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43敵の本体

巨大角ウサギが、蛇の首に外から角を突き立てた。


だが蛇の体表は固い鱗に覆われていて、角を弾いた。


くそっ、駄目か!


川上は唇を噛むが、なんと影のウサギが吠えるように鳴いた。


「え、角笛?」


川上が戸惑いながら角笛を吹くと……。


ウサギが蛇から離れると、高速で走ってジャンプをした。


空中でウサギは、竜巻のように回転する。


そのままうねりながら蛇に角を突き立てると!


バン、と鱗が割れてウサギは蛇を貫いた。


川上の兎の力か、福の毒の効果か分からないが、首が力を失う。


「川上君、凄いよ!」


誠は川上を称賛するが、猫はブスッと。


「早くあたしが切り裂いとけば良かったです!」


と頬を膨らませた。


だが通路に、ボトリと、長さが五、六メートルの蛇が、落ちてきた。


「なんだ、子供か?」


カブトは小ささに笑うが、


「これは毒があるべ!」


福が叫んだ。


「今度は毒蛇なのか?」


川上は目を丸くするが。


「福は深い海で獲物の存在を察知する力がある。

位置はハッキリとは分からないが、それがどんな魚か、は分かるのさ」


と大が胸を張る。


「まー頭潰しゃーいいんだろ?」


ユリコが棒を構えるが、福は。


「上から大量に出てくるべ!」


量が多いとなると、誠たちも慎重に対応せざるを得ない。


全員が数歩、後に下がった。


同時にバラバラと蛇たちが落ちてくる。

最初の化け物のような奴と比べれば確かに小さいが、常識的には大蛇と呼べる蛇ばかりだ。


「ま、こんなの頭潰したら良いんでしょ?」


カブトは笑うと、パチンと指を鳴らした。


近い距離にいた十匹の蛇の頭が破裂した。


カブトは自在に地雷を設定でき、自在に爆破できるのだ。


猫もせっせと攻撃し、川上の兎も八匹に戻って蛇を倒した。


首の切れた蛇が通路に山をなす。


誠も前に出ようとするが、背中を掴まれた。


「まだだわ!」


え、と美鳥を振り返る誠。


と、首を失った蛇たちが一瞬で通路の中央に集まると、紐がもつれるように団子状に固まり、ワンピース姿の女の姿に凝固した。


「しまった!」


誠や美鳥、ユリたちと、通路の先で戦ったカブトや川上、猫たちが分断される。


緑とも茶色ともとれる複雑な柄のワンピースを着た女は年齢不詳の青黒い顔で、ロングヘアーがボサボサと束を作り、レゲエの頭髪のようになっていた。


髪束は、顔と別の生き物のようにうねり、のたうっている。


「燃やしてやるぜ!」


通路の反対側ではカブトが叫び、火球を撃ち込むが、女の髪やワンピースは、何故か火球を弾き返した。


誠も影の手でレゲエ女を攻撃するが、女のワンピースは影の手を弾き、逆に髪束が伸びて誠を狙う。


影の手で紙束を切断するが、女は手を伸ばすと、その腕がヌルッと伸びて来る。


「蛹弾!」


腕が破裂した。

だが、五本の指が吹き飛んだ腕は、いつの間にか巨大な蛇になっていた。


「蒸気の壁!」


慌てて壁で防ぐが……。


蛇は巨大な毒牙を見せながら、蒸気の中に食い込んでいく。


誠は影の手で石化をさせようか、と考えるが、ユリが。


「誠、虫が生まれたから、これを蛇の口に入れて!」


自信満々に言ってきた。


その薄く伸ばしたヒルのような虫を蛇の口に放り込むと、スルスルと口の中に泳ぐように進んでいく。


「最近発見された、蛇の寄生虫なんだよ!」


ユリは美鳥の横で、これをそだてていたらしい。


と、蛇が力を無くし、蒸気の壁から落ちた。


ついでワンピースの女が、身をよじって苦しみだす。


「な……、何をした!」


「蛇の肺を侵す寄生虫だよ」


ユリが笑った。


「…ば、馬鹿な、私がこんなものに……」


言うが、蹲ってしまう。


「先を急ごう!

