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47日常

誠たちが大地母神と会話しているのは、果てしなく広がった田畑の中を通る一本道だった。


土の道だ。


民族文化村では、どういう仕組みか、土の道でも雨が降っても泥だらけにはならない。

しかし、普通にセミなどが沿道に植えられた草花に登って脱皮していた。


よく見ると、農作業をしている人々や、それを写真に収める人なども多い。


「え、あれは売店の……?」


美鳥が驚いた。


「現実空間では休んでいないように見えても、民族文化村の人々は桃源郷に遊ぶ権利を持っているのです」


現実では社畜でもメタバース内では豊かな暮らしという事らしい。


「こういう所があるのなら、無理に現実の土地を荒らさなくともいいんじゃないんですか?」


誠は聞くが。


「全ては補完関係にあるのてす。

現実なしに桃源郷だけでは存在できません。

外と内がある事により、互いに豊かになるものなのですよ」


「だったら東京で起こした事件はなんなんです?」


誠は不意に腹が立った。


「浅草に民族文化村を作る場合、補完する土地の毒は吐き出さねばならなかったのです。

それはあなた達に阻止されましたが」


環状八号線を移動したヘドロのような怪物、学生連合などの悪事は、土地の毒、と言うのだろうか?


「そんなにしてまで、何故東京に桃源郷を作ろうとしたんです?」


「作ろうとしたのは人間、あなたが伊吹として知る人物です。

私は桃源郷が出来ると共に、桃源郷の一部として生まれるのです」


「だけど伊吹さんを支配できる立場にあると?」


「神ですから」


「そんじゃ、小百合たちを返してよ!」


ユリコが不意に叫んだ。


「彼女たちは、今、私の手の者と戦っている最中なので、今すぐは無理です。

私は、あなた達と殺し合う意思は無いし、よい関係を結べるはずなのですが、無理に精神を支配することは出来ません。

どんなに力のある神も、他の神の信者を無理やりには奪えません。

それが神の理なのです」


「しかし、今日も今まで、あなたは僕たちを騙すような態度を取っていましたよね?」


誠は言葉じりをとらえた。


「試したのです。

試すことは、理には反しません。

世界中の神が、人を試すことはあります」


よく分からない理屈だが、神話の話ならばヘラクレスの試練とか、その手の神々のいたずらは少なくない。


「そういう相手を信じろ、と?」


誠は聞いた。


「見ていただきたいのです。

この世界を。

こういう日本を作ることが私には出来ます。

鳳総理には不可能なことです」


「最初から思っていたことですが、するならラオスをすればいいんじゃないんですか?」


誠が強い口調で言うと、大地母神は、


「ラオスは豊かな国ではありません。

社会主義国家であり、中国の圧力が強く、またマフィアが大きな力を持っています。

伊吹は悪人と思うでしょうが、ラオスマフィアとしては善良な仏教徒でもあるのです。

チャイニーズマフィアや、それと根っ子で結びついている中華系企業などの傍若無人な振る舞いとは違うことは誠さんも分かるのでは無いでしょうか」


確かにちゃんと話した伊吹は、マフィアというような威圧感は感じない人物だったが、それはUとして話したから、とも考えられる。

伊吹は学生連合や顔泥棒、最近ならライトを何度も助け、韓国からラオスに逃がそうとした顔も持っているのだ。


「僕らは仲間との合流を望んでいます。

僕らに敵意が無いというのなら、小百合さんたちと合流させてもらえませんか?

仲間がみんな、正気で無傷であるのなら、その時に僕ら全員と今の話はしたいと思います」


誠が言うと、ユリコが誠をクチャクチャと髪をかき混ぜ、


「そうだぜ。

俺達の言い分は、それだぜ!」


言ってから、


「お前、頭に何つけてんだよ、誠のくせに!」


「今は、ちょっと整髪剤をつけてるだけてすよ!」


誠は今までが無弾着だったので、そんな事を指摘されるのも恥ずかしい。


大地母神は、少し考えたが、


「いいでしょう。

しかし、戦いの中に飛び込むのですから傷を負ってもこちらの責任ではないですよ」


言うと、誠たちはポンと、田園から、険しい洞窟内の崖の途中にある、岩を削った細い道にテレポートした。


光は消えるが、影繰りの視力で周囲は見える。

全員、慌てて崖に張り付くが、どうもその先で戦いの気配がしていた。


「おし、小百合を助けるぜ!」


親友であるユリコを先頭に、誠たちは気配を辿って崖の道を進んだ。


「えっ?」


小百合は必死に戦っていた。

足元には胸から血を流した井口と、彼の傷を塞ごうと懸命に治療するハマユの姿があった。


だが問題は戦っている相手だった。


自在に空を飛び、小百合の髪を避けながら無数の触手のようなものを伸ばす相手。


それは誠にしか見えなかった。


「えええっー!

僕っ?」


流石に驚愕する誠だが、猫は、


「いえいえ。

ウル○ラマンと偽ウルトラ○ンくらい違いますよ」


と、微妙な慰めを語る。


「誠!

