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14山の寺

誠は疾風に連れられて、村から車で十数分の寺に連れられた。


「ここで仏門を学びながら水分けの神にも学び、その力を引き出す術を学ぶことになる。


むろん日の出ているうちには山岳修行も行う。

1週間程度では入り口にも辿り着かないと思った方が良い」


疾風に車で言われ、誠は山のほぼ頂上ながら、古い木造の形を残した寺に入った。


本尊は薬師菩薩なのだという。


山伏である疾風は板についた様子で念仏を唱えるが、他に墨染の僧衣を纏った頭を剃り上げた杏林という若い僧侶もいた。


その日は、水分けの神について学び、真言を授かった。


数珠と白装束の上に着る黒い着物も与えられ、なんと風呂に入った。


温泉だ。

硫黄の香る、ヌルリとしたお湯だった。


湯を出ると、夕食だった。

卵や魚も付いている。


「我らは武士であり、完全に戒律には縛られない。

むろん無駄な殺生はしないが、お前にしろ儂にしろ影繰りならば殺生は避けられないからだ。

まあ、僧兵とでも考えると良かろう」


しっかりと夕食を取った後、本堂で読経をし、それから座禅をする。


丹田を意識する、という課題をもらって座禅をする。


最後に寝室に案内されたが、ここではコップ一杯の水を前に水分り神の真言を唱えながら瞑想してから寝ろ、と言われた。


瞑想し、そして疲れ果てて誠は寝た。




水の上に、誠は立っていた。

素裸だ。


目の前には水分り神がいた。


「よし、それでは先ず第一の初歩的な術を教えてやろう」


「……はい、お願いします」


誠は、あまり状況が分かっていない。

今まで明晰夢など見たこともなかった。


「お前は影の中に潜り込めるな」


「はい」


「それでは、己の肛門の中に入るのじゃ」


「え!

肛門ですか!」


たとえ自分のだとしても、排泄物を見るのは嫌だった。


「いいから、やれば判る」


誠は渋々、自分の肛門の中に入った。


不思議と、臭くもなければ、排泄物も無い。


丹田を教わったであろう」


「はい」


「そこに入れ」


丹田の位置はなるほど教わったが、解剖学的にそんなところには内臓はないことは医学を吉岡先生に習っている誠には分かった。


が、行ってみると小さな光の玉があり、誠はその中に入った。


「あれ……」


誠は外に出ていた。


「ちと、殴り合ってみろ」


大喜びで颯太が出てくる。


颯太に負けるのは屈辱だった。


とにかくパンチを打ち込む。


颯太が誠の腕を弾いて、逆に殴りかかるが。


誠のパンチは颯太の腕をすり抜けて、颯太に当たる。


「あれ、なんだコレ?」


「水の体だ。

まずはそれを覚えろ」


そのまま誠は熟睡した。





翌朝。


誠は早く目覚めていた。


よく考えれば、おそらく八時か九時には寝ていたのだから、当たり前だ。


修行の時間ではないので普通にトレーナーを着て、庭に出た。


丹田に入る。


「あれ!」


着ていた服が、落ちていて、裸になってしまっている。


「え、これまさか、常に裸ってこと!」


慌てるが、衣服は持てる。

再び着ると、普通に着ることが出来た。


それだけでなく、そのままトイレに生けるし、普通に暮らせた。


「なんかズルいな、それ」


夢で殴られた颯太がスネる。


「まーでも、神様が言うんだから」


誠には、特に損はない。


食事は修行着で、と言われ、ふと思って服を落とすと、一瞬で素裸になれた。


着替えて食事をとり、念仏を上げて座禅をしてから、その日は近くの滝で滝に打たれる。


滝は、普通に痛かった。


その日は山の尾根を渡りお寺を巡る。


歩いては、石や、木にお経を唱え、やがて誠が泊まっているお寺よりは大きな寺につくと、またお経を唱え、座禅をする。


午前中から、夏のように厚い日だった。






美鳥と井口は、誠の情報から蓬莱山の方に来ていた。


民俗文化村からは間違っても行けないようになっているが、渡辺龍が見つけた林道がある。


近くにバイクを隠し、林道に近づこうとするが……。


のそり、と現れたのは熊だった。


普通の月の輪熊は、大きくても一メートルを少し超えるぐらいだろう。

だが、この熊は二メートル近い大きさだった。


熊というより牛である。


影を使えば戦えないこともないが……、と目配せをする二人だが、熊は山道へは入るな、とばかりに威嚇の唸りを上げる。


美鳥が蝶を飛ばすが……。


熊は前足で蝶を砕いてしまう。


「東京のより強力ね……」


美鳥は唸った。


「やるなら、戦えるやつが必要なようだな」


井口も言った。


 



美鳥から電話を誠は受けた。


(修行中は無理なので、夜に行きます)


返答をして、疾風に聞いた。


「あの。

滝行って、この褌を付けては出来ないんですか?」


その都度、裸になるのは恥ずかしい。


「やってみるがいい」


顔色も変えずに疾風は言った。


本当の褌を締められない誠の褌は、布に腰紐を通しただけのものだ。


滝に打たれ、般若心経を唱える内に、褌は水圧に負けて落ちてしまった。


「ま、その子供用の奴だと、そうなるのだ」


「え、子供用だったんですか!」


仮にも高校生なのだが……。


「サイズ的に、そうなるのだ。

神を前に裸など気にするな」


小柄が災いしているらしい。


滝から上がってから、


「大人用って難しいんですか?」


と誠が聞くと、


「まあ1週間ぐらいは手伝いが必要だろうな。

丸出しは恥ずかしいかと思ったのだが?」


横で颯太が、声を出さずに笑っていた。


「子供用でいいです」


誠が折れると、


「あっれー、誠君、なんか一週間見られると困るのかなぁ?

生えてきちゃうとか!」


キャッキャと笑う颯太。


(生えないよ、僕だって、何度も覗かれてるの知ってるんだぞ!

見てるだろ!)


誠が心配しているのは、1週間の禁欲生活に耐えられるだろうか、という事だった。

見た目はともあれ、誠は正常な男子なのだ。

あまり貯めるのは、色々心配だった。


ともあれ誠は一日かけて尾根を巡り、夜を迎えた。


黒のジャージに着替え、底まで黒のスニーカーを履いて手袋もし、夜空に飛んだ。


蓬莱山は村から、直線距離はあまりない。


山道は熊がいると言うので、上空を飛ぶと、ペナンガランが無数に出てきた。


今の誠は、襲われても自動で透過できる。


そして影の手で爆破することも、爆発蛹を撃つことも、毒を使うことも出来た。


洋館が見え、周りを回ってみるが洋館自体は普通の建築物のようだ。


水の流れを追うか。


水は麓から滝のように垂直に流れ、狭い穴から吹き出るように流れていた。


穴の周囲には、カッパらしい水生生物が何十もいた。


迂闊に入って、討死というのが一番愚かだ。


桃源郷の意味や、中の構造をもう少し知らなければならない。


透視してみても、水の流れしか見えなかった。


誰が桃源郷の意味を知っているんだろう……。


誠は悩んだ。

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