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29迷走

誠は、自分がこんなに感情的な人間だとは思っていなかった。


初めは、kiil♡をもう少し支える、いや、支えたい、というだけの話だったのだ。


だが、話しているうちに、自分の中の矛盾も指摘され、それもあって矛盾を消そうと躍起になるうち、無茶苦茶な宣言をして、外見からは分からないが心の中はカンカンに怒って部屋を出た。


ラオスマフィアと風魔が手打ちをするはずはないのは誠本人も想像がつくし、第一、誠自身、日本に桃源郷がある、というだけでも腹立たしい。


社会主義国だからラオスには作れない、というのなら、ラオス国内で社会主義と戦うべきだったし、既に彼らは、何千という日本人を身勝手に殺していた。


第一、誠は、彼らより先に風魔と親しくなり、マフィア打倒を確約していた。


つまりは、もし風魔が手打ちに納得するとしたら、民族文化村そのものの崩壊の後のはずだったし、誠にすれば前の浅草のことだってあるし、ハッキリ言えば日本から今すぐマフィアなど消えて欲しいのだ。


だが、kiil♡たちの未来は守りたい。


もし仮に、伊吹が、今後、芸能事務所の社長だけに日本での活動を収める、というのなら、まだ自分がUとして二人を支えてもいいのだが、マフィアが、たとえ口で確約したからといって、心の底から信じられるほど誠も子供ではなかった。


第一、伊吹もそんな条件は飲まないだろう。


最大譲歩して、民俗文化村の拡大中止と、風魔の信仰を尊重する、程度か?


それもおそらく、ラオスマフィアが力で勝っている以上、不可能に近い。

口約束は誠の手前、したとして、とても守らないだろう。

向こうは政治家や学者を抱き込んでいるのだ。


もし、交渉の余地があるとするなら、誠が桃源郷を破壊できる、と伊吹が納得した場合に限るだろう。


桃源郷を壊せるのか?


僕一人では無理だ。


今までの戦いの感触からでも、誠は思う。


仲間が手を貸してくれたら?


