかる。


 槍が入る。


 止まる。


 抜ける。


 また入る。


 すぐ横で、


 誰かが倒れる。


 出城は、長く持たない。


 柵の向こうで、人が下がる。


 声が変わる。


 誰かが叫ぶ。


「崩れた!」


 槍が前へ出る。


 人が流れる。


 出城の中に、足が入る。


 市蔵も、その中にいる。


 足の下は、土だ。


 踏み固められている。


 人がぶつかる。


 声が近い。


 顔が近い。


 槍が短くなる。


 市蔵は、槍を引く。


 突く。


 すぐ目の前の鎧に当たる。


 止まる。


 押す。


 相手の体が、後ろへ下がる。


 槍が抜ける。


 横から刃が来る。


 誰かが受ける。


 血が飛ぶ。


 市蔵は、また槍を出す。


 今度は、脇だ。


 布が裂ける。


 体が折れる。


 倒れる。


 その隙間に、足が入る。


 人が押し込む。


 柵の中は、もう列にならない。


 槍と肩がぶつかる。


 市蔵は、槍を短く持つ。


 突く。


 抜く。


 また突く。


 声が変わる。


 城側の声だ。


 高い。


 誰かが叫ぶ。


「引け!」


 柵の奥で、人が下がる。


 背中が見える。


 織田の兵が、前へ出る。


 土が踏み固められる。


 出城の中に、


 木瓜の旗が立つ。


 戦は、そこで崩れる。



 市蔵は、立っている。


 槍の先に、血がある。


 息は乱れていない。


 出城は、落ちている。



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