表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/38

2敗北

誠は素っ裸のまま、電気も点けずにベッドに体育座りして頭を抱えていたが。


「あのな」


誠の頭脳が接続された颯太が声をかけた。


「俺たちはお前の能力なんだぜ。

だから、お前は、確かに相手をやっつけはしなかったけど、逃げて無事なんだ。

勝ってないけど、引き分けだろ」


「そうよ、誠ッちゃん、あたしたちをもっと頼って良いのよ!」


偽警官も言う。


それでもしばらくは打ちのめされていた誠だったが、


「うん、皆、ありがとう!

なんとか助かったよ」


気を取り直すと電気を付けて……。

裸なことに気がついた。


「まさか、僕の体でイタズラとかしてないよね……」


散々オモチャにしていたが、これ以上、誠を落ち込ませることはないので、あくまで治療のためだ、と話した。


誠はあっさり信じて、私服に着替えると、


「でも、あの三人は、いったい何者なんだろう?」


と考えた。


たぶん三人組で活動する影繰りには違いないが、何の仕事をしているのか、など全く分からない。


ただし、強い。

一対三で戦ったら、とても勝てない。


それを考えると、暗殺者とかだろうか?


誰かがまた、僕を狙っているのか……。


前も賞金をかけられたし、誠を恨むものはネズミ算式に増えている、と言えるだろう。


やがて母が帰り台所が騒がしくなる。


誠は脱がされたスポーツシャツとスパッツにハーフパンツを履いた。


「おい誠、何してるんだよ?」


嫌な予感に颯太が聞くと、


「走るんだ。

じっとしてると、また落ち込んでくるから……」


心の問題を語られると、さっき命を狙われたのに、とも言いづらかった。


「よし、俺たちは、誠をガードするぜ!」


裕次が言って、誠と共に外へ出た。


七時を周り、空にはドロンとした月が、海坊主のように夜の闇から顔を覗かせていた。


幽霊たちが誠の周りを囲む。


ランニングコースは、あえていつもと違う環七周りだった。


ここなら人目があるし襲われにくいはずだ。

誠はいつもよりハイペースに走った。


まだ僕は、全然ダメだ……!


もっと強くなる必要があった。

いや、さっき生まれた。


とにかく、あの三人は、きっとまだ僕を諦めなんかしないはずだ。


だから強くならなければいけない。

老婆に不意を打たれた。

だが、最初の少女にあれ程手を焼かなければ、老婆に不意を突かれなかった。


必死に走ると、やがて汗が出てくる。

シャツの裾で汗を拭き、そろそろ引き返そうか、と足を遅めたとき。


あの赤い革の服の少女が現れた。


誠は、戦うつもりで足を開く。


が。


「待ってくれ。

あたしは茜。

風魔という士豪の家系の者だ」


「え、風魔って忍者?」


「それは、時代小説のファンタジーに過ぎぬ」


老翁が闇から現れた。


「元々儂らは伊豆山伏の長を司る一族。

頼朝公の御代まで遡る家系なのだ」


士豪というのが、土地に根ざした武士だということは、誠もなんとなく知っていた。

誠の理解は、土地を離れて大名の部下になった武士と、根は同じだが、あくまで土地に根ざした古いタイプの武士のような感じ、ぐらいにだが。


「でも影繰りだよね?」


「そこだ……」


茜は言う。


「我らは確かに代々、山伏の修行を修め、仏門の苦行もこなし、武道も武士には劣らない。


信長を根来衆が襲ったが、もし根来衆一人と信長一人であったなら、必ず信長など瞬時に首と胴を切り離すなど造作もなかっただろう。


だが、その時には個の力の時代は終わっていた。


影繰りとは、新しい言葉であり、科学的に我々が苦行の末に獲得する力を持った者たちだ。


我々も研鑽を重ねてはいるが、もはや影繰りには勝てぬ事を知った」


いや、現実はほとんど勝っていたのだが、茜は、誠は造作もなく逃げ帰ったと思い込んでいた。


「僕を殺すつもりはない、と?」


「我らが勝てるようならば、お前の首は落ちていただろう。

だが、そうはならなかった」


「それで、内調に入る、とか?」


「我らは誇りある伊豆の士族なのだ。

国家の犬にはならぬ」


ちょっと誠にも意味が分からなくなってきた。


「えと、これはどういった話し合いなのかな?」


「伊豆に、異国の鬼たちが住み着いている」


あ、と誠も気がついた。

あの顔泥棒の残党は確かに芦ノ湖や狩野川辺りに基地があるらしかった。


「悔しいかな、我らは歯が立たないが、お前たちは退けている」


そういう話か……。


「うーん力は貸したいし、彼奴等が生き残っていたら、またとんでもない悪巧みをするんだろうけど、僕は内調の許可なくは動けないんだよね」


誠が言ったとき、誠の首につけた権現石が光だし、


「山で修行をすると言ったはずだな。

連休中は伊豆に籠もるぞ」


「そこで、彼奴等を倒すと?」


「その前に、風魔に修行を手伝ってもらう。

そうすれば、お前はあれらに打ち勝てる力を得るだろう」


この瞬間に、誠のゴールデンウィークは潰れることになった。




伊豆、芦ノ湖の山奥に古びた洋館があった。

今はこの世から消えたアイドルツカサの事務所社長を務めていたオールバックの黒尽くめの男、日本名は伊吹だがタイランは、カラスを操り、自らもカラスに変身できる。


側には、赤いチャイナドレスに似た衣装をつけた女性チューグがいる。

彼女は猫に変身するが、時にオオヤマネコにも変身する。


二人は、洋館の日当たりの良い応接間に、一人の白髪交じりの男を迎えていた。


「やはり無茶でしたな、浅草を火山にするのは」


この白髪交じりの髪の男は、ツカサが作っていた薬品を作る技能を持っている。


無論日本での芸能展開やアプリを利用した薬の売買などを牽引したのはタイランだが、この秘術は、元々ラオスの秘術ガンパのものであり、今はこの男日本名真木が引き継ぐことになっていた。


「性急にやり過ぎた、というのだろう?」


タイランは苦笑するが真木は首を振り、


「内調に知られる前にやるべきでした」


遅かったのだ、と語る。


「しかし、こちらは着実に動いています。

廃村を乗っ取り、民族文化村として県の補助も受けています。


やがてこの山も買い、一帯を我々のテリトリーとします。

私有地ならば内調も好き勝手は出来ませんから」


真木は自信ありげな笑みを浮かべた。

真木は静岡で民俗学の大学教授を務めており、その範疇は日本から中国、東南アジアにまで広がっていた。


「そちらは任せた。

我々は東京で第二のツカサを作らねばならない」


真木は、


「今からでは難しいのでは?」


と釘を刺すが、タイランは。


「蛇の道は蛇だよ。

別の芸能事務所を作り、新たなコマを育成する。

そちらも、第一期として三人の影能力者を集めた」


三人の話し合いは長く続いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