03 その距離を越えるとき (完)
「お花?」
私のところにセレンは毎日やってくる。
もう2週間。
療養、と両親に休まされているから、セレンに仕事の負担は行ってるはずなのに。
「……花とか全然わからないから、花屋の受け売りなんだけど、その前も一本、一昨日も一本、昨日も。そして今日も。どう? いつか花束になるんじゃない? その前に枯れるか。はは」
「ダメじゃん」
自然と笑顔になる。
セレンは優しい。
でも、あんまり優しいから、ちょっと期待してしまう。
だから線を引く。
「散歩でも行く?」
断ろうとして。
「行ってくればいいじゃない」
母の声。ニヤニヤしてる。
「でも……」
「だめ?」
眉を下げたセレンの顔に。
「……ダメじゃない」
……ずるい。イケメンは、卑怯だ。
公園に着くと、夕日が溶けているようだった。
セレンの姿が照らされて、鮮やかに浮かぶ。
思わず見惚れて。
「綺麗だ」
セレンが、こちらを見て、うっとりと笑った。
どきりと胸が音を立てる。
「……セレン」
セレンは、落ち着きなく手を握ったり開いたりしながら言った。
「リディア」
あんまり真剣で、向き直る。
彼はひざまづいた。
「ごめん……限界だ。
ちょっと早いけど、言わせて」
「セレン?」
「僕は……君が、好きだ」
その言葉に、咄嗟に反応できなかった。
長年のアーノルドの婚約者であった時の名残から、ダメだと反応しそうになる。
でも、もうそれは終わっている。
私は、深呼吸した。
「続けて、セレン」
ああ、と彼は頷く。
「もっと、リディアが落ち着くまで待とうと思ってた。でも、僕には策略家は向いてないみたいだ」
情けなさそうに笑いながら、その目は私をしっかり捉ええて離さない。
「……いつから、私のこと好きだったの?」
ずっと前から、と彼は言った。
あの時も、この時も、セレンと過ごした時間が浮かびすぎて、私まで胸が苦しくなってしまった。
「ごめん……気づかなくて」
いいよ、と彼は言った。
すっきりした顔で。それにむっとした。
「ちょっと、返事いらないの?」
「そんなに、気持ちって簡単に整理できるもんじゃないだろ?」
待つよ、なんて言うから。
「……待てない」
思わず私はセレンを睨んだ。
「セレンのバカ。……すき。」
え? と彼の唇が動く前に
「さっさと立ち直って、仕事するよ。……やけじゃないの。ちゃんと……すきだから」
私の顔はきっと真っ赤だと思う。
セレンが嬉しそうに、微笑ましそうに笑ったから。
「もう」
怒ったふりをすれば、セレンは今度こそ声を出して笑った。
「リディア」
後ろから腕を引かれ、抱きしめられる、ひっくり返され、額にキス。
「……調子に乗らないで」
ごめんね、なんて余裕たっぷりに笑うから、
私はセレンをぎゅっと抱きしめた。
彼は、いつも私を調子に乗らせてくれる。
すき。




