第12話 先
今回の話は次へつながる中間地点的な感じです。渡たちの決意、明かされる真実…。お楽しみください。
魔王とロックス、王子と戦ったあの雨の日からおよそ二日半経った。あの戦いで民間人の被害はなかったが王が爆発の爆風で、王子は俺たちとの戦いで摩耗し意識を失っている。正直、王子の顔は見たくなかった。俺の王子のイメージはサヤラから聞いた王子とはかけ離れていて、そのギャップから信じられないでいた。
俺は戦闘後の後処理を含めて、アステルダム国の城内に残っていた。俺やデルン、ララ、葉月、サヤラは魔王を追い返したことと治療もかねて滞在することが許可されている。
あれから、サヤラは目を覚ました王の部屋へ行ったあとベッドで寝ている王子の元へ顔を出すようにしていた。サヤラになぜそこまで王子の元へ行くんだ?と聞いても笑顔を俺に見せるだけで話してくれない。
そんな朝、外は風が強く吹いており、城の窓が強く揺れていた。俺は廊下を歩いていると前からサヤラが走ってきた。
「どうしたんだ?そんな息を切らして走って」
「ナイラ王子が目を覚ましたんだよ!」
「!!?」
俺は急いでサヤラと一緒に王子の部屋へと向かった。ノックをせずにドアを勢いよく開けるとそこには眩しく日が差す窓を眺めていた王子がいた。
「できれば、ノックをしてほしかったな」
そう言って朗らかに笑う王子の顔は初対面の時よりもずっと落ち着いて優しい顔だった。俺は一瞬誰だ?と疑うほど驚いた。
「お前があの王子なのか?俺が思っていた王子と違うんだが」
「ははは、この際話しておいた方が良さそうだね。僕の正体を」
僕はこのアステルダム国のサランス王の息子として生まれた。生まれてまもない頃から父に「お前は強いと男となってこの国を率いれ!」と言われてきた。だから、僕は剣術や魔法、学力などさまざまなことで努力してきた。でも、僕が思う「強い男」と父が思う「強い男」は違った。父は僕に「お前はお人好しすぎるんだ!そのままだと隙が生まれてしまう。だからもっと強さを出せ!」と言われる。それ以来僕は父の前では父が思う「強い男」を演じてきた。いわば、僕は父のいいなりになっていたんだ。父が思ったことは否定せず、実行して父の言ったことには絶対従う。僕の心の底ではこんなことしていていいのだろうか?と思うようになってきた。このまま父の思う「強い男」を演じても……。僕はそれが嫌になった。でもそのことは父に言えるはずもない。だから、僕は行動で示そうと思ったんだ。あの魔族との戦闘の時、僕は初めて父の前で人を助けた。その時思ったんだ、「僕は人助けができるような人間になりたい」と。
「これが僕の正体だ。憎むなら憎んでくれてもいい。僕はそれだけのことをしてきたんだから」
「そんなことない!」
「……!」
俺は咄嗟に口が開いてしまい、気づけば王子の言葉を否定していた。
「初対面の時俺はお前のことが嫌いだった。悪い噂も絶えず、勝手なこともしていたとか。でも、今回の話を聞いてまでもお前を嫌っているほど野暮じゃない。お前の行動は間違っていないと言ったら嘘になってしまうが、でも、お前はそれほど追い詰められていたんだ。俺は気にしない」
俺は王子が言った言葉に心が痛み、フォローするかの言葉を投げた。王子は俺の言葉を聞くと瞳には涙が浮かんでいた。
「渡くんが言ってる通りだよ。ナイラ王子は悪いことをしたけど、それはあなたのせいではないよ。なによりナイラ王子はあのとき私を助けてくれたではないですか。あのおかげで私はここに立てています。ナイラ王子にはすごく感謝しています!」
サヤラも俺と同調して王子に優しい言葉を投げかける。王子に一番助けられたのはサヤラだから思うこともあるのだろう。
