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1顔無し

内調に新しい教官、顔無しが加入した。


とはいえ、顔はある。

イケメンといってもいい。

フランス人と日本人のハーフとの事で、スマートな金髪の男だった。


「いょう、今日から世話になる顔無しだ。

海外暮らしが長いんで、ちょっと変なところがあるかも知らんが、気にしないでくれると助かる」


挨拶をして、誠やレディなどコーチが決まっている人間を除いた皆を見て回った。


「皆、それぞれ面白いが集団レッスンと個人レッスンに分けて行ったほうが良いようだな。

初心者もいれば、かなり出来上がってる奴もいる」


川上やカブト、青山、井口、中居などは個人レッスンをすることになる。


誠は皆から離れて、いつものようにアクトレスに殺されそうになるレッスンをみっちり二時間、行った。


「生きる死ぬがかかっている戦いで、一時間たったから休むとか、言えんのかい?」


たそうで、格闘訓練しながらスタミナもついてしまうという、お得を通り越した地獄の訓練だ。


終わってヘトヘトになっていると、川上たちも終わって帰ってきた。


「色々技を教わったッスね。

キック単発ではなく、キックから連打を入れて、投げるとか」


小学生や福たちは、初めて蹴りや突きの練習をした。


「よーするに俺とか影での戦いが決まっている奴は、それとどう合わせればいいか、を考えるんだってさ」


カブトは火球で防御は出来るので、それを囮に使って飛び蹴りをする、とか、中居なら左手を見せながら右手で攻撃する、などの一歩踏み込んだ戦いになる。


顔無し先生はわかりやすく、実戦的だ、とすこぶる評判が良かったが、誠の方は実戦的どころではなかった。


一部獣化したアクトレス教官と、透過や影に潜り込むのもアリの戦いを二時間続けたのだ。

二度死にかけたが、誠は死ぬとオートマチックに再生する暗示をかけられているので、訓練は続行する。


「死に方も考えろ。

その場でコロンじゃ、止めを刺してください、と言う様なもんだぞ」


中々無茶を言う。


「あたしに勝てないようじゃ、油の乗った一流には勝てないよ。

あんたは名前が上がりすぎている。

だが、目線を変えれば年寄りとしか戦ってない、とも言える」


確かに、言われればそうとも言えた。


怪物は別にいる、のだ。


静香は部活だったので、誠は一人、薄暗くなった路地を歩いて帰路についていた。


誠のマンションは高円寺商店街から、やや離れている。

夫婦共働きをしながら都内のマンションに住むには、その辺が限界だったのだ。


静香と二人だと、あっという間の帰り道も、誠一人だと結構長い。


自転車はパンクしており、修理するか、思い切って変速付きの新品を買うか、迷っていた。


田辺や美容師の高橋はスポーツサイクルを推薦していた。


「同じ走るなら自由度の高いほうがいいだろう。

あの手の自転車なら新宿辺りまででも数分だよ」


誠は、美鳥がバイクに乗っているので、バイクを買って共通の話題を増やしたい気もしていた。


だが幽霊には女性陣も多いので、霧峰静香もいるのに、そんな雑念があるのがバレるのは避けたかった。


それに旅行もあるしなぁ……。


誠は夏休みを利用して名古屋と京都に一人旅を計画していた。

泊まるのはビジネスホテル、地下鉄や地下街を見て回る、たぶん三泊ぐらいの旅だ。


特に美味しいものが食べたいとか、余計なお金を使うつもりもない。


衣服も、下着くらい替えがあればいいだろう。


それでも一泊一万近くかかるし、交通費も馬鹿にならない。

意外とお金は数日でも何万もかかるのだ。


商店街を外れると、後は住宅地なので薄暮の中、街灯が煌々と灯っているのが不思議な感じだった。


風がなく、やや蒸し暑いと感じる夕方だ。


意外なほど人通りがない。


商店街から外れてから、誰とも出会っていないのだ。


さすがに無限に自分の中に引き籠もっていられる誠でも、異常さに気がついた。


と、遠くから赤い服を着た人間が走ってきた。


が、幽霊のように、足音がない。


しかも、尋常ではなく足が速い。


すぐに、それが赤い革の上下を着た少女だと気がついた。


誠は、彼女を見たことがあった。

いや、戦ったこともある。


空中を歩く少女だ。


だが。


今は叫びもしなければ、微かな音さえ出さず、そのまま空中に駆け出した。


腰の後ろから、日本刀を抜いた。


速度は全く落ちない。


二カ月ほどの間に、彼女は凄まじい進歩をしていた。


誠に剣を打ち下ろす。


誠は透過し、影の手で足を掴んだ。


と、少女が飛んだ。

いや、最初から空中にいるのだが、そこから、フィギュアスケートの回転のように、鮮やかに剣ごとまわったのだ。


これでは内臓を正確に狙うことは出来ない。


影の手で、少女に無数のパンチを打ち込む。


その一発が、少女のみぞおちに入り、


ガハッ!


呻いて、少女は落ちた。


と、その瞬間。


誠の前に、老婆が現れた。


手にした扇子を、バチリと開く。


何かの毒が誠の鼻から体内に吸い込まれ、誠は気を失った。


奥から、老翁も走ってくる。


が、誠は立ち上がった。


薬で気絶はしている。


だが、今日のアクトレスのアドバイスを聞いていた颯太たちが、誠を立ち上がらせ、皆で運んだ。


透過や毒などは出来ないし、誠でなければ治療も不可能だが、影の体は全員が持っている。


幽霊に運ばれ、誠は自分のマンションに飛び込み、鍵を開けてオートドアを開き、自分の部屋に入って鍵を閉めた。


誠は、ベッドに寝かされた。


(おいおい、毒なら誠が死ぬぜ!)


颯太は取り乱すが、田辺はバイタルを見て、


(おそらく眠り薬のようなものだ。

真子ちゃん、変われるか?)


(あたしでは飛んだり、透過したり出来ませんよ)


(え、やってなかったっけ?)


颯太は新宿のとき、真子が戦っているのを見ていた。


(そういうのは、誠さんが起きてないと使えないんです)


(針でも刺すか)


裕次は言う。


(ねー、こういうとき、ベルトを緩めてシャツを脱がしたりしない?)


とは偽警官。

少年愛好家で誠にぞっこんだった。


(ま、まあ確かに。

誠ってスポーツシャツとか、体を締める服を着てるだろ)


颯太は普段はもう少し利口なのだが、誠の脳細胞が無いと、地のアホが現れる。


誠は、幽霊たちの好意? によりズボンを脱がされ、ソックスも脱がされ、Yシャツを脱がされて、アンダーシャツとしていたスポーツシャツも脱がされ、偽警官の趣味もあり、最近幽霊たちのアドバイスで履いていたスパッツタイプの下着も脱がされた。


(ヤバいわね……」


偽警官は張り付いて見ている。


ヒヒヒと喜ぶのは颯太だ。


(このチャンスに、どっかにお手入れの跡がないか調べようぜ!

俺達にも秘密って、こいつフザケてるし!)


真子や桔梗は止めたのだが、お姉さんの中村やキャバ嬢のアサミも悪乗りしたので、誠は全身を調べられたが、どこにも、何の痕跡も無かった。


(も、もしや誠ってサイボーグとか)


颯太は逆に怯える。


その頃になって、誠はパチリと目を開いた。


「うわっ……!」


誠が呻く。


(あ、誠ッちゃん、これはあくまで治療なのよ)


偽警官は慌てて言い訳をするが……。


「僕、完全に負けちゃった……」


誠は、敗北に打ちのめされていた。



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