驚いてないで早く井口君をお願い!」


美鳥は指示して、大量の蝶を飛ばした。


あ、はい! と誠はハマユの隣にしゃがんだ。


氷で傷口を塞ごうとしていたが、血液は体温の熱を持っているため上手くいかない。

また、失血は体温低下をもたらすため、凍らすのは体温低下を早める事になる。


「ハマユさん、治療は僕がやります」


ハマユは誠を二度見したが、


「そうよね。

あなたが敵方になるとは思えなかったもの」


と微笑んだ。


傷は鋭い刃物で付けられたようだったが、幸い、内臓は傷んでいなかった。


すぐに影の糸で縫合し、水分くまり神の水を井口に飲ませた。


輸血には及ばないが、失血による脱水は防がないといけない。


薬などはないが、誠は独自にツボに関する知識を手に入れた。


「ここが血海ってツボだ。

こうマッサージするのさ」


大は医師のいない海で仕事をするので、ツボなどの知識も持っていた。


傷の治療を終えた誠は、偽の自分と対峙した。


自分を見ると死ぬ、というのはドッペルベンガーだったろうか?

オカルト嫌いの誠はうろ覚えだったが、確か見ると死ぬ、と言われていたような気がする。


ただし、誠はUをしていたため、画面で自分を見ることは何度もあった。


が、ここまで悪そうな顔をした自分を見るとは思っていなかった。

空に浮かんだ誠は、勝ち誇ったように薄く笑い、小百合の髪を無数の影の手で乱暴に掴みながら、小百合本体に影の手を伸ばしてくる。


誠は、小百合の周りに蒸気の壁を張った。


影の手が遮られる、とすぐに偽誠は誠を睨んだ。


自分がこれほどの悪意を顔に浮かべられるのか、と誠は慄く。


と、不意に偽誠は、口角を上げた。


「お前を殺せば、僕が本物、って事だ」


クツクツと喉で笑う。


「僕を殺したって君は本物にはなれないよ。

ちょっと頭が悪すぎる」


誠は嘆息して言った。


「ぶち殺す!」


偽誠は、影の手を誠に伸ばした。


誠は、偽誠の耳石を引力で浮かせた。

ほんの数ミリの耳石の揺れ。

だが、それで人間の平衡感覚は致命的なダメージを受ける。


あ、と言う顔のまま、偽誠は谷底に落ちていった。


「空を飛ぶっていうのは、そんな簡単じゃないんだよ」


飛行機械で飛ぶのであれば無数の機械が飛行をサポートする。


だが生身で空を飛ぶのは肉体感覚だけが頼りだ。

平衡感覚が狂ったりすれば、一瞬で飛行バランスは狂う。

片足でスカイツリーの天辺に立つよりも、生身で飛行するのは高度な身体能力を必要とするのだ。


「偽物は偽物ね」


美鳥は谷底を冷たく見下ろした。


井口は立ち上がった。


「なんか傷口に貼ってあるのか?

痛みがほとんど無いんだけど?」


「影の手の応用でテーピングしています。

痛みは神経を鈍くしているだけですから、無理はしないでください」


小百合はマジマジと誠を見て、


「悪に染まると誠でも顔が引き締まるのかと思ったら、いつものとぼけた誠だべ」


と言ったが。


「まー本物の方が人畜無害でいい」


フォローなのか不明だったが、周りは納得したようだった。


「後は信介と教官か。

芋之助さんと遭遇する前に、なんとか出会いたいな」


カブトは言う。


芋之助が敵の手に落ちてる話をすると、小百合も唸った。


「あれは敵に回したくない男だべ」


「教官や信介君も敵に回ったら勝ち目は薄い相手ですよ」


誠は言う。


近代戦闘を一人で破壊するという戦場の黒い獣と、正確な予知能力と変幻自在の戦闘能力を持つトリックスターだ。


崖では休めないため、誠たちは細い道を進み続けた。

やがて道はトンネルになり、少し広くなった辺りで誠たちは休憩した。


怪我人も多いし、皆、疲労は蓄積していた。

そして火山に近いからか、桃源郷は当初予想していたよりも十度近く暑かった。

手は袖を折るぐらいは出来るのだが、足は脛を守るロングブーツを履いていた。


「暑いなぁ」


カブトが唸る。


「こんなんでバテるなよ」


体力自慢のユリコは笑う。


「でも信介君はどうしたんだろう?

彼なら、カードで占って、すぐに合流できそうだけど?」


ユリは言うが、誠が。


「僕が隙間を抜けてあちこちに移動しているんで、困っているのかもね」


ジッとしていられるものなら、動かないほうがいいかもしれない。


「あいつは強いんだが、アバターだからな。

本人の体力は常人と変わらない」


カブトは冷静に分析した。


内調では素顔で泳いだり走ったりはしていたが、戦闘訓練はアバターで行う。


本体は変身したり、透明化する程度の能力だった。


「ずいぶんな言われようだね」


えっ、と誠たちが洞窟の奥を見ると、小柄な少年が歩いてきた。


「え?

信介君?」


誠は驚く。

いつものアバターの信介ではなく、誠とあまり身長も変わらない、虚弱そうな少年が歩いてきていた。


「別にね、僕はアバターにだけ力を与えられる能力者じゃ無いんだよ。

その気になれば僕本人にも力は与えられる。

むしろ動きやすいくらいさ。

ダメージは怖いけどね」


アバターは無敵で、不老不死だが、本体なら傷を負えば戦闘力は低下する。


全員、素顔の信介は知っていたので言葉に嘘がなさそうなことはわかった。


「モテたいのは分かるけど、別に素で勝負してもいいんじゃないか?」


川上は言うが、信介は顔を赤らめながら、


「僕は、なんていうか、慣れてないんだよ。

自分でいると、思う自分が出せないんだ」


演じる事に慣れすぎて、素ではどう振る舞っていいか分からない、らしい。


「とにかく合流出来て嬉しいよ」


誠は言うが……。


「もっと前に会えたんだけどね。

ただ、この数を相手にするのは難しそうだったから……」


信介ははにかむように笑った。


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