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21脱出

誠は脱衣場に戻ってバスタオルを見つけ、そそくさと服を着た。


男はまだ倒れていたので、霧を頭に入れて、影を使えなくした。


ついでに記憶喪失にして、敵の連絡を断ち、進もうとしたが、


「あ、帰り方を調べればよかった」


もはや消した黒板のようになってしまっていて、この世界からの脱出方法が分からない。


仕方がなかった。


少なくとも、この男が狙撃をしたわけは無かった。


多分影繰りと、狙撃手はまだこの世界にいるはずだ。


誠は風呂場を出て建物の端まで歩いた。

思った通り、階段がある。

上と下に、それぞれ続いていた。


幽霊を放って、周りを見てきてもらう。


幽霊の見ているものが誠にも見えるので、下はあと二階あるが、物置や電気室、水を貯水槽に貯めるポンプや温泉用のポンプなどがあるのが分かった。


また、建物の反対側の端の階段から降りれば一階の出入り口に出る。


ここは広いホールのような作りになっていた。


下には誰もいなさそうなので、誠は階段を上がることにした。


今いるのが三階なので、四階だ。

ここも坂の下側に窓のある部屋が並び、反対側は防火扉で塞がれるようにスタッフルームのようなものが並んでいた。

日差しの具合から、窓側は南らしかった。


今のところ敵は見つけられないが、姿を隠すタイプの影繰りも少なくない。


不意打ちは戦いの常道なのだ。


だが二組に分かれて建物を探し回っていた幽霊たちは、


「何処にもいないぞ!」


誠も頭に流れてくる映像を見ていた。


屋上から、建物の外壁、下の犬走りまで幽霊総出で探したが、敵も、ライフルを撃った人間もいないし、いた形跡もない。


誠が入った三階は浴室と色々な集会室、四階、五階は宿泊部屋になっていて、二階には食堂と調理室があった。


一階の前は庭のようになっていて、鯉の泳ぐ池を囲む日本庭園だ。


一階ロビーと、その外のベンチには日よけの傘もかかり、遠くの森や山々を眺められる。


ホテルと言うより団体向けの、宿泊や集会を行う施設のようだったが、日本庭園で隠れた先にはテニスコートや水は張っていないがプールなどもあるらしい。


だが、人はいないし、バック一つ、薬莢一個落ちてはいなかった。


ここではないのか?


思うが、一応、歩きながら四階を見ていく。


窓の無い方の廊下には、大小の絵がかけられている。


油絵の西洋画も、ポップアートのようなものや、抽象画も、日本画のようなものもある。


反対側は宿泊する部屋のようで、畳間もあればベッドの部屋もあった。


普通、プライバシーの為、部屋が見える窓を廊下に作ることは珍しい。


一応、上に上げてあるスクリーンを下ろせば窓を隠すことも出来そうだが、監視目的の窓だとすると、普通の宿泊施設とは少し違うのかも知れない。


ただ和室は掛け軸なども下がり、それなりな作りだ。

洋室も大きな鏡や絵が飾られた雰囲気の良い部屋だった。


誠は一部屋一部屋見ていくが、ベッドメークも完璧で、和室は紙切れ一つ落ちていない。


庭園や池、外周の森に潜まれたとすると、探すのは厄介だった。


また、狙撃はこの建物ではないとすると、上の森の中、という事になる。


範囲も広く、探しにくい場所だ。


幽霊が隈なく探しているので、誠は幽霊たちに森の搜索をお願いした。


誠も、五階は見なくても同じかな、と思った頃。


不意に、目の前が暗くなった。


え、と周りを見回すが、首が動かない。

体も動かず、有名な金縛りのようになってしまった。


眼球だけは動かせるが、それは緑色の何かの中、としか言えなかった。


「ふふふ。

驚いたでしょ。

あなた、今、絵の中にいるのよ」


絵?


確かに廊下の壁に様々な絵が飾ってあったが……。


敵は、一種の地雷のように、誠が通るのを待ち構えていたらしい。


近くにいた幽霊の視線で見てみると、それは一面の緑色の抽象画で、そこに写真のように誠が驚いた顔で描かれていた。


緑の抽象画の中央には三角が黄色く描かれていたが、今、その三角から女がゆっくり、にじり出ようとしていた。


目を思いっきり横にすると、端に女が見えた。


「どんなに強い影繰りも、ここでは何も出来ないのよ。

あなたはもうおしまいなの」


女は、ゆっくり、ゆっくりと誠に近づいて来る。


手には一振りのナイフを持っていた。


体はまったく動かない。


女は、徐々に近づいてきた。


影の手も出せない。


まばたきも出来ない。


なぜ眼球は動くのかは、逆に分からない。


女は、誠の肩を掴んだ。


「あら、意外と柔らかいのね。

これなら、よく切れそうよ」


くくく、と女は笑った。


ナイフを、誠に近づける。


「綺麗な肌ね。

今の男の子は、腕とかもお手入れしているのかしら」


女が誠の二の腕を撫で、誠は毛が逆立つような気分がした。


女が、匍匐前進のように、少しづつ誠に迫ってくる。


「首もスベスベしているわ」


首を撫でられて、誠はおぞける。


ナイフを持つ手が、徐々に誠に近づいてくる。


駄目だ、やられる!


誠は絶望した。


透過も、影の手も使えない。

絵の中に入れられてしまっては、誠は無力だった。


殺されてしまう!


思った誠だが。


バリン!


何かが割れる音がした。


え、と見ると、偽警官が廊下の窓を、消火器で叩き割っていた。


そして、割れたガラス片を持って、絵の中の女を切り裂いた。


ギャアァァ!


