文化祭のメイド喫茶
こんなにも卑猥なメイドは、せいぜい漫画かゲームの中でしかお目にかかれないだろう。
「菅間クン、この服……どうかな? エッチかな? エッチだよね? ね?」
とても真っ直ぐな剛速球クエスチョンと共に、彼女の照れくさそうな笑顔が、俺のコンニャクみたいな柔らかいハートをダイレクトに鷲掴みしていく。クラスの上から数えた方が早いくらい可愛い女子がメイド服を着ているのだ。今だけはNOと言えない日本人が誇らしい。
「全然エッチじゃないと思います。健全です」
「じゃあ、文化祭のメイド喫茶の服はコレで決まりね」
「ダメです」
NOと言えない日本人とはココでおさらば。良い物はハッキリと良い、ダメな物はハッキリとNOを突きつける。それが現代日本人だ。
「どうしてかな?」
「……」
当然言葉に詰まる。その様にエッチな服を着たメイドさんが給仕して良い訳がない。ましてや文化祭の出し物だ、中には危険思想の持ち主も居るだろう。君主危うきに近寄らず、であるからして──。
「どうしてかな?」
「……すごく、エッチだからです」
「あれ? さっきは全然エッチじゃないって言ってなかった?」
「いや、その……えーっと」
と、俺の中に住まう全てをうやむやにする日本人が『やあ』と声をかけてきた。彼とは気が合いそうだ。すぐにウエルカムの握手をした。
「……服はエッチじゃないけれど、着ているメイドさんがエッチだからです」
「服を変えたら良いの?」
服を変えてもメイド喫茶自体がいやらしいだろう。
そもそも俺はメイド喫茶の案が出た時点で嫌な予感しかしなかったし、彼女がメイドに選ばれるのはありありと手に取るように分かっていたし、何を着ても似合っているのだから、出来ることならクラスの出し物はメダカの生態発表会くらいにして欲しかった。
「その服は買いま……しょう」
俺の心の中に住まう『ほぉら、明るくなったろう?』のオジサンが、にんまりと笑った。バイト代が入ったばかりだ。オジサン何でもこうたるぞい。
「服がダメなのに買うの?」
「いや、その……服はダメじゃないですね、はい」
「ならどうして?」
「……その服は……その……また今度……その……ウチで……」
「菅間クンの家で? どうするの?」
「こ、個人的御給仕を……」
言えた。今、俺はありのままの欲望を伝えることに成功した。これは人類にとって大いなる一歩である。by菅間宏明。
「菅間クンってこういう服が好きなの?」
「いや、好きと言いますか……その……それを着ているあなたがとても……」
「とても?」
「好きでふ」
言えなかった。今、俺はありのままの欲望を伝えることに失敗した。これは人類の歴史を100年遅らせる痛恨の失敗である。by菅間宏明。
「この服のどういう所が好きなの? 聞かせてよ」
彼女は意地悪そうに微笑んで、その場でクルリと一回りした。
「胸の上部が露わになっているところです」
「胸が好きなの?」
柔らかい指先が、彼女の胸の上へと置かれた。世の中は低反発枕で溢れているが、彼女の胸はそれ以上に安眠を約束してくれるに違いない。彼女の胸に比べれば、ト〇ルース〇ーパーはコンクリートだ。
「半分近く出てるし、それは反則なのでは……」
「気になる?」
と、彼女はその指をメイド服の境目へと引っかけ始めた。少し浮けば世界の神秘が解き明かされる、その瞬間に立ち会えたことを誇りに思う。
「見たい?」
「見たくないと言えば嘘になります」
「ハッキリ言って?」
「ガン見したいです」
「♪」
俺の言葉に満足したのか彼女はすぐに指を外し、更衣室へと戻ってしまった。世界の神秘が明かされるのはまだ先の事らしい。
「菅間クンはどんなメイド服が良いと思う?」
「あまり過激ではない、つまるところ露出の少ない物が宜しいかと」
「どうして?」
「他校の生徒が多く紛れる文化祭であまり注目されて欲しくない訳でして……」
「どうして?」
「その……えっと……」
「ハッキリ言って」
「他の男に性的な目で見られたくないです」
「♪」
彼女はとっても満足した顔で、他にある服へと手を伸ばし始めた。
「こんなのは?」
「ダメです」
古き良きブルマーとやらに一切の許可をしない。
「これは?」
「なりません」
ナース服を一刀両断。
「こっちのは?」
「もってのほかです」
スク水を条件反射にて粉砕。
「じゃあ、選んでよ」
「これ」
御清楚なるロングスカートを手に取って見せた。
「じゃあそれ」
「あとこれとこれとそれとあれとこれも」
メイドブルマーナーススク水チャイナをカゴへ入れ、レジへと旅立つ。
「お会計15万3580円です」
「カードで」
バイト代の三ヶ月分がコスプレで吹き飛んだが、僕は元気です。
「……じゃあ、今から菅間クンの家でお披露目会しよう♪」
個人的御給仕が始まる。