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第一話 騎士の願い

アルーマの北大陸、オルガ山脈の奥深く、竜が住まう里からほど近くにあるピケルの谷に変わった魔女と呼ばれる老婆が1人で住んでいる。

*アルーマ:ここに住まう人々が生きる世界の名前。

*オルガ山脈:アルーマの北大陸の最北端に存在する世界最大の山脈。竜が住まう恐ろしい山で知られている。

その魔女にはこんな噂がアルーマの大陸中で囁かれているのだ。

どんな夢でも叶える魔女と。

谷の一番深く薄明かりしか差さない渓谷の間で、苔が映えた薄暗い大木の麓にポツンと木造二階建ての家があるのだった。

その家は木造で小さな煙突から薄っすら煙が立ち上がる。

アルーマの誰しもが知る夢を叶える魔女の住処がそこにはあった。

だが、世界中からその魔女に会いたくて会いにやってくるのだが、大半は迷子となって竜の里で引き返す。

まるで御伽話の家として大陸中の冒険者の心に火を灯すのだった。

「ふぅー。腰が痛いわ。」

老婆は歪んだ腰に手をやり、優しく摩る。

「全く歳はとりたくないね。」

暖炉の上に置いたヤカンからコップにお湯を注ぐ。

「癒されるね。」

カルムの葉を乾燥させて刻んで入れたお茶にうっとりする。

ほのかに鼻にぬける甘い香りが好きなのだ。

可愛らしいサイズの机に置いてあった焼きたてのクッキーを頬張りながら朝のゆったりとした時間を椅子に揺られながら過ごす。

もうこの家に住み着いてどれ位月日が流れたのだろうか、それすら忘れてしまった。

「すいませーん。」

扉の向こうから若い男性の声が聞こえる。

「あぁー、美味しい。」

聞こえているのだが、老婆はすぐには返事をしない。

クッキーとお茶をじっくり味わう。

「誰かいませんかー。」

恐る恐る扉を叩いているのか、小さなコンコンと叩く音が聞こえる。

「全く誰だい、こんな朝っぱらから。」

老婆は指を鳴らすと扉が開いた。

「えっ?」

あまりに急な出来事にもう一度扉を叩こうとした姿のまま固まる男性。

「何だい?坊や。こんな朝っぱらから尋ねてくるなんて。」

少し不機嫌そうな老婆。

「すいません。願いが叶う魔女の家で合ってますか?」

恐る恐る尋ねる男性。

立派な装飾の鎧を身に纏い、その立ち姿は気品が溢れていた。

若い騎士が家に尋ねてきたのだった。

「どうなんだろうね?私は魔女でも何でもないただのお婆さんよ?そこに立ってないで、入るか帰るかどっちか早く選んでくれないかい?」

老婆は少し睨みつける。

「はい、すいません。入ります。お邪魔します。」

部屋からは甘いカルムの香りがした。

その甘い香りにお腹が鳴ってしまう。

「おや、坊やは、まだ朝ご飯まだだったのかい?」

腹がなる音を聞いて思わず笑う老婆。

「申し訳ありません。ここまでの道のりがあまりに険しくご飯すらろくに食べてなかったもので。」

少し恥ずかしそうな騎士。

「ふふっ、そんな重い装備なんて外してそこに座ったら?」