という叫びが耳元で聞こえ、誠はドサリ、と絵から落ちていた。


丹田に入っているため、さほどの傷みは無い。


誠の隣で、女が真っ二つになって死んでいた。


誠は、しばらくはボゥ、としていたが、やがて正気を取り戻し、女の体を探る。


財布やハンカチなどはあったが、銃の薬莢は持っていなかった。


もしかすれば狙撃をした人間は、まだ森にいる可能性もあった。


誠は額のデバイスを見てみる。


やはり電波は来ていない。


ここはとてもリアルだが影能力の中で間違いは無い。


「誠!

狙撃手を見つけたぜ!」


田中が叫んだ。


森の中に、木に隠れるように台が作られていた。


足場は畳1畳あるか、という広さだ。


そこにライフルを持った男が、今も建物にライフルを構えている。


誠は客室に入り、窓から空に出ると、建物の影になるように森に近づき、森の中に飛び込んだ。


木の上部スレスレを飛び、田中の見つけた台に接近すると、影の手を霧にして男の頭に入れた。


「そうだ、俺が狙撃手さ。

出口、そんなのはない。

俺の影能力の中なんだからな」


この男の影が、この保養所ということらしい。

中では狙撃や、罠などを使って敵を殺すのだ。


「じゃあ、僕を外に出してくれ」


「分かった」


影の霧により、何でも言う事を聞いてしまう男は、あの、夜の高円寺の信号に誠を出した。


男の影の中に時間はないのか、信号は赤のままだった。


ドサリ、と真っ二つの女と、記憶を失った真っ裸の男も出てくる。


誠は、保養所の男の記憶も消して、信号が青になると自宅に歩き始めた。




 

民俗文化村の隣に当たる山に獣たちが走っていた。


「逃げられないですよ!」


猫が叫んで、森の木々を軽やかに飛び、右手を振った。


数メートル先を走っていた獣たちが斜めに五本の切断痕を作って倒れる。


「山は嫌いだよ!」


ブーブー言いながら、カブトが走って来て、死んだ獣を、骨も残らず燃やしていく。


その下では、芋之助が同じように獣を影の刀で斬り殺す。

その後から福が走って来て、


「カビ!」


獣の死体に一瞬でカビが生え、ボロボロに崩れる。


獣は、奇怪な姿をしていた。

狼のように4本足で走るが、立ち上がると、まるで人間のようだ。

リカントロープ、ワーウルフ。

そんな化物の名前が浮かんでくる。


風魔との共闘を始めた内調は、この隣の山を侵す狼たちの駆除に励んでいた。


民俗文化村を拡大するために、敵は山間の村の畑を荒らしたり、人を襲ったりして、地上げ屋より悪質な追い出しにかかっていたのだ。


怪物たちの駆除は、誠が風魔の小太郎と約束した、いにしえからの伝統と風習の防衛のためだった。


怪物たちを跡形なく殺すのは、ポレホレの実にさせないためだ。


その頃。


誠は眠っていた。

昨夜、家に帰ってから、すぐにベッドに沈み込み、そのまま寝続けているのだ。


体に異常は無いのだが、起きない。

桔梗によれば、水分り神が体を作り変えている、とのことだった。


トイレや食事は、半ば眠りながら幽霊に手伝ってもらい、行っている。


そのため、ジャージを着たまま、誠は寝ていた。


(ずっと起きなかったらどうなるんだ?)


颯太が心配するが、桔梗は。


(起きますよ、月曜の朝には)


と語った。





有名子役の河合渚は、主演を務める舞台で何百回と行った演技をしていた。


セットの塔のバルコニーから身を乗り出し、城の屋根に止まった小鳥に手を伸ばす。


バルコニーは三メートルの高さがあったが、腰を支えるパンツのような形の安全帯を付けているので何の問題もなかった。


河合渚は身を乗り出して手を伸ばし、作り物の小鳥を取ろうとした。


が、手が滑り、渚は塔から逆さにぶら下がってしまう。


なんとかバルコニーに戻ろうともがくが、それが悲劇を生んだ。


汗をかいた体が、安全帯から、ツルンと抜けてしまったのだ。


河合渚は、下半身を露出したまま、頭から落下し、短い一生を終えた。




「いや、しかし、こんな所までポレホレの実を作りに来ますかね?」


川上は言った。


「来るかは分からんけど、来たらヤバいぜ。

誠がいねーと、あいつに触ることすら出来ないんだから」


とは、前に謎の少年に全ての攻撃を跳ね返されてしまった良治だ。

他に小百合とハマユ、ユリコも河合渚と、高円寺で死んだ影繰りの女の死体を、とある病院の霊安室で守るために詰めていた。


霞が関の地下も敵に自由に出入りされてしまうため、内調は急遽、この病院に運び込んだ。


彼らは地下五十メートルの霞が関でもテレポートしてくるが、しかし近場に車を配置し、逃げている。


だから道路を押さえられる病院を竜吉が選定し、月島の病院が選ばれた。


晴海埠頭にも近いこの場所は四方を川に囲まれ、橋を押さえれば身動きが取れない。


「だとしても誠がいなきゃ、奴と戦えないぜ!

奴は不死身なんだ……」


ユリコが唸る。


「誠っちは三人の影繰りに襲われ、架空の場所に閉じ込められたっす。

邪神を操る男と、絵に獲物を閉じ込める女、自分の陣地内で相手を追い詰める奴っす。

なんとか、倒して高円寺の自宅には戻ったものの、報告の後は、ずっと寝込んでるそうっす」


「やっぱ誠君を潰しに来るわよね」


川上の報告にハマユもため息をつく。


「そのぐらいで寝込むなんてヤワ過ぎるべ!」


小百合は辛口に語った。


「やあ。

待たせたかな?」


例の少年が、霊安室にテレポートしてきた。


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