仲間と合流するんだ!」


誠は叫んだ。


皆、すごくレベルアップしていた。


自分もウカウカしていられないが、それより、やはり戦いには相性がある。


蛇ならユリが一撃で倒してくれるし、川上も凄い戦闘力だった。


皆を影の手で包むと、誠は壁を伝って疾走した。


「川上君、仲間の匂いは?」


「徐々に近づいているんだが、道のせいか近づいたり離れたり、を繰り返してる感じだな。

ただ、だいぶ……」


川上の言葉が終わらぬうちに、誠たちは巨大な空間に飛び込んでいた。


巨大な、木が無数に生えている。

しかし、木とは言うが、それはどんな木とも違っていた。


根とも枝とも幹とも思えるものが、地面にも、壁面にも、そして隣近所の同じ大木にも伸び、繋がっていた。


ある意味、脳のシナプスのようだ、と誠は思った。


木には、葉のようなものは一切ない。


なにしろ地下の広大な暗黒の空間なのだ。


その代わり、丸い形の、実、のようなものが、大小、無数に生っていた。


小さいものはゴルフボールほど。


バスケットボール程のものもあるし、もっと大きなもの、それこそ人が入れそうなものも出来ていた。


その木々を、人ほどもある白いアリのような生き物が、忙しく世話をしていた。


腹から液体を分泌し、実の中に手を差し込む。


と、実がそれを食べたのか、もぞり、と実が震えた。


はるか上空でも人間大の白いアリたちは枝を伝い、実に分泌物を与え続けていた。


「なんだこりゃ?」


カブトが広大な、森、を見上げて呟いた。


「これは、私たちの子供、なのです」


誠も前に会った、美しい女神、大地母神だった。


「おお、福、この人が俺たちと千葉に帰ってくれる、と言ったんだぜ!」


さっきは騙されていた、と語っていた大だが、大地母神を前にすると一瞬で籠絡されてしまった。


確かに大地母神は若く、母性に溢れ、美しい。

軽薄なアイドル的な美しさではなく、聡明な若い母のような美しさだった。


だが福は冷めた口調で、


「兄ちゃん、それが敵の親玉だべ」


とビシッと大を叱るように言った。


「あー、あんた、弟に嫌われたなぁ」


大は頭を掻く。


「まあ、あなたたちがワタクシたちに敵対する、というのならばワタクシは息子を目覚めさせるだけです」


言うと大地母神は隣の大木の幹に手をつけた。


高い木の中腹に一際巨大な実があった。


それがパーンと身を爆ぜる。


中にはドロドロに濡れた人間がへその緒を木と繋ぎ、胎児のように丸くなっていた。


筋骨たくましい男に見える。


と、シロアリたちが男のヌメリを舐め取り、黒っぽい戦闘服を丁寧に着させた。


やがて、男はボトリと樹から落ちると、鮮やかに地面に両足で着地した。


身長はカブトと同じくらい。

顔の感じは誠たちと同年代のように見えた。


暗く赤茶けた色の戦闘服は筋肉質に見えていたが、服がそういうデザインなのか、本人の肉体なのかはわからない感じだ。


胸筋や腹筋、腕の複雑な筋肉の盛り上がりから見ると、全体の姿がスマート過ぎるような気が誠にはした。


筋肉は凄いのに体重は軽量、みたいに見える。


イケメンがわかりやすく腕や腹筋をファッションとして鍛えている、という感じだろうか。


「ヘヘッ、戦うというのなら、やってやるぜ」


カブトが前に出た。


口から火球を吐こうとするが……。


敵のイケメンは、一瞬で十数メートルを移動して、カブトの胸に腕を突き立てた。


普通のパワーなら、それは皮膚を打つ打撃のはずだったが、イケメンの腕が、カブトの背中から突き出ていた。


誠は瞬間、影に飛び込み、カブトをイケメンの腕から透過して外し、後に下がった。


即座に治療に入るが、同時に蒸気の壁で仲間と自分を守った。


もしも心臓や、心臓から脳に伸びる動脈が傷ついた場合、人は瞬時に命を失う。


脳は、一瞬の血液の供給停止で、いとも容易く死んでしまうのだ。


誠は心臓と動脈の時間を遡らせた。


だが、同時に脳もそうしなければいけない事に気がついた。


死んだ脳に血液が送られても、パンプティダンプティのようにもう取り返しはつかない。


カブトの意識は戻らない。


「カカカ!

