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気綴譚-キソウタン-

パーティから追放されそうになったので勇者に泣いて縋った結果

作者: 指令官

「おい、お荷物野郎。今日限りでお前をパーティから追放する!」

「えーーー!!!!??」


 とある居酒屋の一角で、勇者から告げられたこの一言に男は絶叫した。


「嘘でしょ勇者ちん!ここまで一緒にやってきた仲でしょお!!?」


 男はべしょべしょ泣きながら勇者に抱き着いてきたので、勇者は男の顔面を押しのける。


「キメェ!鬱陶しい!!離れろこのお荷物が!!!!」


 簡単に引きはがされてしまった男は、それでもみっともなく勇者に縋りつく。


「僕のどこがいけなかったんですか!!?荷物としてしっかり仕事してたでしょう!!?」

「あぁそうだな完璧なまでに荷物としてしっかり仕事してたな。戦闘に出るわけでもなく、味方のサポートをするでもなく、疲れれば誰かに背負ってもらう立派な荷物だったなお前は!ちなみにお前を追放することにお前以外の全員が賛成している」

「えええ皆同じ意見なの!?嘘でしょ!?」


 勇者の一存で決まったことだと思っていた男は、他のパーティメンバーも自身の追放を望んでいることに衝撃を隠せなかった。


「ねぇ嘘でしょ魔術師ちゃん!」

 男の隣に座っていた魔術師に声をかけるが、魔術師は真顔で「嘘じゃないわよ」と素っ気なく答えた。

「っていうか荷物が喋ってんじゃねーよ」

「辛辣!!す、スナイパーちゃんは!?」

 男に声をかけられたスナイパーは、のほほんとした笑顔を男に向ける。

「魔物が出るたびにあなたが騒ぐので(さわいでんじゃねぇよ)。魔物さんもつられて(あばれて)元気になって(ねらいがさだまら)いましたね(ねぇだろカス)

「なぜだろう!?言葉のうちに隠された本音が透けてる!タンクちゃん!助けて!」

「我が守るものは価値ある者と物だけだ」

「そ、そういえばタンクちゃんに守ってもらった試しがない!斥候ちゃん!」

「いらない荷物をいつまでも取っておく趣味は無いかな~」

「オブラートにすら包んでもらえない!ヒーラーちゃん……」

「す、すみません……あの、臭いので近寄らないでくれますか……?」

「スメルハラスメント!!」


 メンバー全員から貰った拒絶の言葉。それらに嘘や偽りは見出せず、本気で自分はこのパーティに必要の無い存在なんだと突き付けられ、男はわなわなと震えた。


 そんな男を尻目に、勇者が口を開いた。

「というわけだ。もう一度言う。今日限りでお前をこのパーティから追放「わー!」……追ほ「わー!!」つ「わー!!わーわーわー!!!!」言葉を遮るんじゃねぇ!」


 パーティから追放されることを受け入れたくない男は、醜い行動を容易く行う。


「ご所望とあらば靴でも舐めます!!ベロベロベロ……」

「汚ぇやめろ!!踏まれてぇのか!!」

「それをお望みなら喜んで!!」

「クッ……!プライドを捨てた奴は逆に強ぇ!!」


 勇者が足を退けるも、パーティにしがみついていたい男は行動をやめない。そのまま地に両手を付き床をベロベロ舐める生物と成り果てる。言葉を撤回するか力づくでどうにかしない限りはこのままだろう。メンバー全員が顔を引きつらせている。勇者は思わず溜め息をついた。


