6新アルバム
kiil♡の新曲は前にも増して大ヒットになった。
アルバムも作る話になってくる。
曲自体は、kiil♡はとても真面目に作っているのですぐに決まったのだが、誠たちのスケジュール地獄に、更に録音やスチール撮影などが加わる。
新曲ホワイトノートはデビュー曲の過激さと打って変わってのピュアな歌詞が共感を呼んでいた。
ライブの構成も、こうなるとセカンドアルバムも入れないとおさまらなくなり、演出も変更される。
川上は、無論ライブまで見に行く気は無かったが、オンラインライブなら見てもいいか、と思いだした。
が、ファンクラブに入る、というのがハードルが高い。
女ばっかりなんだろうな、などと思っていたのだが、いざ登録してみると、半数は男だった。
川上はkiil♡の容姿にはあまり惹かれなかったが、誠Uが入ったことで、互いが互いの容姿を高めるような感じになったらしい。
どちらも中性的であり、髪も短く、男とも女ともとれる衣装を着ていた。
ファンサイトには熱烈なメールが溢れており、意外にUの人気が高い。
まー、確かにあーゆー感じの芸能人ってあまりいないよな、と誠を知る川上は思う。
そしてなんと、Uには、ドラマ出演まで決まってしまったのだ。
「えー、さすがに演技とか無理ですよ!」
誠は、地で取り乱している。
元々は、ホワイトノートからkiil♡は過激な曲だけでなくピュアなポップスもかける、と知ったテレビ局が、kiil♡の主題歌でドラマをやりたい、というのが始まりだったが、ならUを出そう、と勢いでなってしまったものらしい。
普通は、それでも話があってから脚本が書かれ、キャスティングが決まり、半分も撮影がされてから発表、というのが普通らしいのだが、Uを出すというのはオマケで、ストーリーにあまり関係ない部分だったため、飛び込みで誠は、ドラマ撮影に放り込まれた。
台本を覚えるのは幽霊もいるので大したことではないのだが、演技となると誠も未知の領域だった。
だが、この親に反抗する少年、という役は、何故かUにハマっていたのか、撮影ごとに評価が高くなってきた。
どんどんセリフが多くなり、出番も増える。
激務ではあった。
ただしkiil♡から離れた仕事なので、事務所を探る時間は出来た。
ファンサイトを見ると、一部学生連合のサイトにあったようなミッションを行い、アイテムやポイントを貯めるシステムもあった。
もしかすると、この辺を調べれば面白いかもしれなかった。
誠は有線電話でそれを話し、後は仕事に没頭した。
それ以上はさすがに無理だ。
「あんたがお母さんを殺したんだ!」
メインの話はあるOLが不可解な殺人事件に巻き込まれるサスペンスなのだが、事件を追う刑事の息子、というどーでもいい役に誠は抜擢されている。
この刑事さんもドラマや映画でよく見かける主演級の俳優さんだ。
最初の数話では刑事の帰宅時に急に口をきかなくなる、程度のシーンなのだが、なにしろ後からの付け足しなので五話が一気に撮影された。
どうして口をきかないのか、虐めなのか、と心配していると、やがて少年は母の死に父親が関わっている、と言い出す。
どうやら少年に何かを吹き込んだ者がいるらしい、というシーンが一日で撮影された。
そして急遽編集され放送されたのだが、何故か虫も殺せない風貌の誠が父親に反抗する、という演技が意表を突いていて良かったようだ。
サスペンス的にも、OLが殺人に巻き込まれるのと同時に少年がそそのかされる、というのが新しい謎になって見る人を惹きつけた。
好評、となると誠が図書館で古い新聞を閲覧する、とか、その頃の事を知る親戚を訪ねる、などのシーンが増えていく。
撮影が追いついてくると、メインキャストの人々との絡みも多くなる。
主人公のOLやその友達、恋人など。
やがて第二の殺人が起こり、OLの親友が殺されてしまう。
OLは恋人とデートをしていた、という確実なアリバイがあったのだが、何故か恋人は証言を拒む。
一方の少年には、母親の死の真実を教える、という宛先不明の手紙が届き、少年は言われるがまま京都に向かう。
少年は祇園である舞妓から、話を聞くのだが、その舞妓は母と中学の同級生なのだという。
手紙のやりとりを卒業後もしていたのだが、1年ほど音信不通になったことがあった。
その後、少年の父との結婚を知らされた、という。
だが、その音信不通の夏、舞妓さんは少年の母を京都で偶然見た、という。
