夕暮れの約束
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夕暮れが沈みゆく街の片隅で、彼は一人、冷たい風に吹かれながら立っていた。
ポケットの中には、小さな手紙が一通。
そこには、彼女の最後の言葉が書かれていた。
「また、あの場所で会おう。」
二人が出会ったのは、あの小さな公園だった。
初めてのデートの日も、喧嘩をして泣いた夜も、最後の別れを告げたあの日も、すべてあの場所で過ごした思い出だった。
彼女はいつも笑顔だった。
陽気で明るく、どんな時でも彼を励ましてくれた。
だが、彼女が病に倒れた時、彼は何もできなかった。
彼女は強がっていたが、日増しにその体は弱っていき、彼女の笑顔もだんだんと色褪せていった。
ある日、彼女は静かに言った。
「もうすぐ、お別れの時が来るのかもしれない。でも、最後にお願いがあるの。」
彼は必死にうなずいた。
彼女の願いなら、どんなことでも叶えたいと思った。
「私がいなくなっても、あの公園に来てほしいの。そして、夕暮れの空を見上げて。そこに、私がいると思ってくれれば、それでいいから。」
彼はその約束を胸に、彼女が旅立った後も、毎週のようにあの公園を訪れた。
夕暮れになると空を見上げ、彼女の姿を想像した。
彼女が微笑んでいる、風に吹かれながら優しく彼を見守っている、そんな幻を追い続けた。
そして今日も、彼はあの場所に立っていた。
しかし、時の流れは無情で、彼女がいなくなってからすでに十年が経っていた。
街も変わり、公園も整備され、あの頃の風景はもうどこにもなかった。
それでも彼は、夕暮れに彼女を感じることができると思っていた。
夕日の赤い光が、彼の影を長く引き伸ばす。
彼は空を見上げたが、そこにはただ茜色の空が広がっているだけだった。
風も音も、何もかもが彼にとって冷たく感じられた。
手の中に残った手紙を握りしめると、彼は涙を流した。「ごめんね、君がいないと、僕はただの空っぽなんだ。」
彼はひとりぼっちのまま、静かに歩き始めた。
夕闇が深まる頃、彼の背中は薄暗い空に溶け込むように見えた。
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