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38鋼鉄

「お、タイガーじゃん!」


カブトは喜んだ。


丸形砲塔のタイガーⅠ型戦車だった。

後に出るキングタイガーとは砲塔の形や装甲板の傾斜などに違いがある。


とはいえ、影繰りには、どうということもない相手だ。

多分……。


「あんなのを吹き飛ばしたかったんだよ!」


カブトはやはりレディのパワーに憧れていたらしい。


「行くぞ!」


と、ノリノリに巨大な火球を作り、タイガー戦車に撃ち込んだ。


火球はすごい速さで戦車に迫ったが……。


戦車の前で、煙のように消えた。


「あ、やっぱりあれか!」


誠は叫び、何、あれって? とカブトが問うと、


「この桃源郷には影の通用しない相手がいるんだよ」


と教えた。


「俺も誠っちがいなけりゃ死んでたよ」


川上も続けた。


「確か装備に爆弾がありましたよね?」


「その前に撃たれるでしょ」


誠の言葉に猫が怒る。


戦車の砲塔が、ゆっくり動いていた。


「大さん、あの戦車の下に穴が掘れますか」


簡単だ、と言うと、大は土に潜った。


「川上君。

角笛で動きを止めて」


誠の要請に、OK、と答えると川上は角笛で戦車を止める。


「みんな、行くよ!」


誠は影を辿って土の中に潜り、途中で大を拾って戦車の背後に出た。


最後に穴に水蒸気を送り込むと、土がふやけ、五十五トンの重量のある巨大な戦車は、斜めに地面に沈んで動きを止めた。


「よくやったわ、この子は昔から悪知恵が働くのよ」


美鳥はケケ、と黒く笑った。


あれ、切れ者キャラを維持していたつもりなのに、いつの間にか腹黒キャラになってる!?


と、誠は内心、かなり焦ったが、聞こえないフリをした。


最近、内調には急に子供が増えたので、今までの誠のスタイル、真面目な優等生キャラ、では弱いような気が、誠自身していたのだ。


大人相手には優等生は可愛がられるし、好まれるが、同年代にはハブられがちだ。

学校で、いくらハブられても気にしない誠だが、影繰り仲間には、実は、ある程度は愛されたかった。


腹黒か……。


誠は、キャラ変を吟味してみたが、元々、人と関わらないように生きてきたので、どうすれば良いのか、よく分からなかった。


美鳥さんの発言が仲間たちにどう響くかも分からないし、今は無理に反応しないほうがいい。


普通の発言は、それが褒め言葉でも貶したものでもスルーする自閉症気味の誠だったが、美鳥の評価には敏感だった。


そのまま前進する誠たちだが、川上が慌てて背後を振り返った。


「おい!

戦車がバラバラになってるぜ!」


見ると、キャタピラが外れ、装甲がガタンと脇に落ち、砲塔がズルズル車体を滑った。


「なんだ、あれ?

ハリボテだったのか?」


大も首を傾げるが、


外れたキャタピラが蛇のようにうねり、車輪に巻き付くと、巨大なスパイクタイヤに変貌した。


回転砲塔がグニャリと曲がり、一回り小型の砲塔になり、見ている間に、大型乗用車程度の装甲車になって穴から軽快に飛び出した。


「おいおい、復活するのかよ」


川上が驚愕するが、大は、


「何度でも穴に落としてやるさ!」


と、息巻く。


誠のおとなしめの髪型も、ファッションも今までの優等生キャラに合わせたものだったが、周りの見方が変わるなら、少し変化が必要なのかな?


つい、心の中に籠もって考えた誠だが、慌てて大を止め、


「あれなら、そんな大事にしないでも倒せますよ」


誠は影の手に戦闘服のポケットに入った固形爆弾を持たせて、装甲車に伸ばした。


「誠っち、影が通用しないんだぜ?

忘れたのか?」


川上は言うが、


「馬鹿ですね、誠さんがそんなの忘れるわけないじゃないですか。

川上じゃないんですよ」


猫に、ほとんど叱られるように言われた。


装甲車の上で、影の手は消える。


爆弾は装甲車の砲塔の後ろ、エンジンルームの上で、炸裂した。


二つに折れ曲がって、装甲車は沈黙する。


「おー、消えるから良いのか!」


カブトが喜ぶが、川上は、


「だけど、まだ、何か聞こえるっすよ」


と耳を動かした。


半分に折れた装甲車を、卵の殻のように中から割って、どろりとした液体にまみれた獣が現れた。


はじめは爬虫類のように見えたが、やがて体毛が浮き上がる。


巨大だが、ネズミに似た生物のようだ。


誠は虫が嫌いだが、今、初めて見たがネズミも同じように嫌いなことに気がついた。


「戦車より厄介なようね」


美鳥も唸る。


「いや……」


カブトが服から銃と銃芯を取り出し、大口径の銃弾カートリッジをカチリと嵌め込んだ。


「実弾が通用するんだ。

こんな楽な相手はねーぜ」


川上や美鳥も倣うが、誠は実は、銃の腕は平凡以下で、しかも大口径銃を扱う筋力にも不足していたので、飛行に専念するフリをした。


まだ装甲車から出たばかりの、濡れそぼった大ネズミに影繰りにもダメージを与えるための大型のフルメタルジャケット銃が撃ち込まれると、ネズミは吹き飛んだ。


二発、三発と弾が命中すると、ネズミは動きを止める。


だが……。


「二匹目が出てくるぞ!」


装甲車内のネズミは一匹では無かったらしい。


「今度は俺が撃ちますよ!」


川上も射撃へ自信を見せたが、誠には真子が、


(先の割れ目から上の部屋に出られます)