部屋から入って右手にある大きな机と椅子へ座るように促す。

「はい、そうさせて頂きます。」

礼儀正しいその青年は、騎士の鎧や法印が刻まれた鞄を地面に降ろして手前にあった茶色の椅子に腰掛ける。

「坊や名前は?」

老婆は揺れる椅子から立ち上がると台所へと向かいグリムウルフのベーコンとアルタッタの卵を鉄のフライパンに入れて調理する。

「あっ、これは失礼しました。ネリオ・コーネルと申します。コーネル王国の近衛騎士をやっております。」

*コーネル王国:アルーマの南大陸に存在する国土の6割が砂漠という交易で財を成してきた王国。

「ふーん。王族の名前入っているのに近衛騎士なのかい?」

ふと不思議に思う老婆。

「恥ずかしい話、王家の名前は入っていますが、何世代も前から分家して離れた遠い親戚みたいなものでして、全くただの平民生まれの平民育ちなのです。」

少し恥ずかしそうなネリオは台所から薫る朝ごはんの香りにすっかり虜になっていた。

「ほら、食べな。坊や。」

コーネルという言葉を聞いて少し驚きながら、出来たてのベーコンと少し焦げた卵を木の皿に載せて坊やの前に差し出す老婆。

「ありがとうございます。頂いて宜しいでしょうか?」

よだれが出そうな程のご馳走様にさっきまで緊張していた顔が緩む。

「どうぞ。じゃあ、海を越えてわざわざこんな僻地までその魔女とやらを探しにきたわけだ。悪かったね、ここは魔女の家でも何でもない、ただのおばあちゃんの家だよ?」

老婆は、坊やにここは探してる家ではないと告げる。

「いえ、多分、私が出会いたかった人に出会えたと思っております。」

ネリオはここが魔女の家だと確信して返事をする。

か弱そうな老婆から溢れるオーラが確信を持つ根拠としては十分過ぎたのだ。

恐らく強い、嫌恐ろしく強いのだ。

「そうなのかい?変わった坊やだね。魔術に頼りたい位困り事があってその人を探してたんだろ?魔女じゃないけど話を聞くよ?」

老婆は小さな机からクッキーとお茶をもってきて坊やの前に座る。

「えっ?宜しいんですか?私の話を聞いて下さるんですか?」

老婆からの申し出に嬉しくなるネリオ。

「力になれるかは分からないけどさ。坊やが話したいって思うんなら聞くよ。」

真っ直ぐな坊やの目をじっくり観察しながら答える。

「少し長くなるかも知れませんが、話しますね。実は、平民生まれの私を見込んで育てて下さった貴族生まれの近衛隊長が、謎の病に犯されてしまいまして、余命がもうあまり無いのです。隊長には物凄くお世話になっていた身としては、何としてでも隊長を助けたいのです。その隊長は、昔に奥さんを亡くしており一人娘を大切に育ててきた立派な方なんです。国王も近衛隊長を助けるべく国中の薬草やお医者様の手助けを借りたのですが、残念ながら、治癒する気配すら無く諦めてかけていたのです。そうした時にふと、魔女の噂を聞きまして、その魔女に頼めばきっと治るに違いないと思い立って、海と山と河と森にありとあらゆる冒険をしてその魔女を探していたのです。」