貴船神社の川床で、男性と二人、楽しそうに過ごしていた。
それは後で知った少年の父ではなかった、という。
また、その男と再会しているのは、結婚してからの定期的な電話でもハッキリではないものの感じ取れた、という。
「こういう疑似恋愛みたいなお仕事をさしてもろてますと、判るようになるもんどす。
女の勘は、当たるものなんどすえ」
父親とは別の、京都に二人で泊まりがけで旅行に来るような男……。
少年は衝撃を受ける。
早速家に帰って母の古いアルバムを探す。
そこに京都の写真が見つかり、一人の男が写っていた。
と、主人公のOLが少年の家を訪ねてくる。
彼女は死んだ母の年の離れた友達だったのだ。
少年がテーブルの上に広げていた男の姿に彼女は驚愕し……。
というような展開なのだが、作風が独特で、おそらく誠のシーンが後付けのこともあり、スムーズに流れないのが逆にサスペンスを盛り上げた。
番組宣伝などでkiil♡抜きの出番も増え、待ち時間が多くなるとファンサイトを誠もチェックする時間ができた。
ファンサイトには、Uやkiil♡のコラムもあり、現場の写真が載り、二人のスケジュールが出て、ショップのコーナーにはグッズが並ぶ。
その他、ファンのお手紙などもあり、kiil♡とUが得点をつけると相応のペイが感想と共にもらえる。
そのペイはグッズ購入やチケット購入などにも使えるのだが、チャレンジコーナーもあり、どこかの山に登った、とか、どこかの店でこれだけ食べた、とかの課題をこなすとペイが与えられた。
一見普通だが、あまり知らない市井の食堂などでの特定のオーダーでポイントが手に入った。
疑ったらきりもないが……。
しかし、元ツカサの事務所社長の始めた新事務所なのだから疑わざるを得ない。
ドラマは大詰めになってくる。
OLと少年の母の共通の知人は、少年の父の相棒の刑事だったのだ。
少年は父親の若い相棒に面会を申し込む。
と、かなり豪華なレストランに呼び出された。
写真の事を聞く少年。
三人で旅行をしたのだ、と刑事は言い逃れるが、誠は、二人で川床にいたのを見た人がいる、と追及する。
「たまたまお父さんは京都府警に用があったので、その日はいなかっただけさ」
ただし舞妓さんは、二人はただならぬ仲だ、と話していた。
この人を知っていますか、とOLの写真を見せると知らないという。
「あら、ずいぶんね中島君」
OLが席に割り込んでくる。
「写真と印象が違った」
と中島は苦しい言い訳をするが。
「それと、父と貴方がコンビを組んだのは確か七年前で、この写真は十年前のものですが、その頃からの知り合いだったんですか?」
まだ巡査だったが、お父さんとは知り合ってたんだよ、と言い逃れる中島だが、少年の父親もその場に現れた。
スマホで近くの父に会話を送っていたのだ。
「十年前、俺の嫁さんは結婚詐欺に遭っていた。
その犯人がお前だな」
銃を取り出し、周りを威嚇する中島。
ドラマは、ラストの高層ビルでのアクションでフィナーレを迎えるが殊の外好評だった。
「ドラマ見てたよ!」
kiil♡が言い出した。
「Uずごくよかったよ!」
そう言われても誠は困惑しか無いのだが……。
本来なら、もっとkiil♡と仲良くなり、事務所の内情などを聞き出したほうが良いのだろうが、そんな誰にでも仲良くなる高屋さんのような能力は誠には無い。
kiil♡とはもっと仲良くなって、身の上話でも聞き出せれば良いのだが、何しろ誠は、付き合ってる、とされる霧峰静香の家庭の事すら何も知らないまま今に至っているのだ。
他人に興味がない、などと嘯いてはいたが、誠自身、だんだんコミュ力が絶望的に低いことを痛感しないわけにはいかなかった。
本来、何か怪しい点を見つければ、早くこの無間地獄のような芸能活動から抜け出て、本来の誠の生活に戻れるのだが、これだけ仕事をしていて、誠はkiil♡ともマネージャーの八千代さんとも仲良くはなれなかった。
これは、もうやり方を変える以外無かった。
幽霊たちを解き放ち、周りのあらゆる事を盗み聞くのだ。
だが、芸能情報は色々手に入ったが、過去の学生連合につながるような話は聞けなかった。
気になることと言えば、ドラマで犯人役をやっていたライトが、かなりコソコソと何か電話をしていた、らしいのだが、話の内容はビデオの質が満足いかない、というクレームらしかった。
何かがあるとは思えない話だった。