「ありがとう……。僕は君たちに酷いことしたしまった。でも、君の言葉を聞けて心が少し楽になったよ。そして、突然お願いがあるんだけど、僕と『友達』になってくれないかい?」
王子のお願いに俺とサヤラは互いにポカンとした顔を見合い、笑顔で
「いいぜ」「いいよ」
と言った。王子も笑顔で返す。
「ありがとう!サヤラ、渡君!」
さっきまで外に吹いていた強い風はおさまり、廊下にガタガタ鳴り響いていた窓が揺れる音はなくなっていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
王や王子が起きてから俺はギルドメンバーとララ、サヤラを部屋に招きこれからのことを話した。
「俺はこれまでの戦いで星剣、自らの力がまだまだ魔王には及ばないことを痛感した」
「私も同じよ。渡たちの戦いを見てて思った。私たちのトランジェスタも聞いてなかったし」
「私もそうです。自分の力不足でナイラ王子やお父様など大切な人を守れてこれなかった」
頷きながらデルンとララの方を見ると拳を力強く握っていた。デルンもララも俺たちと同じことを感じているのだろう。
部屋全体が暗い空気に包まれる。俺がみんなをここに呼んだのはあることを提案したいからだ。
「俺考えたんだ。星剣を集めるため、自分を強化するために『冒険』に出ようって」
「『冒険』?旅に出るってことか?」
「そうだ。そうすれば色々な経験も積めて来るべき魔王との戦いでも前みたいなヘマはもうしないと思うんだ」
俺の提案を聞いて、場の空気は一気に明るくなる。葉月もララも笑顔で頷く。
「私もその案に賛成です!私もお父様を説得して一緒に旅に出れるようにします」
「大丈夫なのか?サヤラは王女なんだから、そう簡単に行かせてはくれないのではないか?」
「大丈夫っ!私に任せて!」
サヤラは自信満々に腕を上げている。俺は久しぶりに嬉しそうなサヤラをみれてなんだか安心した気持ちになった。
「私はステラ国の警備をしないといけないからギルドには参加できない。でも、また力を貸してほしい時は言ってくれ!君は命の恩人だからな。それなりの恩返しはさせてくれ」
ララはギルドに参加できないが困った時はサポートしてくれるようだ。ララは一応ステラ軍の騎士団団長だからな。旅になんて出ている暇はない。
「ちなみに、冒険に出るってどのようなことをするのですか?」
「それはずばり、『星剣集め』だ!」
「星剣あつ、め?」
葉月の顔にははてなマークが出ているようだった。
「デルンが前言ってただろ。この星剣は七つ集めると本来の力を取り戻すって。だから、俺たちは残っている星剣を集めて本来の星剣にする。それが俺の目的だ」
「そうなんですね。私は渡の行動に賛成です。私も魔王に敵わなかった身ですから自分を強化するためにも星剣集めの旅に出たいです」
葉月も俺の意見に賛同した。みんなの目を見るとやる気に満ち溢れているようだった。魔王討伐。それが俺たちの目標。その目標に向かう第一歩を俺たちは踏み出した。
旅出発の日、アステルダム国の関門にいると後ろから肩を叩かれた。後ろを振り返ると、そこには腕に包帯を巻いたナイラがいた。その横にはララもいた。
「どうしているんだ?」
「冷たいなぁ。サヤラから聞いたんだ。渡君が旅に出るから見送ってあげてくれないかって」
「お前ってほんといいやつだよな。俺が女だったら惚れてるぞ」
「渡君に惚れられるのは……」
「おい」
ナイラが腹を抱えてゲラゲラ笑う。俺もそれを見て笑ってしまう。ナイラって結構面白いやつなのかもしれないと思った。
「ついに旅に出るんだな。君は魔王と戦った男だ。自分に自信を持っていけよ!」
