11スナップムービー
誠は各所に幽霊を配置していたが、あまり成果は無かった。
kiil♡はほとんど音楽に人生を捧げたような感じだったし、八千代さんも忙しく仕事をするだけだ。
先輩俳優のライトは、結構人気役者らしいが、夜はほとんどビデオ鑑賞だと言う。
ただな……。
滝田が言うには、ビデオはある種のホラーばかりなのだそうだ。
人が悲惨に殺されていくホラーを観て、性的に満足しているようだ、という。
滝田はあまり、ホラーも、男の行為も見たくなかったので、それが始まると帰ってきていた。
「えっと偽警官さん、代わってくれますか?」
誠の要請に偽警官は、
「あたしは誠っちゃん一筋なのよ」
と一応キレておいて、
「でも、ま、ライト君も悪くないから、変わったげるわ」
偽警官はすごい速度でライトの家に向かった。
「しかし、どうしたもんかねぇ。
敵はテレポートしてるわけでもないのに、全く尾っぽが掴めないとはな」
永田がぼやく。
「敵の殺害方法は、おそらく相手の天地を一瞬で入れ替える能力です」
竜吉が話した。
「それだけなら、今の体制で捕まえられないはずは無いですが、これは超短距離のテレポートとも言えるのではないでしょうか」
「奴もテレポーターだって言うのかい?」
アクトレスは唸る。
「顔泥棒ほど自在ではなくとも、角を曲がった途端に見失った、ような防犯映像もあります」
ブリーファングルームのモニターに映像が映る。
「確かに消えてるな」
顔無しも言う。
「壁一枚とか、上階とか、ごく短距離の瞬間移動はする可能性があるのでは?」
「横山の遺体の安置所に必ず奴は現れる。
防犯カメラを取り付けて、とにかく敵の能力を割り出すとするか」
永田は素早く手配をした。
同じような探査を、美鳥も宿に泊まりながら行っていた。
各地に蝶を飛ばし、自分は硫黄温泉に浸かりながら情報を集めていた。
芦ノ湖温泉は硫黄泉だがアルカリ性の美肌の湯であり、独特のヌルリとした感触が珍しい秘湯だ。
温泉施設は旅籠を意識した飾らないヒノキの浴槽だが、名湯に特別な施設などいらない。
集まる情報は、九九パーセントは無駄な話だが、娯楽施設なので仕方がない。
気になった話と言えば、水の配達が遅れている、という調理場からの話ぐらいだ。
水ならいい井戸水が出ると、さっき女将さんも話していた。
「ぜひお茶を召し上がってくださいね。
この宿場の水は百パーセント井戸水で、とってもおいしいのよ」
料理水は別なのか?
美鳥は心に止める事にした。
井口は九頭龍神社方面から民俗文化村へ入った。
バスフィシングはおろか、有名な芦ノ湖の海賊船の遊覧船すら近づかない。
景観はなるほど美しいが、バイクも進入禁止で、道は玉砂利が敷かれ、咲く花も純和風だ。
茶屋などは時代劇のようであり、飲み物もお茶などが中心だ。
汗ばむ季節なので冷えたお茶や麦茶、関西風の冷やし飴などがある程度で、茶菓子も団子や饅頭、和菓子である。
ただし、国道から数キロ入っただけだと言うのに空気は清らかで、飛ぶ鳥も普段は見かけない野鳥になっていた。
茶屋での話では、来年には芦ノ湖をのぞむ宿場も作られると言うが、今は古い日本の再現に力を注いでいるようだ。
井口は、カラスに間違われる鳶を放って周りを観察した。
湖面のはるか遠くでサップを楽しむ一団があったが、突然三人のサップが激突し、大騒ぎになった。
これで、あのサップ屋も失業って訳か……。
また民俗文化村入口では、団体客や特定の外国人客を拒絶するため、一悶着起きていた。
複数の中国人客が立ち入りを拒否され、大騒ぎの揚げ句警察に引き渡された。
何で選別しているのかは調べる必要があるかもな、と井口は考えた。
歩いていても、マナーのいいアジア人客はウェルカムのようなのだ。
インスタ辺りの有名SNSをチェックしているのかもしれない。
いずれにしても、観光地は特段の問題があるとは思えなかった。
問題は、テロ組織が何処に隠れているか、だった。
「ちょっと誠っちゃん、大変よ!」
偽警官が慌てて恵比寿のタワマンに戻ってきた。
誠はギターの練習をしながら、
「どうしたの?」
「あのライトって子、とんでもないわ!
本物かどうかまでは分からないけどスナップムービーを見て、大喜びしていたのよ!」
「えっと、人を傷つけたり、殺したりする?」
「そうよ。
見たら、百本近いブルーレイがあって、ほとんど生撮りみたいなやつよ」
誠は考えた。
それでも練習が続いているのは裕次がいるためだ。
「何処で作っているのか調べたいな。
もしかしたら、同じアジアンマフィアが絡んでないとは限らない」
人身売買、妖怪化、それとスナップムービーはどこか繋がるような気もする。
別に不愉快なものは見なくていいので、滝田と大川のコンビに、どう売買してるのか、電話連絡しているのなら電話番号などを調べてもらうことにした。
横山の死体置き場には、無数の防犯カメラがセットされた。
敵がどう忍び込むのか、どう逃げるのか、そこを見極めなければ戦いにもならない。
渡辺龍もハイエースでアイチと映像を見ていた。
「明日早くに遺族に引き渡す予定だから、必ず今日、敵は来る」
他にも何台か車が各所で待機していた。
霞が関の地下五十メートルだ。
と、不意に地下五十メートルの安置所に男は現れた。
「バカな。
テレポートしたのか?」
渡辺は驚いた。
横山の遺体をポレホレの実にすると、男は消えた。
先に止まってたクラウンが動き出したぜ」
偶然かもしれないが、渡辺は尾行を開始した。
クラウンは首都高に乗り、東名に入った。
車は小田原を越え、御殿場から芦ノ湖方面へ、そして民俗文化村の一つ手前の山の山道へ入る。
「ハイエースがこれ以上追ってきたら、さすがにバレるよな」
後の追跡は竜吉に任せ、ハイエースは芦ノ湖のキャンプ場へ入り、テントを張ってたき火をした。
車の中は電子機器で一杯だが、夜だし、呑気な男二人のキャンパーに見えるだろう。
途中で買ったビールとつまみで、渡辺とアイチはパソコンでナイターを観ながら盛り上がった。
達吉はグーグルアースで山道を調べ、洋館があるのを見つけていた。
近くに偶然いたので、井口に見てもらうと、クラウンは確かに洋館に止まっていた。
タイミングが良く、四人の男が降りてきた。
小柄な男は、おそらく横山を始めスポーツ選手を殺している人間のようだ。
二人は、スーツを着た大人で、大男と、小太りな中年男性、もう一人はチノパンを履き、Tシャツにジャケットを合わせた浅黒い男だった。
あいにく、カメラは備えていなかったので、それ以上の事は判らなかったが、この夜の内に、数人の探査班の影繰りが、洋館周りに防犯カメラを仕掛けた。




