表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/43

31感覚器官

何かが、今も誠たちを見ている!


あるいは、感じているのかも知れない。


階段を登る重み、のようなものかも知れないし、物音、それこそ心音かも知れない。


ただ、あからさまな目などどこにもないし、耳も見当たらない。

洞窟の何処かに、そんな知覚を持った場所があるか、生き物がいるようだ、と推測するだけだ。


だが洞窟そのものが敵の本体だとしたら、どう戦えばいいのか?

あまりにオーバーパワー過ぎて、見当もつかなかった。


洞窟全体は大きく考えすぎとしても、この階段は、どこで誠たちを知覚しているのだろう?


皆はスピードを遅めて、洞窟に秘密がないか探すが、アーチ型に岩壁が続くばかりだ。


と、


「うわっ……」


ユリコの叫びが途中で掻き消える。


「おい、ユリコと小百合が消えたぞ!」


背後にいた芋之助が叫んだ。


「川上?

心音はどうだ?」


アクトレスの問いに川上は、


「いや、同じ場所で今も聞こえてるッス」


二人とも強い影繰りだが、相手が蛾となると、苦戦するかも知れない。


誠は芋之助の前まで飛び、影の手を伸ばした。


だが、影の手は、透明なキューブを突き抜けて、その先に出てしまう。


「外からは攻撃できないのか!」


芋之助は驚愕した。


「地雷を仕込むぜ!」


カブトが能力を発動しようとするが。


「ち、空中になっちまって、地雷が埋め込め無いぜ!」


「切ってみる!」


誠は、中にユリコと小百合がいる、と言おうとしたが、素早い抜き打ちで芋之助は見えない空間を斜めに切った。


が、剣はキューブの先に、影の手と同じように出てしまう。


「ち、外からじゃどうにもならないのかよ!」


透明なだけではなく、攻撃することも、触れることすら不可能なようだ。


「ただ、ここに部屋があるのは、明確に分かります」


誠は手を入れてみた。


八メートルほど先に手首が出てくる。

ほとんどコミカルな手品のようだ。


外からは干渉出来そうに無かった。

何しろ触ることすらできない。


それが蛾だ、というのさえ誠には理解しがたい。

虫に触るなど、言語道断の誠でも、そこに何かあるのも分からないほど、それは、無、だった。


無、であるが故に透過も出来ない。


何もない空中に透過をかけたのに、八メートル先に出てしまうのだから。


(おい誠、俺たち、入れるぜ)


颯太が言う。


なるほど、幽霊は物質でも影でもない。


誠は、真子に自分の体を明け渡し、透明な部屋の中に入った。


誠は蒸気で自分の体を作り、


「どうですか?」


ユリコたちに聞くが、


「今ぶち壊してやるぜ!」


ユリコも小百合も心配ないらしい。


だが……。


誠たちの目の前の階段石から、滑るように何かが出てくる。


初めは二つの黒いボール状のものだったが、やがてせり上がると、それが蟹、それも人間と同じ程の大きさの沢蟹なのが分かった。


「これってデカいと、結構キモいなぁ!」


ユリコは棒を構えた。


誠は幽体なのでダメージは受けないが、戦うすべは無い。

この部屋には影の体さえ持って入れないのだ。


足の先まで石から浮き上がると、蟹は予想を超える俊敏さでユリコへ襲いかかった。


蟹は、赤い沢蟹だ。

その目玉は、ユリコの目線とほぼ同じ高さにあったが、蟹なので横幅は人の三倍近くある。


特に足は人の胴体ほども太く、強靭な筋肉により瞬時に獲物に襲いかかる。


同時に、両手のハサミがユリコに突き刺さる。


ちっ!


ユリコが叫び、チタンの棒で、ハサミを弾いた。


そして背後にジャンプするが、背中は蛾の壁に接近していた。


小百合が髪を伸ばして、蟹の体を押さえようとする。


だが、蟹の力は強い。


小百合は、引き摺られる。


普通なら壁や天井に髪を伸ばせばいいのだが、そこには蛾の群れが、身動きせずに戦いを見守っていた。


足元!


足元は蟹が出てきた時から凝視していたが、普通の石のようだった。


小百合は、地面に髪を這わせる。


それでも、蟹のパワーは激烈で、小百合も苦悶の表情を浮かべる。


誠も何か手伝いたいが、体は水蒸気なので、透過も何も出来ない。


透視は出来るのか?


やってみると、蟹の体内が分かった。


が、獣医でも無い誠が、蟹の体内を見ても、体内器官さえどうなっているのか分からない。


だが、おそらく心臓らしきものは分かった。


確か大工の大家さんは幽体のまま影能力を使ってたよな……。


誠は考え、影の手を出せるか試してみる。


思いの外、自然に手が出た。


そのまま蟹の心臓を切断する。


ハサミを振り上げて威嚇していた沢蟹が、グシャリと倒れた。


「よし、ぶち壊すぜ!」


ユリコは叫び、壁を叩いた。

同時に小百合は無数の髪で蛾を貫く。


バリンという音と共に部屋が壊れた。


誠は、蟹の現れた床面を調べた。


分厚い石のため、叩いても音で判断は出来ないが……。


「ユリコさん、ちょっとここら辺を割ってみてくれますか?」


頼むと、おう、と軽く返事をし、ユリコはチタンの棒で石を叩いた。


ガッと重い音がして、岩にヒビが入る。


誠は、さりげなく飛んで真子と重なった。


ユリコがもう一度棒を突き立てると、グシャリ、と岩が粉々に砕けた。


瞬間、岩の破片と共に、無数の黒い物体が洞窟内に飛散した。


蛾だ!