事情を全て話すネリオ。

「なるほどね。ちなみに、その病はどんな症状なのかい?」

老婆は目を閉じてじっくりと坊やの話に耳を傾ける。

「それは、真っ黒な斑点が身体中に現れて徐々に広がるのです。」

悲しそうに病床を語るネリオ。

「なるほど、それは間違えなく呪だね。それなら治せるよ?」

悲しそうに落ち込む坊やに老婆は希望を与える。

「本当ですか?どうしたら教えて下さいますか?何でもやりますので、どうか教えて下さい。お金が必要だというなら全て差し上げます。」

ネリオは、机に頭をぶつける程強く頭を下げてお願いをする。

「ふふっ、何もいらないよ。ちょっと待ってな。」

そういうと、老婆は奥の部屋へと姿を消す。

「ほら、これよ。」

再び現れた老婆の手には見たことが無い模様が刻まれた真っ赤な短刀を手にしていた。

「それは?」

あまりに恐ろしい見た目に唾を飲み込むネリオ。

「これはね。闇移しの短刀っていってね。呪いを受けた者の血を吸い取らせてから、その対象と同じ種族の心臓に刺すと呪いの対象が変わる貴重な物だよ。」

老婆は坊やに短刀の持つ力を説明する。

「つまり、誰か他を犠牲にする事で助ける道具なのですか?」

その短刀が持つ力に躊躇いをもつネリオ。

「そうだね。これは、呪いの対象を置き換える道具なんだ。使うかい?」

老婆は目を細めて問う。

「・・・」

思わず無言になるネリオ。

「その対象は誰でもいんですか?」

ちょっとした無言の時間が過ぎてから口を開く。

「そうだよ。」

老婆は静かに答える。

「そうですか。ちなみにお代金はどうしたら宜しいですか?」

ネリオは少し考えて覚悟を決めた目になる。

「呪いを吸ったコイツを返してくれたらそれでいいよ。」

老婆の答えはある事を物語っていた。

その刀を返すの意味を坊やに問うのだった。

まさしく魔女の取引だったのだ。

「解りました。それでいいのなら私に下さい。」

恩人の命を助ける術をその手に魔女の家を後にする。

コーネル王国に帰り着くまでの旅路は楽しいものでは無かった。

恩人の命を助ける選択肢をずっと考えた旅だったのだ。

~コーネル王国 近衛兵舎~

「ただいま、帰りました。隊長の状態は?」

ネリオの顔は暗かった。

もしかしたら、もう亡くなっているかもしれないとの思いがあったのだ。

「おう、二か月も音信不通で心配したぞ。」

近衛隊Aと他の皆が集まってくる。

「ユグドの薬草が効いて隊長は少し元気なったよ。ただ予断の許さない状況かな。隊長の家まで見に行くかい?」

近衛Bは様子を見に行くのにネリオを誘う。

「先輩!行きます。」

仲間の皆で隊長の家へ訪問へ行くことにしたのだ。

「皆さ、隊長を助けるためなら何でも出来るかい?」

ネリオは歩きながら仲間に変な質問をする。

「急にどうしたん?」

近衛Bは驚きつつも続けて答える。

「そりゃ、何でもするよ。助けれるならさ。皆もそうだろ?」

近衛Bは当たり前だろと答える。

「そうそう。」

近衛A

「もちろん!」

近衛C

「何でもするに決まってるやん。」

近衛D

「皆の気持ちは、やっぱり一緒か。隊長助ける手段見つけたっていったら皆は興味ある?」

ネリオは躊躇いながら皆に問を投げかける。

「どういう事?」

近衛A

「二か月の行方不明と関係あるの?」

近衛B

「助けれる手段見つけたのになんでそのな顔暗いの?」

近衛C

「あるのなら早く教えてよ。何を渋ってるん。」

近衛D

仲間の目つきが変わる。

ネリオを囲んで詰め寄る。

「ちょっと待ってよ。もしもの話よ。もしも。」

ネリオは皆の包囲網から抜け出して、語尾を一番強くして伝える。

「何だよ。もしもかい。」

近衛C

「期待させよって。」

近衛A

「今一瞬期待してしまった気持ち返せよ。」

近衛D

「でも本当に無いのかな。方法。」

