誤作動?
「あらどうしたの?隠し子?」
「違うわ!!」
少女を背負って宿屋に駆け込んできたパノーレを見るなり、マツバはからかうように言った。
「そう。とりあえず頼んでいた薬草は取ってきてくれたのかしら?」
「……。」
パノーレは無言でそっぽを向いた。マツバはすべてを察した。
「え、本当に迷子になったの?」
「いや違うの!ちょっとショートカットしようとしたら元の道がほんの少しだけわかんなくなっただけなの!」
顔を戻したパノーレの耳は真っ赤だった。
「人はそれを迷子っていうのよ。とりあえずその子ベッドに寝かせてきてあげたら?」
子供みたいに言い訳をするパノーレを適当にあしらいつつ、マツバは提案する。
「最初からそうするつもりだったのにマツバが変なこと言うから…」
ブーブー言いながらもパノーレは自分の部屋へと向かう。
その間にマツバは疲れているであろう彼女のために飲み物を作るのであった。
* * *
部屋から戻ってきたパノーレにマツバはコップを差し出す。
「はい、私特製回復酒。あんな山で迷子になった挙句薬草を取ってくることすらできなかったみたいだけど、かなり動いたみたいだからね。これは労いよ。」
「最初と最後の言葉だけでよかったでしょそれ…」
そう言い、酒を一口飲む。
「な、辛ッ!酸っぱッ!刺激強ッ!何入ってんのよこのお酒…」
「あっはっはっは!」
マツバが大笑いしながら説明する。
「いや大したものは入ってないわよ。体があったかくなるショウガ、疲労に効きやすいバイナ、魔力が回復しやすくなるマリークリー。でその刺さってる花がローズよ、体の緊張がほぐれるわ。あとは私の魔法でちょちょいと味を調えて…」
「味の元凶あんたじゃないのよ!」
「失礼ね。元の素材のまんま出したら人によっては吐くぐらい変な味がするのよ。」
「じゃあこれでもマシになった方なのね…」
「だからあえてその味の強さを倍にしてみることにしたわ。」
「やっぱ元凶あんたじゃないの!!」
マツバは再び大爆笑する。一方のパノーレは軽く不機嫌になりながらもちびちびと酒を飲んでいく。
ひとしきり笑ったあと真面目な顔でマツバが聞いた。
「で、結局あの女の子は誰なの?どこかの貴族の子供のおもりでも任せられた?」
そこでパノーレは少女と出会ってから今までのことをすべてマツバに話した。
「ふーん。じゃあ別にあの子はあんたの迷子とは関係ないんだ。」
「もういいでしょそれは…」
パノーレは机に突っ伏す。
「でも不思議ね。木にかなり近づくまであなたに気づかれなかったなんて。魔力なら町一つ分離れててもあなたなら見えるはずでしょ?」
「うん…衰弱してて魔力が減ってたっていうのはあると思うんだけど、ちょっと不思議だったのよね…」
パノーレは姿勢を戻しつつ神妙な面持ちで言う。
「何?どうかしたの?」
パノーレの様子にマツバも真面目な表情になる。
「いや、気の所為だとは思うんだけどね?あの子の魔力が最初に見えた時にね、一瞬だけそれが黒く見えたのよ。」
「黒って…魔物たちが持ってるあの?」
「そう。だから私も一瞬魔物だと思っちゃったんだよね。」
「でもあの子の魔力、さっき見た感じ白かったわよ?」
「そうなのよ!一人の人間から二色以上の魔力の色が見えることなんて聞いたことないからさあ。」
「そのときあなた歩き回って疲れてたんでしょ?だったら普通に見間違えただけだと思うけどね。」
「やっぱりそうかな。あとあの子すぐ寝ちゃったから名前も聞けなかったし。」
「まあその黒い魔力にしても、あの子が何者かっていうことにしても、彼女が起きてないことには話が進まないから、もう今日はあなたも寝ちゃいなさい。続きのことは明日ね。」
「そうね。じゃあお酒ありがと。」
「あ、薬草も明日こそね。」
分かってるわよ!、そういってパノーレは部屋へと戻っていった。
パノーレが部屋に戻ったのを確認して、マツバは受付の片付けを始めた。普段はもう閉店している時間だったが、パノーレの帰りがあまりに遅かったので念のため開けておいたのだ。
ふと、宿屋の入り口に置いてある置物が目についた。それはは魔物の持つ黒い魔力に反応して、誰かが止めるか探知範囲内の魔力が無くなるまでビョービョードのという鳥の鳴き声を発生させ続ける魔道具だった。
「もしかしてさっきのは…」
マツバは少し前に起こった奇妙な出来事を思い出していた。
時は少し戻りパノーレが町に到着した頃。
マツバは宿の受付に座りながら、薬草に関する本を読んでいた。
(あの子は何をしてたらこんなに遅くなるのかしら…)
カウンターに置いてある水時計を見るとそろそろ日付が変わりそうな時間だった。
(まさか本当に迷子になったんじゃ…いやでもあんな山じゃ流石に…)
『ビビッ!ビョ』
突如けたたましい鳥の鳴き声が宿屋の受付に鳴り響き、そしてすぐに鳴り止んだ。
「…?誤作動かしら。この魔物探知器もだいぶ古いものね。にしても一瞬しか鳴ってないのに耳が痛くなるわね。」
マツバは反射的に耳を抑えた手を離し、鳥の形をした魔道具を持ち上げる。
「もしかしてパノーレに反応したのかしら、魔物と戦ってたなら帰ってくるのがこんなに遅くなるのも理解できるわね。」
魔物の黒い魔力は他の魔力に混じりやすく、その場に残りやすいという性質があり、探知範囲が町の入り口まで届くこの魔道具が魔物を倒してきた冒険者に反応するのはときどきあることなのだった。
またそのときに運悪くマツバが外出しており止め方が分かる人がいなかった場合に、その日の宿屋の利用客は耳栓を一日中つける必要があることもあった。しかし、
「でもなんで勝手に止まったのかしら。私がまだ触ってすらいないのに…」
そんなときに宿屋の扉が開き、真っ白な少女を背負ったパノーレが現れたのだ。
そして現在。
「タイミングを考えるとパノーレだと思ってたんだけど…」
しかし彼女の話を聞く限り魔物と戦うようなことは無かったようだ。
「やっぱり怪しいのはあの子よね。」
先ほどの話を聞いて彼女を連想しない方が難しいだろう。
(でもやっぱり…)
考え込みそうになりふと水時計を見るともう日付が変わってしまっていた。
「まともに考察してたらお日様が昇ってきちゃいそうね…今日はもう寝るかあ。」
マツバは手際よく受付の片付けを終わらせて、誤作動かの結論は一旦忘れて眠りにつくのであった。
件の魔道具は相変わらず静かなままだった。




