推しが被った場合
何となく僕と友人は駅前の通りを歩く。人がガヤガヤと騒いでいる中、僕たちはその人達とは対照的に静かに歩く。……すると、友人から「あそうだ」と話しかけてくる。
「ん?」
と僕は友人に顔を向ける。彼は歩きながらスマホを操作していた。
──顔がニヤニヤしているけど……何だろうか。
内心思っていると、「見てこれ」と自分の画面を見せてきた。その画面には友人の推しであるという、〈黒長碧〉の姿が映し出されていた。顔つきは子どもっぽいあどけなさが残っていた。
「その人がどうかしたん?」
と訊いてみる。大した反応はないと思うけど、一応訊いてみる。
「……かわいいでしょ?」
──ほらやっぱり大したことない。でもまあ、一応付き合ってはみるか……。
内心溜息交じりに僕は彼が示してくる画像を一瞥する。確かにかわいいし、僕のタイプ──色白で丸顔をした女性が好み──であったし、推しでもある。
「かわいいね」
「なっ」
「僕のタイプ」
「……あ?」
と友人が睨め上げてきた。
──怖いんですけど。
「……殺すぞ」
──怖い怖い……。推しが被っているからって殺そうとしているんですけど……。
「ここここ……殺さないで……」
と少し上ずらせて言うと、友人はプッと一息で笑う。その後、街中に彼の大笑いが響いた。
「推しが被ったからってそう簡単に殺さないよ」
「ホッ……」
友人のおどけた態度を見て、ついホッとした態度が言葉に出てしまう。そんな彼を見た後、僕たちは街中を歩いた。
だが暫くして──。
「やっぱ無理」
「はっ?」
そう思った否や──友人はどこからか出してきた武器を片手に、僕を斬り付けようとしてきた。と同時に、某RPGの音楽が僕の脳内に響き渡った。
──すぐ近くにある商店街で流れる音楽と一緒に。