近衛B

「あるんやったら、本当に何でもする。」

近衛A

「それは俺もやで。」

ネリオは仲間の気持ちを聞いて鞄中に仕舞った短刀を触る。

そんな会話をしていたら隊長の家の前までやってきたのだ。

「ごめんください!ユキちゃんいる?」

近衛Dがドアをノックする。

「はーい。今開けますね!」

ドアの向こうから女性の声が聞こえる。

ドアが開くと可愛らしい女性が出てきた。

「やっほ!お父さん元気にしてる?」

近衛C

「皆さん揃って珍しい!皆さんが探してくださったユグドの薬草がかなり効いて元気にしてますよ。」

皆の顔を見て女性から笑みが零れる。

「それは良かった。お父様の顔見れる?」

ネリオは横から顔を出す。

「ネリオ!!あんたどこ行ってたのよ。帰ってきたなら帰ってきたって顔出しなよ!凄く心配したんだから!」

ユキはネリオに怒る。

「ごめんって。だから顔を出しにきたんよ。さっき帰ってきたばっかりなの。」

ネリオは説明する。

「まったく。許しません。お父さん、疲れて寝てて話は出来ないけどいい?」

ユキは皆を家に招く。

全員の体格が大きいため、護衛の法印が刻まれていてた頑丈なドアを大きく開く。

「お邪魔します。」

ぞろぞろと中に入っていく。

「2階のいつも部屋よ?私は飲み物持っていくから先に上がっててよ。」

ユキは駆け足で台所へ向かう。

「じゃあ、上いってるね。」

ネリオ達は慣れた様子で木造の階段を上がっていく。

「はーい。」

ユキは台所の中へ消えていく。

「失礼します。」

小声で部屋に入る5人。

部屋はかなり広く奥にあるベッドはキングサイズであるで王宮かのように豪華な部屋だった。

5人が部屋に入っても隊長は起きる気配は無かった。

ベッドに近づくとすやすやと眠る隊長の姿がそこにあった。

隊長の顔にある斑点はネリオが知っている時より半分ほどになっていた。

「かなり回復してますね。」

思ったより回復している事に驚くネリオ。

「だろ?」

近衛C

「ただね。ユグドの薬草で完治はしないんだ。結局時間が立てば進行するし。」

近衛A

「薬草が恐ろしく高いし数が少ないんだ。」

近衛B

「そうそう。」

近衛A

「結局はいたちごっこ。」

近衛D

「俺たちも全財産使っちゃてるしね。」

近衛B

「もう万策尽きたって感じ。」

近衛C

「そうなんだ。」

ネリオはそれでも回復した隊長の顔をみて嬉しくなる。

頑張って大冒険をした価値があったその事が嬉しかったのだ。

「でさ、2か月もお前何してたの?」

近衛C

「そうそう、急に消えたからめっちゃ心配したんやで。お前手紙一つだけ書き置かれても意味わからんからな。」

近衛D

「実はさ、あの魔女に会いにいってたんだ?」

ネリオ。

「魔女ってあの願いが叶う魔女?」

近衛A

「あれってただの噂話なんじゃ?」

近衛B

「実在するの?」

近衛C

「何それ?初めて聞いた。」

近衛D

「えっ?知らんの?北の大陸に住む魔女の話よ。」

近衛A

「結構、有名な話よな。幻の魔女の家でギルドでも見つけたら100金貨って話だよ?」

近衛C

「へーそんな話があるんだ。」

近衛D

「そうそう、その魔女に会ってきたんだ。実在したんよ。聞く?」

ネリオが少し嬉しそうに語る。

「その話、私も聞きたいな。」

ユキが皆の飲み物を持ってやってくる。

「海を越えた北大陸の最北端って感じの場所にあったよ。ユグドの森よりさらに北のオルグ山脈の山奥に実在したんだ。魔女の家が、寂れた木漏れ日が溢れる大木の根本にその家があって中々怖かったよ。そこにいくまでがまあ大変、S級クラスの怪物しかいないし、迷いの道がまぁ長い、死にかけた時にやっと見つけたんよ!ただね、見つけたってより急に目の前に現れたから自分が何処にいてどうして見つけれたのか理解してないよ。」

