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1「ウミガメのスープ・テスト」

道徳の授業でさ、


みんなと違う意見を答えてたのが紡麦

野球選手かなんかが怪我をして、リハビリを頑張って、

「俺には野球しかないんだ」みたいなことを言って

最終的にまたプレーできるようになるみたいな

そんな、”感動的な話”だったんだけど。


「野球しかない、わけ無くない?」



大ブーイングである

穏健派 「この選手にとってはそうだったんじゃないかな」

運動部 「スポーツしかねえんだよ!」

DQN 「そりゃおめえたちはアホだもんな」

ギャハハ んだとー



いや待て、割といい意見じゃない?と私は思ってた

そんな黙っちゃわなくていいのに

この人にだって家族がいて、激しい運動はできないかもしれないけど、五体満足で生きていけるんだから、美味しいものでも食べて、テレビ見て…それでもダメじゃないじゃない




素直な子だな あれ?てか、あの場で味方すればよかった。


その日から紡麦は

あんまり喋らないクラスメイトじゃなくて、気になる子、になった。


琴吹紡麦(ことぶきつむぎ)さん、さっきの道徳の話、しましょ?」

道徳の話をしよう、と言ったのは初めてかもしれない。

しかもそれまで話したことがなかったクラスメイトに対するファーストコミュニケーションがそれでいいのか。別にいいか。

「あっえっと…」

そもそも紡麦は私の名前すら知らなそうだ。

「あ、私は栄万智(さかえまち)だよ、よろしくね」

「うん、よろしく…なんで、私に話ししにきたの(ゴニョゴニョとした声)ですか」


「紡麦さんの意見、私いいと思ったんだけど、クラスの雰囲気がアウェーすぎてかわいそーだなーと思って」


紡麦の顔は驚いたようで、嬉しいようなそんな顔だった——それは別に意外ではなかったが、その後に続く言葉は想像の外だった。


「へへ、()()()()()だ。」


「栄さんは私と同じ意見持つとちょっと思ってた。」

「私のこと知ってたの?」


「いや、別にクラスメイトの一人という以上のことは、ただ。まあ、なんというんですか、イマジナリークラスメイト的な」

「イマジナリー私が?いるの?あなたの想像上に?」

「友達が少なくて、趣味が人間観察の、厨二病なもんで」

「コテコテだぁ」


話したことがないクラスメイトの意外な一面を知れて喜ばしい限りと言いたいが、私の場合、そこそこ有名な自覚があるんだよなあ。




中学、三年連続全教科満点の首席が、たいしたことない高校に入学して、高校に入ってからたいしたことない点数をとっているって——


「——噂。あってるんだ?」

「中学三年の期末からたいしたことない点数だったよ。それにしてもよく知ってるね」

「面白い噂は創作の肥やしになるからね」


「へえー!紡麦さん。創作してるんだ!小説とか書くの?だから道徳の授業でいい意見言うんだなあ、感受性が高いんだねえ」


ああやだなあ、こういう言い方は偏見だけど、あんまり友達居なそうな子だし昔の私知らないと思って話しかけたんだけどなあ。


別に何か特別な理由があるわけじゃない。

勉強が特別好きじゃないのに、テストで点を取る才能があっただけ。

なりたいものになれる才能があると言われて、

本当は怠けていたいから。怠けていたいと言っただけ。悪い?


親からは後悔すると煽られ、

先生からは勿体無いと残念がられ、

友達からは見下していると避けられる。


「私のっ価値は!テストの点数しかないのか???そんなわけないだろ!!」


そんなふうに怒鳴り散らした黒歴史を知らない人とお友達になりたかったんだけどなあ


「テストの話するのは嫌?なんか話、逸らしてるみたい。」

「いや別にそんなことはないけど」


「…ふーん。じゃあ、言いたいこと言うけど、なんか勿体無いなあと思ってね」

あーあこの子も同じか、口を開けば勿体無いとかなんとか。私の勝手だろ。


「380点って。()()()()()()()()()()()()()()。」

「…惜しいって何が?」

「あ、これじゃあウミガメのスープね。なぜ残念なのでしょう。」




……ああそういうことね。ということは



「紡麦さんはそれ本当にやったらどう思う?」

「は?超面白いでしょ。」

「ずるいとか馬鹿にしてるとか、思わない?」

「そんなの勝手でしょ。私はちょっとやろうと思ってもできないけど」

「テストって、義務教育ってわけじゃなくても、そんな蔑ろにしていいもんじゃないっていうか、人生がかかってるんだよ?」

「私は面白さのために人生をかける。」

はは

その日から紡麦は私の——


期末テスト週間は久しぶりに()()をした。今までは別に一回聞けばそれなりの点数は取れるし、なんなら簡単過ぎたらあえて空欄にしたりした。だけど今回のテストは適当にはできない。


ウミガメのスープ


クラスメイトが私の380点というテストの点数を聞いて残念がりました。

なぜでしょう。


Qそのクラスメイトの点数は380点以下でしたか。

Y E S だが別に負けて悔しかったではない。


Qその380点という点数は偏差値的には普通?

Y E S とはいえ、200人中50位くらいそこそこ良い。


Qそのテストの点数は5教科の合計点ですか?

Y E S 1教科100点満点5教科の合計点数(この学校のこの学年の場合)。


Q「私」の点数がもっと高いはずだと思った?

N O 私の成績の良さはどうでもいい。


Qあと一点高ければ、というのは平均点がもう一点高ければ、という意味ですか?

Y E S


つまりこういうこと。

国77数77理77社77英77


合計 385点

エウレーカってことだね。


期末テストが返却され、合計点数が出て担任の先生に「まさかわざとじゃないよね」と聞かれた。細い点数の紙を渡されながら私は当然のように答えた。

「まさか、どうやるっていうんですか。」



「基本的に2点か5点配点でね。調整に部分点を駆使する方法が有効だったね。

最後の大問が20点だからそこまで時間が足りなかったていを装えば楽だったんだけど、マイナス3点を作るのが微妙だったからあえてケアレスミスを作ったり、露骨な点数調整は美しくないから、簡単な問題をあえて解かないとかはせず—結構大変だったんだ。だから気づいたのは担任だけじゃないかな。」

「キモ。」


ええー辛辣。しかも短すぎる。


「でもすごい。面白いね。」

「よかった面白いって言ってくれた。」

「…なんでやったのか聞いてもいい?」


「ウミガメのスープ」

「私と友達になりたかったからですか?」

「そうです。」


その日から栄万智と琴吹紡麦は、気になる子、からお友達になった。


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