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8探索

誠は、自分はただUになりきることに専念し、幽霊たちに情報収集を任せた。


初めからそうすれば良かったのだが、まず幽霊に手伝ってもらわないとUという別人格になるのは不可能だったし、周りも分からないことだらけだ。


慣れてきた今だからこそ、それが出来た、というところだった。


マネージャーの八千代さんやkiil♡にも幽霊を付けて動向を探らせる。


身近に付き合ってみて、まさかこの内向的な少女が、とはもっと内向的な誠でさえ思うのだが、kiil♡も音楽では、大人の女の歌や、男の歌なども歌っている。


kiil♡の性格を知ってるからこそ、彼女の頭からそれが出てきたのか、それとももしや影の力なのか、解らないところがあった。


あとビデオにクレームを付けていたライトも同じ事務所なので見張ることにした。


後のメンバーは誠がUを演じる上では必要なので周りに残す。


ドラマのヒットの後、Uには演技ができる、という認識が生まれてしまった。


映画、ドラマ、舞台などの話も舞い込んでくる。


潜入捜査をする上では、多くの人と出会ったほうが良いのでありがたいのだが、誠個人的には新しく出会う人は、人格が分からないだけにプレッシャーだ。

誰とも出会わない事が誠にとっての幸福だった。


4月末のライブは後二週間に迫っていたので、練習にも熱が入る。


ただ曲を練習し、うまく弾ければOKなのかと思っていたのだが、ゴンドラに乗って会場を回ったり、舞台の花道を歩きながら、ファンに手を振ったりしながら演奏もするらしい。


衣装替えや、会場にプレゼントを投げ入れたり、もUの役目だった。


多くのスタッフが出入りをする。

その辺は一人一人に幽霊をつけるのではなく、グループに一人、情報収集をしてもらった。




山野大地はプロレスラーだった。

大手団体に所属し、その中でも若手の出世頭だ。


プロレスというとヤラセと言われることがあるが、現実には違う。

何故ならば、ほぼ毎日、興行を行うプロレスは格闘技であると共にショーだからだ。


つまり対戦相手も演者であり、むげに怪我をさせたりスケジュールに穴を開けるような遺恨を残したりするのは二流三流の仕事なのだ。


彼らは同じプロレス団体に所属する仲間であり同僚だった。


無論、見に来たお客さんが失望するような、明らかな手抜き攻撃は慎むべきだ。


ただし、格闘技であると共に、アクロバティックなスポーツでもあるプロレスは、体操競技的な運動神経と投げ技に耐えるスタミナ、見るものを圧倒するスピードを兼ね備えたものがスターになる。


だからオリンピックでメダルを取った格闘選手がプロレスでは二流だったり、それ以下になったりするのは、空中戦を演じるだけの足腰が無かったり、長丁場を演じるスタミナや演技力に欠けているからだ。


総じてオリンピックに出て栄冠を手にし、引退したアスリートたちは体のどこかに怪我や古傷を持っており、そのため膝、腰などに負担はかけられないなどの不備があった。


その点山野は高校卒業とともに団体に入り、野球部で培ったスタミナと天性のバネで短期間で多くのファンを獲得した。


体は決して大きくないが、二百キロに近い大型レスラーをブレンバスターで投げ飛ばし、トップロープから上に飛んでの二階転ボディアタックや派手なカンフーキックでファンを魅了した。


そんな山野は地方巡業から久々に東京に帰ったその日、青山の会員制レストランで意中の女性とリラックスしたデートを楽しんでいた。


近くにホテルを取ってある。


最近はプロレスラーも昔のように地方で遊ぶことも難しくなった。

むしろ安全なのは都内の信頼できる店での娯楽だ。


このレストランでは、頼めばプロの手品師がテーブルマジックで楽しませてくれる。


数ヶ月前に知り合った女性は介護士で、極めて真面目な人柄だった。

今日は、少し多めにお酒を飲んでもらい、マジシャンの力も借りながら、終電を忘れさせ、ホテルへ向かう予定だった。


マジシャンに彼女を楽しませてもらっている内に、山野はトイレに立った。


狭い廊下を歩くと、小柄な男が立っていた。


「すいません」


山野は至って腰が低い。


鍛え上げた体で大きく出ると、普通の人は、それだけで脅かされているように感じるからだ。


「山野大地だな」


少年の声だった。


「ん、ファンかい?」


「ある意味ではね」


ある意味?

山野も大量の筋肉を蓄えた体に、二本のワインと数杯のカクテルを入れていたので、一瞬戸惑った。


その瞬間、山野の体は天地が逆になり、足が天井につくと、そのまま脳天から硬いコンクリートの床に落ちた。





プロレスラーの山野大地が亡くなったニュースは、かなり大きく報道されたが、誠は全く知らなかった。


恵比寿のマンションでは、テレビは颯太のゲームが賑やかな音楽を撒き散らしていたのだ。


誠は簡単にパンとフルーツで朝食をとり、仕事に向かう。


「山野大地が亡くなった、ってU君聞いた?」


八千代さんはkiil♡に付くことが多いので、Uの送り迎えは助手の橘が担当している。

至って気さくな二十代の青年だ。


「おー、聞いたよ、ショック!

俺、結構好きだったんだよね」


と言うのは裕次だ。

ロック少年と思っていたがプロレスも好きだったらしい。


「イケメンだったのに残念よー」


橘は、やや二丁目の臭いがする。


「格好良かったよな、トップロープからのダブルループアタック!」


「リングでスニーカー履くの、山野大地からだったみたいよ」


と、盛り上がりながら放送局につき、ロケバスでラーメンの食べ歩きをする。


誠は、味噌やら豚骨やら牛骨やらのラーメンを食べた後、サービスエリアのトイレに入った。


隣に中年男性が立つと、誠の前に折った新聞を置く。


新聞は男性が持って行くが、レシートのような紙が残る。


(山野大地の死体が消えた。

ラッキョウにされた)


誠はレシートをポケットに入れ、トイレを出た。


ポレホレの実。

怪物たちを強化する、死体から作られる小玉葱かラッキョウを思わせる小さな球だ。


敵は少しづつ動き始めているようだった。


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