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19暗殺者

翌日誠は、指定時間にスタジオに入った。


kiil♡はもう来ており、Uは楽譜をもらい、練習を始める。


やがて一人の人物がスタジオに入ってきた。


誠もCMで見たことのある人物だった。

小柄で線の細い感じは少女に見える。


「新しくドラムで加わる、りうよ」


八千代が紹介した。

りうは、よろしく、と小声で挨拶したが、声の低めな少女か、高めな男子かは解らない。

服装も、シャツとハーパンだが、ロングヘアで、どちらともつかない。


「楽譜は読めないからいらない。

一度、二人で合わせてみて」


柔らかな喋り口は女の子のようだ。


Uとkiil♡が新曲を合わせた。


やってる途中からドラムが入ってくる。


何度か合わせて、いい感じになり、メークや衣装を合わせ、午後五時には解散した。


誠は駅のトイレで服を着替え、誠に戻って高円寺へ帰る。


夕暮れの住宅街を歩いていると、


「よう兄ちゃん、良い面してんじゃねーか」


いきなり、会った当時の轟兄弟のような、金髪リーゼントの男が、誠に迫ってきた。


「え、なんですか?」


誠はデンジャラスな雰囲気には、弱い。

うろたえた。


「ちょっと顔貸せ、ってんだよ!」


肩を掴んで、顔面パンチされるが、丹田に入っているので、さしたるダメージは無い。


「やめてください」


言ってる間にも、腹に膝を入れられるが、誠は男を見続けた。


「ちっ、影繰りに脅しは通じねーか」


ヤンキーは言うと、


「これならどうよ!」


パンチを撃ちながら、男に影が纏わりつく。


「君は影繰りか……」


不意に誠の声から怯えが消え、パンチは透過して男の喉を誠は掴んだ。


片手で、普通に喉を締めているが、八十キロはありそうな大柄な男が、小柄な誠に片手で持ち上げられる。


「がっ!」


とヤンキー男は苦しむが、

誠に蹴りを放つ。


だが、それはすべて透過された。


影の手が伸びて霧になり、男の鼻腔から体内に入った。


「何処の組織だ?」


無表情に誠は問う。


「知らん!」


「どういう事だ?」


「薬をもらった!」


「学生連合か?」


「名前は分からん。

首を取ってこい、と言われただけだ!」


「誰に?」


「子供だ!」


意味が分からないので、誠は脳に直接、影の手を霧にして入れた。


板橋区でかなりの子分を引き連れたリーダーだったリーゼント男は、小柄な男に集会で負け、子分もグループも取られてしまった。


全身骨折で入院していた男に、子供が近づき、薬をくれた。


「これを飲めば前よりずっと強くなりますよ」


どんなジョークかと思ったが、飲むとすぐに傷は全快し、失った不良仲間も皆、殴り倒したが、あの小柄な男は何者だか分からない。


小田切誠を倒したら教える、と子供が言うので、わざわざバイクで高円寺まで来た、らしい。


少年の顔は、誠の頭からデバイスを通じて竜吉のパソコンに画像データとして送られたので、誠はリーゼント男に、影を使わない、と暗示をかけて開放した。





早かったが修行以来、常になんとなく眠かったので誠は寝た。


母親に夕食だと起こされ、風呂に入ると、また寝たのだが……。


今度は電話で起こされた。


板橋のヤンキーが死体で発見され、死因は連続殺人と同じ頭蓋骨骨折と頚椎損傷だという。


誠は板橋に飛行する途中で、田辺に、


「幽霊がいるよ」


言われて、あのヤンキーを拾った。


十河十蔵と言うらしい。


死体安置所にはユリコとバタフライ、良治、ユリが来ていて、死体を取られないために、安置所に詰めていた。


誠は早速欠伸をし、


「なんか眠いんだ……」


と椅子に座るが、


「お前、よく死体置き場で眠れるな?」


良治に呆れられる。


「山岳修行の疲れが抜けないんですよ」


誠はぼやく。


「へー、何をやったんだ?」


バタフライが聞くと、


「山を歩いて、座禅して念仏を唱えて……」


「オー念仏いいじゃんか、ちょっとやってくれよ」


ユリコが言うので、ユリコには逆らえない誠は、


「かんじーざいぼーさーはんにゃあー」


と唱えだす。

だがコンクリートと金属で出来た死体安置所に般若心経がこだますると、なんだか逆に不気味だった。


「それって幽霊とか祓えるのか?」


ユリコが聞くが、誠は、


「無理ですね」


と、即答する。

何しろ誠は三十以上の幽霊と常時接続しているのだから間違いはない。


「そう言えば、お前、幽霊が見えるらしいな」


何度か情報を得ていたので、皆なんとなく知っている。


「あー、たまに波長が合えば、ですよ。

常に見えるとか、そういうのじゃないです」


実際、誠自身は霊感はほぼゼロだと思う。

田辺が感知するのと、颯太はよく見つけてくるだけだ。

仲間になれば、誠も会話や視認もできるが、街を歩いて恐ろしげなものが見えたりしたら、誠は迷いなく引き篭もるだろう。


「だけど、いつ敵が来るのかな?」


ユリも欠伸をしながら言う。

戦争で荒廃したウクライナのキエフでストリートチルドレンをしていたユリには、この暖かい死体安置所はホテルのスイートルームかと錯覚する。


無数の傷を負った死体などユリは飽きるほど見ていた。


