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仇巡の残火行 (あだめぐりのざんかこう)― 信長への復讐譚  作者: 直助


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村の灰

 早朝。


 まだ、薄暗い。


 眠っていたのか。

 意識が飛んでいたのか。


 よく、分からない。


 市蔵は、立っている。


 村の中だ。


 誰も、動いていない。


 煙の匂いが、残っている。


 市蔵は、歩く。


 焼けた家がある。

 崩れた家がある。


 壁が、黒い。


 柱が、傾いている。


 屋根の半分が、落ちている。


 焦げた匂いが、強くなる。


 まだ煙が出ている。


 土の上に、灰が広がっている。


 崩れた梁の下で、

 赤い炭が、まだ残っている。


 小さく、光っている。


 火は、消えている。


 だが、熱は残っている。


 市蔵は、立ち止まらない。



 家の跡がある。


 土間。


 倒れた棚。


 割れた椀。


 鍋が、転がっている。


 水が、半分残っている。


 畑道に出る。


 鍬が、置かれている。


 誰かが使っていた形のまま、

 土に刺さっている。


 市蔵は、歩く。


 ふと、足元を見る。


 土の上に、跡がある。


 小さい。


 裸足だ。


 子どもの足跡だ。


 土を蹴るように、続いている。


 村の外へ向いている。


 市蔵の足が、止まる。


 動かない。


 息が、浅くなる。


 袖に、手が入る。


 触れる。


 小さな草履。


 そこにある。


 形は、少し歪んでいる。


 だが、確かにある。


 市蔵は、草履を出さない。


 触れたまま、止まる。


 袖の内に、赤がある。


 乾いていない。


 指に、触れる。


 市蔵は、顔を上げる。


 視界の先に、木がある。


 村の中心だ。


 晒し台。


 縄が、揺れている。


 首が、並んでいる。


 風が、弱く吹く。


 縄が、少し動く。


 市蔵は、目を逸らす。


 踵を返す。


 空が、少し明るくなる。


 黒かった屋根が、形になる。


 煙が、薄く上がる。


 誰かが、起きる。


 遠くで、声がする。


 人が、動き出す。


 焚き火の灰が、掘り返される。


 槍が、拾われる。


 鎧が、鳴る。


 列が、また動き始める。


 誰かが、前へ歩く。


 それに、続く。


 市蔵も、歩く。


 土の上に、灰が広がっている。


 踏む。


 音は、ない。


 灰が、靴の下で潰れる。


 市蔵は、歩き続ける。


 村の外へ向かう。


 次の場所へ。


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