黒褐色の無数の蛾が、洞窟じゅうを飛び回っていた。


誠は影の手を打ち込むが、あまりの大量の蛾の前には、何の意味もなさない。


「殺虫剤を吐きます!」


福が言う。


だが、広大な洞窟じゅうを満たすほどの薬は、おそらく出せないだろう。


「虫取りに夢中になって味方を傷つけるなよ!」


アクトレスが注意した。


皆、それなりに強いため、同士討ちが一番怖かった。


と、誠の周囲が蛾に塞がれる。


迂闊にも、また部屋に閉じ込められたようだ。


空中にいた誠を覆ったのは、球形の蛾の監獄だった。


足元までが蛾の塊だ。

虫嫌いの誠にとっては、自我も崩れそうに不快だったが。


「蛹弾!」


素早く撃ち込み、爆発させる。


蛾は燃え上がり、誠は密室から出た。


「え、ここは?」


仲間も階段も無くなっていた。


そこは不思議な植物の生えた、かなり広い空間だった。


植物は、電柱ほどのヌメッとした幹の先端に、全方向に向かって人の腕ほどの太さの枝がまとまって生え、その先端はソフトボール大の白い球になっていた。


一種のキノコのようにも見える。


そんな植物が、誠の周りには群生していた。


蛾よりはいいが、見たこともない植物はどんな危険があるか、分からない。


触ったら取れなくなるかもしれないし、動き出さない、とも限らない。


思えば、あの蛾は、最初からこれを狙っていたのかもしれない。


異空間に転移させて、仲間をバラバラにするのだ。


そうすれば火の力を操るカブトを水に誘い込む、とか、探査役の井口を前に現れた凶暴な鬼と対峙させる、というように各個撃破を狙えるわけだ。


極力、謎の植物を避けて前進した誠に、


「誠!

止まれ!」


裕次が叫んだ。


え、と空中で止まった誠は、目の前に透明な網があるのに気がついた。


蜘蛛の巣だ。


それは洞窟の端から端まで、びっしりと広がっていた。


そして空中に、顔があった。

憤怒の表情の女性の顔だ。


「わっ!」


思わずホラーな驚愕が誠の全身を貫いたが、それは巣の中心に停まった、巨大な蜘蛛の背中の模様だった。


だが、その模様は般若のような顔で、ギロリと誠を睨み、


「逃さぬ……!」


と呟いた。


言葉と共に、顔は口から粘液を吐き出した。


それは空中で投網のように広がり、誠を襲う。


透過も可能かもしれないが、もし不可能ならゲームオーバーだった。


誠は横に逃げた。


地面には奇怪な植物が無数に生えているため、横に避けるのも簡単ではない。


真横のキノコを避けるため上昇した誠の足元の植物に蜘蛛の糸がぶつかった。


すると、不意にキノコが爆発し、無数の破片が周囲に飛び散る。


爆風によろけた誠に、破片がドスドスと突き刺さった。


誠は丹田に入っていたので、肉体は被害は無いが、着ている服はいくつも穴があいた。


「ば、爆発?」


驚く誠に、アサミが、


「YouTubeで見たわ!

爆発して種を飛ばす木があるって!」


それと同じ性質らしい。


誠は、爆発から距離を取るために上昇した、だが!


天井の岩から、メキッと音がすると同時に、小枝程の茎が現れ、その先端の膨らみが、パンと軽い音と共に広がると、小さな爆発キノコになった。


「おいおい誠、あっちもだぜ!」


颯太が言う。

目を向けると、壁にいくつかのキノコが生えていた。


何とか蜘蛛の巣を抜けなければ、遅かれ早かれ、誠が飛ぶスペースも無くなりそうだ。


誠は人面の蜘蛛に蛹弾を撃ち込んだ。


が、蜘蛛は糸を吐いて蛹弾を受け止める。


その瞬間、誠は蛹弾を爆発させた。


同時に、影の手を蜘蛛に伸ばす。


だが蜘蛛は巧みに影の手を避け、巣を走った。


手は、幽霊たちが操っている。

それはホーミングミサイルのように蜘蛛を追ったが、その何十もの追尾を、蜘蛛は避けながら、不意に背中の鬼女の顔が糸を吐いた。


糸は素早く広がり、手を絡め取ると。


瞬間、稲妻のような強い光と共に放電があった。


バチンと爆発が起こり、なんと影の手が消えた。


何があった?


誠には理解できなかった。


影を電気で消す?


「いや、むしろ光で消したのかもしれないな」


田辺が推察した。


「通常の光ではむろん消えないが、非常に強い光り、電気のショートした場合などの桁外れの眩しさで、影が消えるのかも知れない」


あくまで推論ではあるが、そう言われれば納得出来る。

問題は、どう対応するかだった。


爆弾キノコの爆発だけでなく、敵が光による影の無力化と、電気の攻撃も持っている、となると誠も不用意にはクモの巣に近づけない。


丹田に入っているとしても、感電の被害が無いとは言えないからだ。


ただし、蜘蛛に好きなようにキノコ爆弾を破裂させていたら、誠は動けなくなる。


なので、影の手が消されるとしても、攻撃を続けたほうが都合はいい。


誠は、蛹弾を次々に放った。


だが蜘蛛は素早く回避する。

蜘蛛に避けられた蛹弾は、巣の奥の岩に突き刺さった。


「おい誠。

あれを爆発させればみんな潰れるんじゃないのか?」


横山はいうが。


「ダメだよ、仲間が多分、バラバラに洞窟にいるんだ。

一つ崩れたら、他がどうなるか解らない」


確かに、仲間と分断されるのは、色々と慎重に戦わなければならなさそうだ。


と、蜘蛛が投網のような糸を吐いた。


誠は天井に逃れたが、網は広がり、誠まで届きそうだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