誠も同じなんだ、と思うと、何か嬉しい。


「おーおー、若造が揃ってオネムかよ」


一つ年上のユリコが一年生コンビを叱責するが。


「遅くなったかな」


少年の声がした。


誠とユリは飛び起きる。

ユリコとバタフライは身構えるが、良治は既にナイフを放っていた。


が。


ナイフは、少年の数十センチ前で止まると、立ち消えた。


「僕に飛び道具は効かないよ」


フード付きのスエットを着、目深にフードを下ろした少年だ。


既に何人ものアスリートを殺していた。


「ん野郎!」


ユリコは折り畳みのチタンの棒を一瞬で伸ばすと、5メートルを飛び、棒で殴った。


が。


空中でユリコは弾かれ、逆方向に飛ばされる。

バタフライがスケートのフォームで加速し、少年に正拳突きを放つが、一瞬でバタフライの天と地が入れ替わり、バタフライは頭から落ちる。


誠が慌てて、反発の力で落下速度を弱めたため、バタフライは受け身を取って立ち上がれたが、本当に一瞬で入れ替わるため、確かに相当な運動神経を持っていても、頭から地面に落ちるのは免れない。


ユリはテーブルに手をついたまま動けない。

しかし、ユリの手の甲からは五匹の虫が飛び立っていた。


誠は水分り神に体を調整してもらったため、それは見えている。


ユリコは壁に棒を突いて、再度少年に襲いかかる。


ユリの虫を、誠は透過した。


する、と虫は少年のフードから、中に入った。


誠は、続けてユリコの棒を透過した。


少年の脳天に棒は突き刺さる。


だが。


「僕はさ、一度死んでんだよね。

だから、二度は死なないんだ。

影繰りだし、ゾンビより強いよ。

むろん、君たちよりもね」


フードから覗いた口が、ニヤリと笑う。


例の、ポレホレの実を体内に入れた怪物か!


誠は驚いた。


しかも、不死だと言う。


誠は、少年を落とした。


不死でも、地中ならどうにもならないはずだ。


たが。


少年は浮いていた。


「物を好きに動かすのが僕の能力でさ。

それには自分も含まれんだよね」


誠は、蛹を撃った。


透過して、少年のフードを燃やす。


「うわっ!」


今まで落ち着きはらっていた少年が、初めて慌て、


「ヤバい!

テレポート!」


叫ぶと、フッ、と少年は消え去った。


誠たちは、しばらく黙っていたが。


「あんなのばかりだと、ちょっと手を焼くな」


良治が唸った。






「不死身で、体にバリアを張っていて、物を動かす影能力者だと!」


アクトレスは怒った。


「なんだ、その化け物は!」


自分も大概化け物だが、より化け物が相手というのは、確かにめんどくさい。


「誠君たちの前に現れたのは、確かに今日、誠君を襲ったヤンキーを入院させた、小柄な男、です。

他に少年、と二人の中年がいるようですね」


竜吉がブリーフィングルームのモニターに画像を出した。


「火は嫌がっていたな」


永田は言うが、アクトレスは。


「誠がいればバリアも透過できる。

誠以外じゃ相手にならないぞ」


唸るように言った。


「不死身は流石に反則だよな」


顔無しが机に身を投げ出し、腕枕を作る。


「軍隊が攻めてきたほうが、よっぽど楽だぜ」


確かに最近の内調では戦力が充実し、学生だけでも、ちょっとした軍隊は落とせそうだ。


ただし影繰りの上位互換となると、かなりつらい戦いになるのは予測できた。






「薬を配って歩いている子供、というのもいるらしいな」


前は学生連合だったが、今はそれらしきアプリは見つからない。


渡辺龍が言ったが、アイチはハイエースの奥で盗聴をしながら、


「ま、俺らはライトって奴を追ってるけどね」


スナップムービーの制作者たちは内調と警察が三重県で張り込みを続けているが、渡辺の方はゴシップ記事の張り込みだった。


長安記者は、ツカサの異常性愛を追っていたが、記事を出す前に唐突にツカサは引退し、所在も一切分からない。


こうなると記事も立ち消えにならざるを得ず、新たなゴシップとしてライトの調査に血眼になっていた。


「今度の子供っていうのは、飲み薬を使って、前より効果が強いらしいじゃないか」


一回飲んだだけで影繰りになるらしい。


「ある意味、麻薬よりヤバいよな」


途方もない影繰りも、ランダムに生まれる可能性もあり、そんなのが暴れたら、また浅草のような騒ぎになりかねない。


「奴らの動きが分からない分、気持ち悪いんだよな」


アイチも浅草には居合わせた。

カマキリとも戦ったが、何より驚いたのは、実はカマキリが奴らの目論見じゃなくて、腹に入ったハリガネムシだった事だ。


もし奴らの目論見通りに水蒸気爆発が起こっていたら浅草は跡形なく吹っ飛んだかもしれないという。


そうしたら新宿のように大穴が空き、地下鉄路線の壊滅で何千何万という死人が出、スカイツリーもどうなっていたか分からない、という。


鳳首相は新たなハイテク都市を作れたかもしれないが、東京はメチャクチャだ。


「だが伊豆でも奴ら、なんかやってるらしいよな」


欠伸混じりに渡辺が言ったとき、


「お、イケメン野郎が新しいビデオを欲しがってるぜ!」


ハイエースは、途端に忙しく揺れ始めた。

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