こんな壁で僕を防げると思っているの?」


蒸気の壁に殺人的な破壊力のパンチを撃ち込む。


だが、この蒸気の壁には幽霊たちが入って補強していたため、なんとかイケメンの攻撃をしのいでいた。


誠はカブトの脳を透視していた。


脳死判定はいくつかの作業で確認できる。


自立呼吸があるか、や瞳孔が光に反応するか、どうか。


脳波などが測れれば最も確実だが、誠にその能力は無い。


ただし影の手を脳に透過させて、脳液内の電気信号を感じることはできるので、それをしてみた。


広い荒野が見えた。


カブトが立っている。


だが、いつものカブトより、ずっと幼く、不安げな小学生のようだ。


何か叫んでいる。


口を読むと、じゅんぺい、と大声で呼んでいるように見えた。


何度も叫ぶが、声は兄には届かない様子だ。


これ、もしかしたら臨死体験なんじゃないのかな……?


見ているうちに誠は気がついた。


マズイ状況だった。


流石に新宿のレディさんを呼べる場合ではない。


蒸気の壁で、なんとか大地母神の息子というのを防いでいるのだ。

誠が動くわけにはいかない。


「誠っちゃん!

それが臨死体験なら、あの空は現実空間じゃないはずよ!」


偽警官が教えてくれた。


「え、つまりここに居ながらレディさんを呼べるはずだと?」


「空を飛べるのは誠っちゃんだけ。

あなたなら、きっとレディちゃんを呼べるわ!」


そんな無茶苦茶が可能だろうか?


だが、このままではカブトは終わってしまう。


誠は、臨死体験の空に飛び込んだ。


空は、水のようになっていた。


魚たちがラッセンの絵のように非現実な程に泳いでいた。


しかも、現実的な魚というよりは、まるでカンブリア期の海のような、謎めいた生物だらけだ。


困惑しながら不思議な生き物の海を誠が進んでいくと、不意に巨大なアノマロカリスが目の前を横切った。


どうすれば良いって言うんだ?


困った誠の目の前に、水が渦を巻いた。


下手に間違えば、抜け出せなくなりそうだ……。


思ったが、カブトにも時間がない。


誠は、恐る恐る渦の中に飛び込んだ。





海に、レディが浮いていた。


周りに泳いでいるのは、ハイヒールやエナメルのバッグ、リップスティックやファンデーションだった。


誠はレディの手を引くと、そのまま渦に再び飛び込んだ。


荒野で一人叫ぶ少年を見せると、レディはすぐに弟の立つ場所に舞い降りた。


誠は、臨死空間に囚われる前に、現実に戻った。


カブトは自立呼吸もしていたし、瞳孔も反応した。

大丈夫だ。


誠は立ち上がり、蒸気の壁を強化した。


人造イケメンは壁の同じ場所を叩き続けているが、個体ではなく蒸気なので、どれほど叩いても壊れはしない。


そこに蛹弾を撃ち込むと、イケメンの胸で爆発が起こった。


皮膚が裂け、内臓が露出する。


が、それは何かゼリー状の、アロエの中身のようなうす緑の半透明な物体だった。


「なんだ、ありゃ!」


ユリコが驚く。


「まさに植物から生まれた人間、って感じね」


美鳥は唸った。


イケメンは、胸に負った傷の事など、何の気にもかけず、殴り続けていた。


そのうちに半透明だった体内が緑がかった白になり、新しい皮膚になる。


数分もかからない再生だった。


「攻撃力は凄いが、ダメージは普通に負う。

だが、すぐに回復するって感じか?」


ユリコは分析するが。


「あのスピードを忘れないほうがいいですよ。

それを考えると、攻撃力は桁違いと言って間違いない」


誠は教えた。


「あと言うとですね……」


猫が周りを見回す。


「あれと同じくらいの、卵? 果実? はいくらでもあるようですよ」


確かに誠たちは植物に囲まれていた。


ここには、おそらくイケメンと同じ程度に成熟した実が、何ダースも、目で見えるだけでもある。

そして、この空間は、木に隠れて奥まで見えないが、広大に広がっていそうに見えていた。


「一旦逃げましょう。

仲間と合流すれば、多分やりようはある」


敵が一体ならば、スピードをどうにかすれば、勝てない相手ではない、と思う。


たが何ダースも並ばれたら、誠たちは包囲され殲滅されるだろう。


蛇穴は多分、近くに続いているはずだ。


「川上君、穴は分かる?」


川上は鼻をヒクつかせ、


「後に百メートルだ!」






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