「くそ……。良い交渉役としてパーティに引き入れたってのに、とんだ爆弾だぜ」

「どうすんのこの妖怪。勇者としてこのまま放っておくわけにもいかないでしょ?」

「口を上手く使って別の人にパラサイトする未来が見えるよね~」


 魔術師は勇者に判断を仰ぎ、斥候は男の奇行を見つめながら可能性を示唆する。


 しばらく腕を組んで考えていた勇者だが、やがて長い溜め息をつきながら頭を掻いた。


「仕方ねぇなぁ。オラ、ついてこい。仕事行くぞ」


 その言葉は、床を舐めていた妖怪(おとこ)に向けられている。男は床舐めを辞め、瞬時に立ち上がった。


「流石勇者様!一生ついていきます!!」




   ***




 そして男は逃げ出そうとし、勇者に首根っこを掴まれた。


「どうした?一生ついてくるんじゃなかったのか?」


 勇者に問われ、男は軽率な自分の言動を少し後悔した。


 草木一本生えない山。地面は禍々しい色の赤土で、頭上は分厚い黒い雲。ぴしゃりと鳴った雷が照らすのは、目の前にそびえる厳つい城……。


彼らは今、魔王城の前に立っていた。


 勇者と共に行動を共にするということは、いつかはこの日を迎えるのだとは当然思っていた。思っていたが、その日がまさか今日になると男は思っていなかった。


「い、いや~……。ま、まさか魔王城までやってくるとはハハ……。こういうのって、レベルが80くらい上がってから来る場所だと思ってましたよ。れ、レベル30前後の我々がこの地に足を踏み入れるなんて……」


 完全にへっぴり腰になっている男だが、勇者は構わず魔王城へと足を向ける。


「嫌なら置いていくぞ。この辺、夜になると魔物が出るけどな」

「もう夕方じゃん!」


 中へ入るのも怖いが、外で待っていても魔物に襲われるだけ。男は勇者にへばりつきながら魔王城へと入る。



 重厚な扉を開ければ、広いエントランスが広がっている。その奥中央に、魔王は待ち構えていた。最奥の部屋にいると思っていたのだが、この魔王はそんな小賢しいことをするタイプではなかったようだ。

 立派な角を携えた、巨体の魔王。存在だけで威圧をしてくる。


「よく来たな、勇者よ」


 その声は地を這うようにビリビリと胃の奥まで響いた。戦闘経験の無い男は、それだけで体が動かなくなる。


――その瞬間を、勇者達は見逃さなかった。


「――今だ!!」


 勇者が叫ぶと、斥候とタンクが懐から縄を取り出し、手早く男を縛り上げた。成す術もなく芋虫のようにグルグル巻きにされた男は、そのまま魔王の方へと放り込まれる。


「へっ?」


 間抜けな声を上げながら後ろを向けば、魔術師が転移魔法を男を除いたパーティメンバーにかけていた。


「後は任せた」


 勇者が男に言うと、男が行動を起こす前に転移魔法で消えてしまった。


「フザケンな勇者ァァァ!!」


 男の渾身の叫びは、当然勇者達には届かなかった。



 背後からカツリと音がする。はっとして振り向けば、魔王が悠然と近づいてきている。


「仲間に捨てられるとは、可哀相な奴よのぅ」


 くつくつと笑う魔王。きっと、魔王の手にかかってしまえば、男なんて息をするように息の根を止めることができるだろう。


(――いやだ、死にたくない……殉職なんてしたくない……!!僕は、可愛い女の子と余生を過ごしながら死ぬのが夢なんだ――!!)


 気付けば、男は魔王に対して言葉を投げかけていた。


「魔王様、僕はたった今、人間を見限りました。是非とも魔王様の配下にしてください!!人間の見た目なら、人間の世界に溶け込むことができますでしょう?魔王様のスパイとして、人間界に溶け込むことなど造作もないこと。この力を駆使して、魔王様のお力になれましょう!!」


 男の言葉に、魔王の動きが止まる。魔物は、たとえ人型であろうとも魔のオーラで人外だとバレてしまう。男の言葉は多少なりとも魅力的であった。

 そして魔王は、勇者に捨てられたこの男を目の前で見ていた。一連の流れを全て見ていた。男が人間を見限ったという言葉の裏付けとなる光景をしっかりと見ていた。


「ふむ……一理あるな。いいだろう。お前を今日から魔王軍の一員として扱おう」

「ありがとうございます!一生ついていきます魔王様!!」




 ……その後、男のあまりの使えなさに魔王が頭を抱えることになるのだが、この時の魔王はまだ知らない……。





お読みいただきありがとうございました。

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