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4演奏

車の中、誠はkiil♡に何を話していいか判らなかったが、裕次は、


「あんた、綺麗な声だね」


さすがバンド経験があるだけに、すんなりフランクに話しかけた。


「僕、顔に自信ないから……」


kiil♡は思いの外、内気な少女のようだ。


「え、きれいだと思うけど?」


すんなり誠も話せた。


「男の子みたいでしょ。

昔っから僕、って言ってたし、男と思われるのが多くて……」


「え、女の子風にすればかわいいと思うよ」


kiil♡は微笑み、


「僕、昔から、心は男なんだ。

だから、バンドも親父やチャラ男や女女した子は嫌だって言ってたんだよ」


「んー、僕は、男らしくないから気に入ったのかな?」


kiil♡はクスリと笑い。


「うん、君なら平気」


複雑な気分だ。

だが初の潜入捜査としては気楽な相手でもある。


「僕も…、あ、俺って言ってたけど、僕もキャラを作ってたんだ。

売れたかったから」


kiil♡はクスクス笑って、


「なんとなく無理してるの分かったよ。

気楽にね。

それに、君の演奏は気持ちいい」


まー、裕次の演奏なのだが。


「どの辺が?」


とは裕次。


「音がきれいで、正確だし、澄んでる」


誠にはまるで分からないが、幽霊たちは納得のようだ。


放送局に入り、楽屋に通される。


「気にしないでね」


とkiil♡はノートパソコンで作曲を始める。


誠は見分け神の修行法でゴンゲン石を回して瞑想した。


やがてメークをしたり、衣装を着たりして、スタジオに行く。


kiil♡と誠は、似合いだったらしく、非常に受けた。


恵比寿で下ろしてもらうと、誠は自宅には帰らず内調の用意したマンションに入る。


私服から制服から、全てが用意されていた。


訓練スペースはタワマンのプールやジムであり、格闘訓練は見慣れない大男だった。


「さ、影アリで良いぜ、こっちも本気でいいと言われている」


フリーのトレーナーをしている影繰りとのことだった。


マンションは三LDKもあり、誠も困ったが、幽霊たちは勝手に自分の私物を運んできたので、誠も勉強道具を運んでもらい、一部屋を勉強部屋にして、他で颯太たちには遊んでもらった。




翌日は、初の芸能科の授業だった。

勉強はひどく簡単だ。

誠は田辺に教わっているので、関係がなかった。


体育も本気でやる奴などいなかった。

皆、化粧が崩れることだけを気にしていた。


kiil♡も同じクラスだったが、誰とも話さない感じだ。


確かにアイドルの女の子たちとは話が合わなそうな気がする。


誠は無限に一人でいられる人間だったが、脂ぎった男、アイドルグループの一員の野口とハルが教えてくれた、がkiil♡を口説きにきた。


仲良しなら問題ないしな、と颯太に見てもらっていたが、明らかにkiil♡が嫌がっている、と言う話だったので誠は間に入った。


「悪いねー、今、売り出し中だから、いじらないでくれる?」


野口は、綺麗な顔だったが、凄い目で誠を睨んだ。


「てめー、誰に口聞いてるのか分かってるのか」


「アイアンホースの端っこで踊ってる野口くんだろ」


下から見上げると、野口は膝を入れてきた。


誠は避けて、


「見た目より運動苦手みたいだね」


言うと、パンチを放ったので、誠は片手で受けて。


「そんな細腕で無理すんなよ。

席に戻れ」


野口の拳を手で押し潰した。


「痛っ」と叫んで、野口は帰った。


kiil♡は、誠を見上げて、


「ありがと」


と笑った。


誠が席に戻ると、後ろの席の少年が、


「君、あそこの事務所を敵に回すと酷い目見るよ」


と囁いたが、誠は、


「相方は守らないとね」


と答えた。




帰り際、野口は先輩を連れて来たが、誠は幽霊の手を先輩の頭に入れて、


「うちのkiil♡は売り出し中だから、困るんですよ」


というと、先輩は、


「オメーまた女に手を出したのかよ!

ざけんな!」


と野口を蹴り、


「悪かったな」


と帰っていった。


凄い睫毛のアイドル、NMBのマナちゃんは、


「あんた、見かけによらず男だね」


と声をかけていた。


絢爛豪華な芸能の世界と、その裏側のただの人間の生活が、誠にも少し分かってきた。


その日は学校から写真撮影に行き、kiil♡と一緒に誠も撮影した。


だいぶ遅くなったが、軽く弁当を食べた後はkiil♡のラジオに誠も出た。


誠のプロフィールは、土地を高円寺から中野に変えているものの、よく似た感じにしたので迷うこともない。


ギターの話は、そのまま裕次の音楽を始めたきっかけで、どうもお父さんがオアシスのファンだったらしい。


決して饒舌ではないkiil♡の話だが、誠がメールを読む係をして、いつもよりは回っているらしかった。


u君カッコよかったです、などと誠を褒めるメールも来ていた。


どうやら、4月末に大きなホールでライブをするらしい。

そのための誠、Uらしかった。


真夜中に恵比寿に帰り、ジムで汗をかく。


それとは別に水分の神の修行もあるので、寝るのは夜半過ぎだった。




翌日は日曜だったので、誠は伊豆に飛んでみた。

まだ茜や風魔の件は報告はしていない。


芦ノ湖や修善寺方面を見たが、ペナンガランも見えない。


と、茜がジャージ姿で木の天辺に立った。


「マフィアの動きと拠点が知りたいんだけど茜さん、判る?」


「芦ノ湖の裏手になる」


影の手に茜を乗せ、芦ノ湖まで北上した。


道路も娯楽施設も無い山奥に、小さな集落がある。


民俗学を研究する大学教授が、実生活の中で民俗学を見直す、という名目で県から買った廃村だと言う。


「この周辺に怪物たちは潜んでいるのだ」


茜は語った。


誠は風魔屋敷に招かれた。


それは南伊豆にある、茅葺き屋根の大きな屋敷だった。


囲炉裏を囲んだのは、あの老婆と翁、茜と誠の父親ぐらいの年齢の男だった。


「芦ノ湖の集落を拠点に、幾つも拠点を作っている」


男が語った。


「怪物も普段は人間、君や茜とそう変わらない年齢の子供の姿で、好きに暮らしている。

あまり自然に興味は持たないようだが、たまに怪物に戻ると山を荒らしたり、川を荒らす。

今のところ、被害は軽微なのだが……」


男は唸る。


「戦っても、我々では勝てない。

それが分かって、奴らの生活範囲も急速に広がっている」


おそらく、今、伊豆で勢力を増している怪物は、一度死んで、生き返った怪物だった。


何割も強くなっている。


学生連合アプリは潰れたので新しい仲間はしばらくは増えないだろうが、おそらく東京の伊吹社長を初めとする人々は、何らかの新たな新人勧誘を始めるだろう。


それが軌道に乗れば、伊豆の連中と一つになり、また事件を起こすのは間違いなかった。

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