可能性は高まるが、明確には判らなかった。


伊吹も、kiil♡たちを盾に、桃源郷破壊を阻止しようとするかも知れない。


まずは桃源郷を現実として破壊すれば、民俗文化村も崩れるし、それなら風魔も納得する可能性が大きくなる。


誠が目指すのは、まずそこで、その後でUとしてkiil♡たちを支える事だと、誠は考えた。


そしてそれには、内調の協力は欠かせないが、永田は手は貸さない、と断言していた。


誠は頭を冷やすようにプールで泳いだが、


「よう、頭がグチャグチャになってるようだな」


指令室では怒り狂っていたアクトレス教官が、ニヤニヤ笑っていた。


「……ちょっと言い過ぎてしまいました。

やっぱり謝りに行こうか、と考えていました」


「手打ちは流石にどう考えても無理、って事だろ?」


「ええ。

それに僕自体はラオスマフィアを助ける気持ちも全く無いですし……。

kiil♡たちを助けたいだけで、むしろマフィアは滅ぼしたいです」


アクトレスは水際に胡座をかき、


「どうするつもりなんだ?」


「桃源郷を破壊します。

そうすれば、おそらく民俗文化村も崩壊するし、後は政治家や学者がテコ入れするならそれでいいし、滅ぶならそれでも僕には関係ないんです」


「だろうな」


アクトレスは言い、


「桃源郷に突入する部隊を考えてみた。

見るか?」


タブレットを出した。


「川上君や美鳥さん、井口さんも参加ですか?」


「ああいう未知の施設に突入するときには情報収集が勝敗を分けることが多い。

戦う奴らばかりじゃ駄目なのさ」


「カブトや芋之助さん、猫と轟兄弟、ユリ、小百合さんやユリコさん、ハマユさん、信介くん……、え、教官もですか?」


「お前らは施設攻略などした経験がないだろ。

今までの戦いとは話が違う。

指揮官は必要さ」


確かに誠たちはまともな集団戦などしたことがなかった。


桃源郷内では、一瞬の気の迷いが死に直結する。

指揮官は必要だが、力ある影繰りが大人しく従う人物でなければならない。

適任は、まさにアクトレス教官だった。


「いつ、するんですか。

可能なら、早く桃源郷を破壊したいんです!」


kiil♡たちの勢いを削ぎたくはない。


「ああ、今夜を予定している」


「今夜!」


「嫌かい?」


「いえ、予想外に早くて嬉しいです」


じゃあ、一度家に帰って、夕方五時に集合だ、とアクトレスは言い、立ち去った。





誠が本部で五分前に準備を終えると、川上が飛び込んできた。


防弾服や銃、手榴弾などの装備を付けるのを、誠は手伝った。


「誠っち。

銃なんて必要ないんじゃないかな?」


「敵が影繰りばかりとは限らないだろ。

色々な局面を想定してるのさ」


防弾服は長袖で、手も厚手の手袋を付けていたが、通気性は良いため、思うほど暑くはなかった。


銃や弾倉、それに予備の弾は紙の箱で三箱、服の中に収納している。


他にもナイフや、工具なども用意され、携帯食や医薬品、水や浄水装置なども装備されていた。


長袖、長ズボンは通気性がいいので防弾能力はないが、繊維は特殊な強い繊維なので、ナイフの刃なども通らない。


とは言え、相手が影では、無いよりまし程度の装備ではあるが。


ただ、投げ飛ばされた、等なら擦過傷を防げるし、衣服も暗闇で目立たない暗い迷彩柄になっていた。


作戦室に入るとアクトレス以下十四人が揃っていた。


「何度か蝶を入れてみたけど、ペナンガランの木のところでやられてしまうの。

その先は未知数よ」


「ま、死ぬぐらいなら逃げる。

とにかく、入り口のマップが分かるだけでも前進だ。

むやみに先を急ぐなよ」


アクトレスが注意をした。


皆は車に分乗し、夕暮れの街に出た。


外見は一般車両であり、色も車種もまちまちだが、中のエンジンやタイヤなどはオリジナルと言ってよく、機能はジープ程度の荒地も走れる作りだ。


車は、別々のコースを走って芦ノ湖の蓬莱山の麓を目指す。


誠の車には川上とカブトが乗っていたが、不意に運転席の三十代の屈強な男性が、


「うわっ!」


と叫んだ。


ビルに囲まれた上空から、翼を生やした蛇のようなものが襲ってくる。


大きさは五メートル近かった。


「ち、野郎!」


カブトが窓を開けようとするが、運転手は、


「大丈夫です」


と、カブトを止めた。


横を走っていたランドクルーザーの屋根から、大砲のような銃が現れ、どん、と一発で蛇の頭を吹き飛ばした。


「皆さんは桃源郷の事だけ、考えてください」


内調が公道で銃を撃つなど、普通ならありえない。


この作戦は、警察や自衛隊、もしかするともっと上も動いているのがしれなかった。


何度か邪魔が入ったが、ダンプがブレーキもかけずに怪物を押しつぶしたり、パトカーがマフィアの車を左右から挟み、蜂の巣に射撃したりして、全てを排除した。