ネリオは、苦笑いしながら冒険譚を皆に語る。

「そうなんや。じゃ、金貨百枚は無理やな。惜しかったな。」

近衛B

「その魔女って美人さん?」

近衛D

「老婆って言葉がぴったりな不思議なおばあちゃんだったよ。」

ネリオ。

「へぇ、俺も行って会えるのかな?」

近衛A

「どうなんやろ?」

ネリオ

「海の向こうか。遠いな。」

近衛C

「北大陸なんて行った事無いしな。うちらの国って交易外交は近隣の国しか行かないもんな。」

近衛A

「コーネル王国は、内陸だし海の向こうと繋がりが無いよね。」

近衛D

「行ってみたいね。いつか全員でさ。」

近衛B

「それな。元気になった隊長と一緒に世界旅行とか良いよな。」

近衛Aは儚い夢をぼつりと伝える。

「・・・」

全員が静まりかえる。

結局の所、延命は出来たが死期が近い事実に対して変化はないのだ。

「えっと、隊長の顔も見れたし帰らない?」

しばらく続いた沈黙の後にネリオが口を開く。

短刀の話を切り出そうとしたが喉の手前で言葉が詰まってしまった。

「そうだね。お茶ありがとうね。ユキ。」

近衛C

「ご馳走様でした。」

近衛D

「よし、帰るか。」

近衛A

「はぁ、明日からまた仕事か。」

近衛C

「頑張って下さいね。お茶は机の上に置いて下さいな。」

ユキがチラッと父の顔を見てから皆の顔を見る。

「またね。」

ネリオがお辞儀をして兵舎へ皆と帰る。

「俺寄り道したいからここで曲がるね。」

大通りに出ると近衛Aが右に消えていく。

「早く帰って来いよ。」

近衛B

「俺もここで別れるは、今日、厨房担当だから買い出しに行ってくるね。おい、待てよ。買い出し手伝え。」

近衛Cが先に行く近衛Aに叫ぶ。

近衛B・D・ネリオで大通りを横切り真っすぐ帰り道を歩く。

「ふぅ、でも良かったわ。隊長がまだ生きてくれて。」

ネリオがほっと一息をつく。

「実際、お前何か得たんやろ?」

近衛Bがいきなりネリオに切り込む。

「やっぱり気付いてましたか?」

ネリオは目が大きく開く。

「気が付くわ。幼馴染を舐めるな。ただあんまり良い方法じゃないんやろ?話したくないなら話さんでええけどな。」

近衛Bは、下を向きながら小石を蹴る。

「そっかぁ、気が付くか。」

ネリオも近衛Bが蹴る小石を一緒に蹴る。

「一人であんまり抱えてるなよ。」

近衛Dも小石蹴りに参加する。

「うーん。」

悩みながらネリオは鞄から真っ赤な短刀を持ち出す。

「何それ?」

近衛B

「これが解決策?になるんかな。」

ネリオが近衛Bに短刀を渡す。

「えらい不気味な色やな。」

近衛D

「これどう使うの?」

近衛B

「隊長の血を刀に吸わせて他の心臓に突き刺すだとよ。そしたら病気がその人に移るんだってさ。終わってるよな。」

ネリオが真実を幼馴染に伝える。

重い口調になる。

「中々終わってるな。隊長は助かるけど、、か。」

近衛Bは渋い顔になる。

「その刀の対価は何を払ったの?」

近衛D

「血を吸ったこの刀の返却。」

ネリオが困った顔になる。

「とういう事は、誰かお前以外の犠牲者が一人必要なのね。多分、返却はお前にしか出来ないわ。」

近衛B

「俺が犠牲者なるで?」

近衛Dが立候補する。

「嫌、お前子供おるやん。独身の俺がやるよ。」

近衛Bが短刀をネリオに返す。

「うーん。こうなりそうだったら言いたく無かったよね。」

ネリオが苦虫をつぶした顔になる。

「最悪、そこらへんのさ、ごろつきを使うのもありだよな。」

近衛D

「それだけは、なんかやりたくないよな。」

ネリオ

「お前のそういう所、嫌いじゃないよ。よし!引き返そうで!」

近衛B

「何処に?」

近衛D

「決まってるでしょ?」

近衛B

「本気でいってるの?」

ネリオ

「思ったら即行動だろ?」

近衛B

「迷いはいらないが俺たちのモットーだもんな。」