と連絡があった。


「岩の亀裂から上の部屋に行きます。

銃弾は数が限られるので節約しましょう」


二匹目のネズミが現れ、また死んだ一匹目のネズミの腹を食い破って三匹目が現れた。


「やべーな、なんだ、あいつら!」


カブトも引くおぞましい獣だった。


誠は、真子に誘導され岩の割れ目から影の中を滑った。


数分で、誠たちは小さな体育館程の空間に飛び出した。


「とにかく、携帯食と水分補給をしましょう」


誠たちは輪になって休んだ。


「あー、シャワー浴びたいぜ!」


川上はやはり濡れた衣服が気になるようだ。


「そういや、あっちの滝、シャワーに使えそうだよな」


カブトが奥でチョロチョロ流れている滝というか水流を指差した。


「やめなさい。

戦場で気を抜くと、ろくなことは無いわよ」


美鳥は止めるが。


「交代で使えば、人数いるし、平気なんじゃね?」


カブトは反論する。


あれ、そう云えば開頭手術の結果、記憶が曖昧でレディの一つ下、と納得していたカブトだけど、さっき治したって事は、美鳥さんと同級生、って思い出しているんじゃ?


と、誠は思うが、真偽はカブトにしか分からない。


「ちょっと誠、入ってみろよ」


急にカブトに振られて、誠はビックリした。


「え、僕はいいよ」


女子もいる中で、丸見えの滝でシャワーなんてとんでもなかった。


「汚い川上なんてオエーですけど、誠さんなら良いですよ、何と言ってもUな訳ですし!」


猫も、こういう所はただの中学生のようだ。

誠がUなのは内調では公然とした秘密だった。


「嫌です!

なんで、みんなの前で裸にならなきゃならないんですか!」


誠はムキになって叫んだ。


「えー、俺、好きだよ、Uってアイドル。

あの華奢な小鹿みたいなヌード、見たいな」


学校ではクールな男子を演じているが内調でのカブトは己の趣味を隠そうともしない。


「だいたい、Uって言うのは、メークさんとかスタイリストさんとか、プロの人たちがアレコレして、やっと出来上がる、いわばキャラクターなんですよ。

僕は単なる小田切誠に過ぎません!」


「いいんです!」


と、猫は叫んだ。


「中の人、って分かっているだけで、燃えるんです。

だいたい誠さんって、ウチのクラスのどの男子より、素で中性的ですよ!

もう、エロいです!」


猫の目が異様に輝いていた。


中二より中性的、って、幼いって事だろうか、と誠は言葉を飲み込んで、考え込んだ。


確かに桜庭学園は小学部からあるので、自分より大きな中学生が、かなり沢山いることも、小学生でも背だけ見ると追い越されている子供もいる事は誠も知ってはいたが……。


「Uは会社の指示で、わざと高い声で喋ってるし、なんて言うか、Kill♡に合わせて、わざと中性的にしているんだ!」


そもそも、だから誠に潜入捜査などという未経験の仕事が回ってきたのだ、と今頃になって誠は気がついた。


確かに、そういう括りなら、誠かレディさんしか適役はいないわけだが、レディさんは未だ東横ホテルに泊まっていた。


調べてみると東横の少年少女の中には、学生連合に参加していた子供がかなりいたのだ。

今のところは平穏なものの、いつ第二の浅草のようになるか予断を許さなかった。


トー横ギャングのリーダーであるホゥン和也はハーフで、母親はラオス人だった。


今はトー横を守る義勇団のように動いているが、果たしてラオスマフィアと無関係なのかは分からない。


そして昔から二丁目に出入りしていたレディは和也と友人関係にあったので、和也の本心を探ることも目的の一つとして、ミオとレディは東宝ホテルのスイートに泊まり続けていたのだ。


「ほら、順平兄ちゃんってそっちもイケるからさ、ミオさんと揉めてるみたいだぜ」


前にカブトが面白そうに語っていた。


誠は、単に爛れてるな……、と思っただけだったが。


その誠は、Kill♡やりうをほっておけない、という理由で、小田切誠がUとカミングアウトして、ラオスとの戦いが終わってもグループを続けたい、などと潜入先に入れ込みはじめ、潜入捜査の罠にドップリ嵌ってしまっていたのだが、ともかく桃源郷と大地母神は倒さないと、誠も自分がラオスマフィアになる気はさらさら無かった。


誠が裸になるのを熱烈にそそのかすカブトと猫だが、川上の耳が、ピクリと動いた。


「地面の下から、音がするっす……」


敵地の真ん中で、早々ブレイクポイントもある訳は無かった。


奥の岩の一部がゴトリとずれると、そこには前に見たデッサン人形が、顔のない頭部を現した。


「マズイよ!

コイツも、影が通用しない」


誠は叫ぶが、デッサン人形の足元から、土が生き物のように人形を覆った。


土なので暗褐色だが、人形は白人男性のような姿に変貌した。


「チョロチョロ、ゴキブリみたいに逃げ回りやがって手を焼かせてくれたが、流石にもう逃げられないだろう。


後は一匹づつ、捻り潰すだけだぜ」


顎の張った、いかにもアメリカのタフガイのような顔をした土製の男が、しゃがれた声で誠たちを睨んだ。


そして右手の人差し指を差し出すと、泥の糸を撃ち出した。


その糸は真っ直ぐ誠へ飛んで来る。


影の手で防ごうとするが、土も影を打ち消すのを忘れていた。


糸は一直線に誠へ向かう。


誠は、瞬間、影の手で数センチ横にズレることで、なんとか糸から避けた。


「影が消されるよ!

みんな、気を付けて!」


誠は叫ぶが、大が倒れた。



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