誠たちは弁当とお茶を高速の料金所で渡され、それを食べながら芦ノ湖を目指す。


やがて高速を降り、山道を進むと清流が現れる。


これが芦ノ湖から水を引いた、新しい川だ。


やがて、他の皆も集まって来た。


「なかなか綺麗な水だな」


井口は言うが、


「無駄口は叩かない。

福、行けるね」


アクトレスは指示した。


福は頷き、水辺に近寄る。


「大は福の護衛、皆は森を偵察。美鳥、井口、川上、敵を探れ」


誠も幽霊を放つ。


森の奥に数人の監視を発見したので影の手を霧にして頭に入れてみた。


風魔の人たちだ。


幽霊を実体化させ、これから突入する、と言うと、それでは風魔は入り口を固める、と約束してくれた。


三人以外は風魔では無い、と分かったので、数人を倒す。


だが……。


「教官、どうやら敵は皆、死人のようです」


呼吸すらしていないものを殺すことは不可能なので、頭を書き換え、異常無しと告げさせた。


福は、水に手を入れる。


手から黒い液体が広がり、流れに逆らって洞窟の中に入り込む。


すぐに河童が息絶え、川を流れた。福を襲おうとした河童は、大が首を引き千切って殺した。


「あれは引くわ」


自分でも出来そうなユリコが呟く。


「急いで洞窟に入るよ!」


十四人は川の縁の数十センチの砂利を走って、真っ暗な洞窟に飛び込んだ。


辺りは暗黒だが、影繰りは闇の中でも視力がある。


洞窟はすぐに広がり、川を挟んで左右に大きな木が生えていた。


「あれがペナンガランの木よ」


「カブト、芋之助、切れ」


アクトレスの指示で、即座に木は、一本は爆破され、一本は切断される。


だが、闇をより黒く染めるような大量のペナンガランが飛び立った。


「僕がやります」


誠は地下に引力をつけ、全てのベナンガランを地下に落とした。


「川上、音で先を探れ。

井口は鳥で見てきてくれ」


アクトレスの指示で皆が動く。


ペナンガランの木の先には百メートルほどの空間があったが、岩が積み重なっていて、先が見えない。


井口の三羽のトンビは奥まで飛び、


「入れそうな道が三つあります。

正面と左右です」


言って、


「先まで行きますか?」


川上は、


「水の流れは左側から聞こえるっす。

正面は、何かが降りてくる足音が接近してます。

右は今のところ、音はないっすね」


「井口、鳥を小さくして、正面の足音を調べてくれ。

信介?」


信介が手袋をはめた手で、パチンと、カードを出した。


「戦車の正位置。

多分、パワータイプの強敵です」


「川上は引き続き音に注視、井口は左右にも鳥を飛ばして様子を見てくれ。

音のない敵というのもいるかも知れない」


井口は、


「おっと、正面は階段になってるんですが、一段一段がとんでもない大きさです。

ざっと五十メートル先に、その階段が普通に見える、おそらくは推定五メートルの、なんだろう、鬼、というのがピッタリな大男が降りてきます。

手には槍のような物を持ってますね」


確かにパワーファイターのようだった。


「左の川は、かなりの激流になっています。

およそ百メートルで滝が落ちていますが、川は滝の奥にも続いています。

右は水平に大きく迂回しながら奥に続いているようです」


井口の報告の間に、誠の耳にもズシン、ズシンと階段を降りてくる鬼の足音が聞こえだした。


「ユリ、やってくれるかい?」


アクトレスの言葉に、


「分かった」


と頷き、ユリは手から十匹の虫を飛ばした。


足音が、微かに遅くなった。


ユリは、手のひらにチョコを置き、二十匹の幼虫に食べさせる。


と、ほぼ一瞬で羽虫に脱皮した虫は、洞窟に飛んでいく。


明らかに、足音が鈍くなり、やがて、鬼が姿を現す。


五メートルの巨大、鋭い牙、頭頂部には尖った角がある。


だが、鬼は片手で洞窟の壁に手をつき、片手で鋭い槍を、まるで杖のように使っていた。


ユリの手から、再び二十匹の虫が飛ぶ。


虫が鬼の顔に無造作に留まると、鬼の膝が、カクンと折れ、うつ伏せに倒れた。


「心音が止まったっす!」


ユリは、あまり力を皆に見せないので、どちらかと言えば小柄で金髪の、可愛い少年、と見られることが多いが、その力は圧倒的だった。


「流石に強いな」


芋之助が唸る。


「階段は一段が一メートル近くあります。

登るのはかなり大変です」


井口は言うが。


「お前らがちゃんと毎日訓練してたら、その程度の段差で音を上げないだろ」


アクトレスは言い、


「全員は階段に向かった。


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