近衛D

「本当に引き返すつもり?」

ネリオ

「もちろん。」

振り返ると一気に加速して走り出す。

近衛Bは夕方の雑踏の人込みを避けながら前へと歩む。

日差しが傾き夜の前触れを伝える。

「本当に迷いが無いですよね。先輩って、凄いと思います。」

ネリオ達はあえて先輩の近衛Bが決めた覚悟について触れずに歩みを進める。

あっという間にさっきまでいた隊長の家まできた。

「さて入るか?」

近衛D

「なんていって入れて貰う?」

ネリオ

「忘れ物だよ。ユキちゃん!!入れて!!忘れ物だ。」

近衛Bは叫ぶ。

「んつ?忘れ物?何?どうぞ!」

ユキが駆け足で扉を開ける。

「ありがとう。二階だからさ。」

近衛B

「はいよ!ついでに晩御飯食べていく?結構いい時間でしょ?」

ユキ

「俺たちのコックが晩御飯作ってくれているから遠慮します!でもユキのご飯も好きだよ?」

ネリオ

「俺は一階にいるね。」

近衛D

近衛Dはこれから起こることを直視する勇気が無かったのだ。

「はーい。二階にいってきます。」

ネリオ

「ネリオ、あれ俺にくれよ。」

近衛Bはネリオの瞳を真っすぐに見つめる。

「本当に先輩じゃなきゃだめ?」

ネリオ

「ネリオ、俺たちってさ。孤児だったわけじゃん。恩返し出来るならこの命安いだろ?」

近衛B

「そうですよね。でもこれは俺が手に入れたものなので、やっぱり俺がやりたい。」

ネリオ

「お前には約束を果たす義務があるじゃないか。違うか?よし、部屋に入ろうぜ。」

近衛B

近衛Bはネリオが鞄から取り出した短刀を力強く抜く。

真っ赤な刃が蝋燭に揺れる。

「はい。」

ネリオ

ネリオは深く溜息をつく。

「これ、隊長の血なら何でもいいんだよな?」

近衛B

「おそらく?血を吸わすとしか聞いてないから、、」

ネリオ

「隊長、失礼します。」

近衛B

近衛隊に入るだけの事があって隊長の小指にスッと刃を入れて血を滲ます。

短刀は滲み出る血をジワジワと吸い取る。

「これで準備は大丈夫かと。」

ネリオ

「なるほどな。じゃあ、俺を刺してくれないか?流石に自分で刺す勇気は無いわ。頼む。」

近衛B

「先輩、それはずるく無いですか?」

ネリオ

先輩から短刀を返される。

「以外と怖いんだわ。自分でやれると思ったんだけど。ほら、頼む。」

近衛B

渡そうとした時に自分が、短刀を握っていた手が震えている事に気が付く。

恐怖がいきなり襲ってきたのだ。

ネリオの前で目を閉じる。

「ふーっ。」

ネリオは深呼吸して気を静めるとある変化を知る。

眠っていた隊長の瞳が開いたのだ。

それだけで幸せを感じる。

それを知った時にネリオには迷いがなくなった。

鋭い刃先を己の胸に突き刺す。

「あれ?痛くない?」

確かに深く差した筈の刃が消えていたのだ。

~魔女の家~

「ふふっ。あの坊や、やったね。」

老婆の手元にネリオが突き刺した短刀が戻ってきていたのだ。

短刀の鞘にはアルーマ語で呪い移しと書かれていたが、引き抜く短刀には古代の神語で呪い払いと書かれていたのだ。

刻まれた刻印には、

『真実の愛は呪いを打ち払う。大いなる勇気は闇に打ち勝つ。無償の愛に祝福を。』

老婆は、あの坊やの覚悟を試していた。

己の命を差し出す事が呪いを打ち消す絶対条件だったわけである。

最初から教えていたら心に隙間が生まれるため老婆あえて教えなかった。

決死の覚悟を見れた老婆嬉しそうに椅子を揺らす。

お茶を口に含み、騎士の願いを味わって目を瞑る、甘い香りが鼻を抜ける。

彼らの幸せを願って短刀を机に置く。

何処か嬉しそうな笑みが老婆に零れる。

『ギギギ』

扉が開く音が聞こえる。

「すいません。。ここは魔女の家ですか?」

またお客が訪ねてくる。



第一話 完

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