「もちろんだ!ララにら色々助けられた。ララもエターナルを使いこなせるように頑張って!」
「言われなくても頑張るさ!」
ララは笑顔で返す。ララの顔を見るのがこれで少しお預けになると考えると心にくるものがある。あのときララに助けられてなければ今ここに俺はいなかった。その感謝を俺は忘れない。
「渡ー!お待たせー!」
後ろから手を大きく振った葉月が現れる。その後ろには今まで見たことない人がいた。近づいてきて俺はその正体に驚いた。
「渡ー見て!このデルンの衣装可愛いでしょ?」
そう、それはメイド服を着たデルンだった。デルンの着るメイド服はすごく似合っていて落ち着いていた。白黒の王道メイド服、頭には白のホワイトブリムが付けられていて彩られていた。
「渡どう……ですか……?似合ってますか……?」
デルンが小声で恥ずかしそうに言ってくる。俺は咄嗟に返事をする。
「も、もちろん!デルンは何を着ても似合うなー!」
「ほ、ほんとうですか!ならよかったです……」
デルンの目は先ほどよりも輝いていて嬉しそうだった。
「デルンちゃんなかなか似合うね!」
「あなたには聞いてません」
「冷たいなぁ」
ナイラがデルンのメイド服を褒めるとデルンは冷たく返す。きっとナイラの心は涙の海になっているだろう。
「さて、あとはサヤラだけだが、本当に説得できたのか?」
そう言っていると後ろから足音がした。後ろを振り向くと横に流れる風と共にサヤラが仁王立ちしていた。
「待たせましたね。なんとかお父様を説得して行けるようになりました!」
「そうなのか。何か言われなかったのか?」
「いや、お父様が『可愛い子には旅をさせよう!』って言っていました」
「それは異世界も共通なのか」
サヤラは首を傾げている。まぁでも行けるならいいか。
「あ、あと『渡君、サヤラを頼んだよ』って目を光らせて言ってましたね」
あの王からも頼られている。サヤラを今度こそ守ってみせる。いや、ここにいるみんなを俺が守ってあげないと!
「ならサヤラさんもギルドメンバー誘っとくね!」
「あ、ありがとう!あと、さん付けじゃなくていいよ……。同じギルドメンバーなんだし」
「それもそうだね!じゃあサヤラっちってのどうだろう?」
サヤラは葉月の名付けたあだ名を聞くと嬉しそうな表情を見せた。ギルドカードを見るとサヤラは防御を得意とするディフェンス魔法の属性を持っていた。結構バランスが整った。
「改めて。サヤラ、君をここのギルドメンバーに向かい入れる!これからよろしく!」
みんなが拍手をしてサヤラをメンバーに向かい入れる。サヤラはなんだか照れているようだった。
「よしみんな揃ったな!それじゃ出発だ!」
俺たちの星剣を集める冒険は今幕を開けた!
☆★☆
「早くよこせ!その星剣を!」
「ダメだ!ここでは渡してたまるか!」
黒い雲の下で双方共に激しい戦闘を繰り広げる。
「『アクアブレード』ッ!」
「『ダークネスライザー』!」
お互いの攻撃はぶつかり合い凄まじい爆風が襲う。砂煙が上がっている中でも互いに攻撃を続け合う。樋鳴りが建物中で鳴り響く。残像を残し合いながら戦う。
「これで終わりだー!『アクアストリーム』ッッ!」
「そうくるか……。なら『ダークネスバースト』!」
互いに力を溜め込んだ一振りが剣の芯を通って刻まれる。周りには爆音と共に水の渦ができて行く。
「これでもう……」
「ーー!甘いな」
「ーーーー!!」
外で降っている強烈な雨が建物を襲う。雨粒が建物に反射して行く音だけが残った。
お読みいただきありがとうございます。今回の話で第1章転生編を終わりにしたいと思います。次の話からは第2章となります。乞うご期待。




